第60話 新人(2)
この世界での初めての旅。
…まぁ、徒歩だけど……。
橘さんからも、
「自分の目で、いろんなことを見ながら、行くがよい。社会勉強じゃ。」
と、言われて、出発したしだい。
行程自体には、なにも問題は、なかった。
道のりも、険しい山道…ということもなく
ふつうに、田舎の農道みたいな道を歩き進む。
自然豊かで、のんびりした雰囲気を堪能した俺だった。
ただひとつ。
この「ティフブルー王国」というところが、平和でいい国…だと、実感できた。
道行く人たちに尋ねると、みんなやさしく、丁寧に、道を教えてくれた。
ほんと、気がいい人たちばかりだった。
あらためて、この国のすばらしさを目のあたりにできたことを感謝したい。
(これから、俺が護ろうと、するものだね。)
実感できた。
そして、護衛部隊の「育成訓練所」に無事に、たどり着いた。
(よかった~。迷わなくって!)
真剣に…。
場所は、王都の西部地区の一画にある。
西部地区は、酪農が盛んな地域だった。
道中、たくさんの牛小屋や豚さんの小屋。
それに、ニワトリ小屋を見かけた。
要は、牧草地で景色が開けた、いい土地だったのだ。
だから、初めての旅でも、迷うことなく、のんびりと、来れたわけなのだ。
山間部だったら、それこそサバイバルだったろうね(笑)。
その自然豊かな草原の中に、ちょっとした…いや、失礼。立派な闘技場のような建物が、それだった。
敷地面積は、約70000平方メートル。
ちょうど、福岡ドーム球場くらいの広さだ。
(福岡ドームを知らない人には、ごめんなさい。)
そこで、100名ほどの訓練生が、日々鍛錬していた。
懐かしい雰囲気がした。
立派な兵士になる為に、みんな必死で頑張っている。
そういう雰囲気が、陸自の訓練を思い出させる。
(まぁ、ここもある意味…へき地だから、激しい訓練ができるだろうね。)
俺は、観覧席みたいなところから、訓練生の修練を見ていた。
未来のロイヤル・ガーディアンズたち。
さすがに、エリートの卵。
みんな、いい動きをしている。
…その中に…ひと目でわかる。
(あいつだ!)
日本人の風貌だった。
黒い髪…黒い瞳。
肌は、俺たちと同じように…「黄色人種」と呼ぶにふさわしい。
俺は、彼を観察した。
彼は、黙々と訓練をこなしていた。
「体さばき」は、悪くない。
素手の格闘をみても、レベルは高い。
武器を使っての対人訓練(今日は、棍棒だった。)でも、なかなかの動きをみせていた。
基本スペックは、問題なさそうだった。
この訓練生の中でも、上位クラスだろう。
橘さんが推薦するのも、うなずける。
ただ…体格が、少し小さい…というところがあるが、それは、たいした問題ではない。
体が大きいだけの「デクの坊」というヤツを、俺は、死ぬほどみてきたからだ。
ヤツらは、デカイ体が、「いちばん優れている!」と、勘違いしているバカなのだ。
たしかに、「体が大きい=強い」。
相手より体が大きいと、戦闘で有利なのは、確かだ。
それに、体が大きいと、必然的にパワーもある。
大きい体だと、防御力もある程度、高くなる。
だから、一般的な意見としては、
「大きい体=強い」
なのだ。
だが…反面。
「体が大きい」ということは、「重量が増える」ということだ。
重量が増えた体では、どうしてもスピードが落ちる。
ふつうの軍隊ならば、それで問題ないのだろうけど…。
俺たち「隠密」にとって、「スピード」は、生命線!
だから、「大っきければいい」…というわけには、いかない。
「スピード」と「パワー」のバランスが重要なのだ。
あとは、「スタミナ」だ!
重量が増えると、それだけ動くには、エネルギーがいる。
スタミナがいるのだ。
子供でも、わかることだ。
「スタミナ」は、一朝一夕で、身につくものじゃない。
日々の鍛錬が、不可欠となる。
必然的に、過酷な訓練の繰り返しになるのだが…それに、耐えきるだけの精神力も必要になる。
以上のことを考慮すると、彼は、元陸上選手。
しかも、長距離選手。
「スタミナ」と「精神力」は、培われていた。
肉体的に、なにも問題は、ない。
あとひとつ…。
少し気になったことは……
どうも彼には、「ともだち」というものが、いないようにみえた。
まぁ、この訓練所で、仲良く「友達ごっこ」をするバカは、いないと思うけど…
それでも、ひと言ふた言は、話す相手がいても、よさそうだけど…
彼には、いなかった。
(対人関係が、苦手なのだろう。)
言い変えれば、「ひとりでも大丈夫!」ということだろう。
(俺も、人付き合いが得意ではないからね。)
彼も、団体行動よりも、単独行動が、向いているように、みえた。
まさに、「隠密」に合っているように思えた。
(…よしっ!)
俺は、「彼の引き抜き」を決意した。
彼らの訓練が終わるまでの間に、責任者の方々に、あいさつに行った。
橘さんの言っていた通り、「根回し」は、カンペキだったようだ。
(さすが、師匠! ありがとうございます。)
「よろしくお願いします!」
と、俺があいさつすると、丁寧に説明してくれた。
ほんと、助かります!
お疲れさま、ホーク。
無事に、たどり着いて、よかったね。
この世界…ティフブルー王国の景色がみれて感激のホークです。
そうか~牧草地か~。
例えるなら、阿蘇みたいなところかな?
火山は、ないみたいだけど…。
火山…ということは、「温泉」がある!
ちょっと、期待していたホークだったかも?
温泉は、また今度ね。
今は、任務の遂行が大事ですよ~。
「白井 賢司」くん。
なかなかに、ホークのメガネにかかったようです。
さて、次回は、交渉に入ることを決意したホーク。
どんな交渉になるのかな?
やっぱり、力技?
では、お楽しみに。




