第61話 新人(3)
PM3:00 訓練が終わったみたいだ。
さてと…交渉のお時間ですね。
交渉は、お手のもの。
任務でも、テロリストどもを相手に、おだやかな話し合いで~その場を沈黙……。
…全滅させたな。
(ふっ。)
あれ以降、俺には、交渉させてくれなかったなぁ~隊長は……。
まぁ、過去のことは、もういい。
大切なことは、今なのだ。
教訓を得て、人は、成長するのだ!
俺も、成長したのだ!
だから、今日という日の「交渉」に、俺は、のぞんでいる。
前置きが、長くなって、スミマセン。
俺は、まわりくどいことは、「あまり」得意ではない。
…いや。ウソです。
ごめんなさい。
ちかっぱ苦手です。
だから…声を大にして、言いたい!
「交渉なんてするヒマがあったら、即座に殲滅だ!」
…おっと?失礼。
熱くなってしまった。
今回の相手は、テロリストどもじゃなかったな。
あくまで、「勧誘」…「交渉」とは、違う。
隠密部隊への新人勧誘だったな。
しかも、相手は、同じ日本人。
話せばわかるはず……たぶん。
なので、直球でいくことにした。
カーブでもなく、フォークでもなく、スライダーでもない。
正真正銘の「真っ直ぐ」。
…ちなみに、真っ直ぐの握りで、ツーシームの変化球になるが、それは、置いておこう。
まぁ、失敗したときは、そのとき。
(よしっ!)
方針は、決まった。
なんとかなるさっ!
俺は、訓練場の出口通路で、まちぶせ。
夕暮れの街角~覗いた喫茶店~♪
って、ちがうちがう!
真面目に行こう!
俺は、なにやら、ハイテンションになっているようだ。
まぁ、ムリもない。
初めて、人を勧誘するのだ。
しかも、異星界人…日本人。
ちょっと、ドキドキするね。
(落ち着いていこう。)
訓練が終わった彼が、ひとり歩いてきた。
「ふぅ~。」
俺は、深呼吸して、白井くんに、話しかける。
「白井 賢司くん。 キミに話しがある。 ちょっといいかな?」
俺は、できる限りフレンドリーな態度で、接した。
「あぁっ?!」
…が、彼からは、鋭い視線が返された。
なぜだか、彼は、戦闘モードに入っているようだ。
(おっ?いいね~。そういうところ。)
昔の自分を思い出される。
何者にも、反発する年頃だな。
しかし、俺は、彼からの熱い視線を、軽くスルーする。
(どうよ?大人だろ!)
「あんた。俺たちの訓練をのぞき見していた人だろ?」
さらに、鋭い眼光で、俺を睨んできた。
(…ほう。気付いていたか。まずは、合格だな。)
自分に向けられた視線に、気づかないようなら、話しにならない。
「そうだ。キミを見ていた!」
俺も、直球で返す。
プレッシャーを加算して。
「…あんた日本人だな?何者だ?何が目的だ?」
(いい目だ。)
そして、なかなか肝もすわっているようだ。
俺のプレッシャーに、耐えている。
(おっと?もう…交渉じゃないな…)
ならば、あとは……。
「おっと?失礼。 俺は、ホーク。本名は、柳 鷹志。キミをスカウトに来た!」
「はぁ? スカウトだと…? なんの…?」
意外な俺の言葉に、少し戸惑いをみせている。
まぁ、ムリもない。
俺は、さらに続けて言う。
「おまえが気に入った! 俺の部下になれっ!」
ほぼ、命令口調で言った。
(さて…どんな反応を示す?)
ここは、まだ訓練場の敷地内だ。
力技も、視野に入れている。
すると、彼からは…
意外なほど、あっさりと……
「…わかった。好きにしてくれ。」
と。
戸惑ったのは、俺の方だった。
「…えっ?よかと?……」
思わず、素のままで、言ってしまった。
とりあえず…勧誘は、成功したみたいだ。
ここでは、アレなので、場所を変えよう。
彼も、訓練が終わったばかりなので、汗を流して、サッパリしたいだろう…し。
シャワーを浴びて、着替えてくるように言った。
俺は、この観覧席にいる…と、伝えて。
彼は、素直にうなずき、更衣室へと、向かった。
(…なんか、師匠から聞いていたイメージとは、少し違うな。)
この世界に、来てしまったことを、ひどく嘆いて、グレたところがあるって、聞いていたから、てっきり……。
まぁ、それは、俺の勝手なイメージだから…。
やっぱり、自分の目で、ちゃんと確認しないとね。
反省する俺だった。
しばらくして、シャワーでサッパリしたのか、先ほどとは、打って変わって、ふつうの青年の表情だった。
少し幼さを感じるが、なかなかの男前だった。
少し長めの黒髪は、白井くんに似合っている。
俺とは、違うタイプだけど、やはりこの世界で会う日本人。
親近感がわく。
素直な感じの彼は、まさに好青年だった。
ふたりで観覧席に座り、あらためて、挨拶を交わす。
俺は、自分のいきさつを簡単に話して、新部隊の設立のことを話した。
白井くんは、興味深そうに、俺の話しを聞いていた。
「柳さん。ぼくのことは、賢司…でいいですよ。」
白井くんは、もう…硬い表情ではなく…
「ともだち」みたいな、おだやかな表情だった。
「そうか。…じゃあ賢司。俺のことも、ホーク…でいいぜ!」
少しカッコつけて、言った。
「アハハハッ!」
笑えた。
それから、賢司の話しを聞いた。
ある程度のことは、橘さんから聞いていたけど、本人の口から直接聞くことは、大切だ。
また、違った印象を受けるからね。
そして、長い時間…彼の話しを聞いていた。
中学で陸上を頑張っていたこと。
友達だったやつのこと。
そして…家族のことを…。
賢司は、離れ離れになった両親のことを心配していた。
推薦で有名校への進学が、決まっていた。
そのことを両親は、とても喜んでくれていた。
でも、自分が突然にいなくなってしまって
…元の世界では、自分は、車に轢かれて死んでしまっているのだろう…と。
もしくは、完全行方不明?
なんにせよ、家族を悲しませてしまったことを、申し訳なく思っていることを。
賢司は、打ち明けてくれた。
初対面の俺に…こんな俺に……。
そんな彼のことを、ふしぎとかわいく思った。
…そう。兄弟のように。
俺は、その賢司の思い(重い)を受け止めていた。
うん。うん。
ホークも大人になったね~。
まぁ、でも…自分で
「大人だろ!」
と、言っているうちは、まだまだ子供だよ。
しかし…ホークちゃん。
前の部隊では、やらかしていたみたいだね?
テロリストを沈黙…全滅させたって、一体?
まぁ、今度は、うまくいってよかったね~。
それにしても、「まちぶせ」を歌いながら…ホークのことだから、ユーミンの方だよね。
でも、ドキドキのホークでした。
「えっ?よかと?」
というホークの表情は、見ものだったろうね。
賢司は、それどころじゃなかったみたいだけど…。
じゃあ、ホーク。
大人なんだから、賢司の話しを、ゆっくり聞いてあげてね~。
さて、次回は、賢司くんの話しの続きです。
よかったね。
わかり合える仲間に出会えて。
では、お楽しみに。




