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第62話 新人(4)

 彼と話していて、気がついたことがあった。

――こいつは、さびしかったのだ!――

寂しくて、悲しくて、せつなくて…どうしようもなかったのだ。

 さみしさを隠すために、強がって、ワルぶっていたのだろう。

俺にも、その気持ちは、よくわかる!

俺も、妹のユリを亡くしてしまって、ひとりぼっちになったときに、ひどくグレてしまったからね…。

まぁ、今では、恥ずかしい話だ。

それと、同じだろう。

たったひとりで、この世界に飛ばされて、訳がわからなかっただろう。

まして、身寄りもないのだから…。

しかも、まだ15才の思春期の少年たった。

もしかすると、その苦労は、俺のとき以上たったに違いない。

「ほんと、よく頑張ったな!」

と、言ってあげたい。


 …そして、橘さんに助けられたようだ。


 ―――賢司は、橘を父親のように、感じた。

それは、仕方がないこと。

まだ15才の彼に、この現実は、重く…苦しく…厳しすぎる。

年上の誰かに、頼りたくなる気持ちは、十分に理解できる。

 しかし、賢司は…

真面目だった。

愚直だった。

橘に、ただ頼ればいい…ということが、出来なかった。

 ――恩返しがしたかった。

助けてくれた橘の力になりたい。

しかし、この世界は、「弱肉強食」。

…いや。

元の世界でも弱肉強食だった。

速いヤツが認められる世界。

根本的なことは、変わらない。

しかも、この世界の弱肉強食は、「意味」が…ほんとうの意味が「ほんとうの弱肉強食」だった。

強いヤツが生き残る世界。

弱いヤツには、明日がない世界。

…でも、賢司は、今まで争い事…戦闘……命の駆け引き…なんて、したことがなかった。

 ふつうの現代日本人ならば、あたりまえのことだ。

賢司は、趣味でいろんな分野のマンガをたしなんでいた。

その中には、異世界モノもあったが……

やはり、マンガはマンガだった。

現実は、違う!

現実は、キビしく、残酷だった。

違う世界に放り出された人間が、突然、戦士に…超人に……ヒーローになれるはずがなかった。

賢司は、身の程を知った。

 しかも、橘は、伝説の武神として。その知名度がハンパじゃなかった。

まだ、自分の力では、ムリだ!

役に立てない!

足手まといだ!

と、考えてしまっていた。

……自己否定のように……

 そして、橘の元を離れて、自分の力を磨こうと、この育成部隊に入隊した。

もちろん、ここには、友と呼べる存在がいなかった。

まぁ、そうだろう。

ここは、エリート部隊を目指す者の集まり。

いえば、まわりは、すべてライバルだ。

馴れ合う関係では、なかった。

まぁ、それでも、少しだけでも…心を許して他人と接していれば、まわりとの関係は、少しは、違っていたかもしれないが…

賢司は、できなかった。

ただ…ひたすらに、橘に追いつこうと…

追いつこうと…ひたすらに、頑張ってきた。

 芯の強い男だ。

孤独感に耐えて、ただひたすらに走ってきた。

そんな、精神力も、長距離ランナーだった彼だからこそ、持ち得た強さだろう。


 しかし、そんな彼の日常は、終わりを告げる。

ホークという、自分と同じ境遇の日本人が現れたのだ。


 ―――賢司は、訓練の最中、自分に向けられた視線を感じていた。

自分は、こんな風だから…敵が多い…ということは、百も承知していた。

そして、訓練を終えた自分の前に、ソイツが現れた。

賢司は、悟っていた。

「こいつは、強い! 今の自分では、まるでかなわない!」

…しかし、こいつの目的がわからない。

自分に対する敵意の意味が…?


 その男が、話しかけてきた。

自分の素性を知られている。

こっちは、相手のことを、何ひとつ知らない。

(これは、マズいぞ!)

防衛本能が告げていた。

…が、しかし…

ちょっと、違うかも?

そう思ったのは、ソイツを間近で感じたからだ。

――間違いなく、日本人――

歳は、自分より、少し上くらいか?

賢司には、4つ上の兄がいた。

その兄と、同じくらいだろう。

しかし、兄とは違って、こいつからは、ものすごいプレッシャーを感じる。

どう見ても、シロウトではない!

身の丈は、185センチを越える長身だった。

自分の目線より、はるか上である。

髪の毛は、日本人らしく、真っ黒で短髪。

モロに、体育会系だ。

表情は、オーラとは裏腹に、優しい感じがする。

けっこうなイケメンだった。

表現するならば「ケンシロウ」タイプ。

間違っても、ジャニーズ系ではない。

男には、モテるタイプ。

女には、…どうかな?

 体格は、戦士そのものと、見てとれる。

かなり、鍛えあげられた肉体だった。

(自分が勝てるはずがない…。)

と、思ったが、

ここで「イモ引く」わけには、いかない!

できるだけ、強がった!

……が、あっさりと…

「スカウトにきた。」

と、ホークと名乗る男が言った。

自分は、いささか戸惑った。

(スカウトって、なんの?)


 俺は、賢司の話しを、ただ黙って聞いていた。

初対面のときから、うって変わって、けっこうおしゃべりなやつだった。

…いや。違うな。

うれしいのだろう。

久しぶりに会う同じ日本人。

しかも、歳も近い。

賢司には、兄貴がいると、言っていたので、ちょうど俺が、兄貴みたいに感じるのだろう。

悪い気は、しない。


 もっと、話しを聞いてあげたいが、そろそろ時間も遅くなってきた。

訓練生は、寮生活なので、心配していたけど、問題ないのかなぁ?

聞いてみる。

「おいっ。ところで時間は、いいのか?」

その答えには、驚いた。

すぐに、寮を出て、今日から俺のところに来る…と、言い出した。

「えっ? そんな簡単に…いいのか?」

「別に、大丈夫ですよ。」

と。

…いいらしい。

もともと寮生活だったし、私物もほとんどない…とのことだった。

そこは、納得できる。

では、問題あるまい。

俺も、即断即決派だから。


「じゃあ、行くか!」

「はい。」


 その前に、ちゃんと、責任者の方々には、連絡しないとね。

誘拐犯には、なりたくない(笑)。

…と、まぁ、冗談は、置いておいて…

「ホウ・レン・ソウ」は、しっかりと。

大人の基本だ。


 …で、寮まで、賢司について行く。

俺が、部隊長さんに、あいさつしている間に、賢司は、「準備をしてきます。」と言って、部屋へ戻った。

部隊長さんも、あっさりと認めてくれて

「やつをよろしく頼む。一人前にしてやってくれ!」

と、託された。

いい部隊長さんだった。


「お世話になりました。」

賢司は、笑顔で出発したのだった。







 お疲れさまでした。ホーク。

賢司の話しを、聞いてあげて、共感するところも、いっぱいあるみたいだね。

賢司も、大変だったんだよ。

15才の若さで、いきなりひとりぼっち。

しかも、異世界。

ふつうだったら、即「デモンズ」入会だね。

でも、賢司は、頑張った。

橘に恩返しをしたくて…。

だからこそ、橘も賢司のことを、ずっと、気にかけてきたのだろうね。

 話しは、変わるけど、賢司も、すっかり馴染みそうですね~。

ホークに対しては、ジャニーズ系じゃない!

と、はっきり思ったようです。

まぁ、ほんとうのことだけど…笑。

でも、ケンシロウタイプだから、賢司も、ホークに対して、心を寄せたんだよね~。

男の子同士…似た者同士…オタク同士

仲良くなれるんだね。

では、次回は、ふたりで第6部隊に戻りましょう。

行きは、よいよい…帰りは……。

お楽しみに。

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