第58話 理念
2時間ほどの訓練を終えた。
ほどよく汗をかいて、すっきりだ!
お風呂で、さらにサッパリして、軽くお昼ご飯にしよう。
まぁ、朝メシの残りだけど…。
(おいしいから、OK!)
「橘さん。新人隊員のことですけど…。」
俺は、先ほどの続きで、質問する。
「まぁ、待て。 そのことは、あとでゆっくりな。 まずは、この部隊の理念を確立することからじゃな。」
師匠が言う。
(うん?…たしかに……。)
俺は、今まで、隠密機動隊として、活動してきたから、何の疑問もなかったが、
なにも知らない人に、「隠密機動」の内容を教えるとなると、話しが違ってくる。
実際に俺が、経験して身につけたことを、言葉で表現しなくちゃならない。
(…う~ん。けっこうたいへんかも?)
まぁ、その「たいへんなこと」を、師匠も一緒に考えてくれる…ということだ。
素直に感謝しよう!
では、ハッキリしていることは、
「情報収集」だ。
これは、原則。
情報なしでは、どんな作戦でも成功率が低くなる。
この世界は、「弱肉強食」が顕著なので、戦術的には、元の世界よりは、劣る。
それは、仕方がないこと。
(あの…師匠の戦闘を見れば…ね。)
あれこれ画策しても、ひとりの強者の前には、意味がない。
あらゆる画策を、一蹴できるほどの強者が存在するからだ。
だが、俺たちの部隊は、その情報をもってして、強敵に対して、有利にいこう!
…と。
相手の能力、武器、癖、性格、戦闘パターンなどを、把握して、攻略するのだ。
なかには、「男らしく、真正面から正々堂々と戦え!」という意見も、あるだろうが、そんなキレイ事は、スポーツの範囲でやってくれ。
俺たちは、「殺し合い」をやるのだ!
失敗=死 なのだ!
次は、ない!
死んだら、終わりなのだ。
だからこそ、死なないために、死ぬほどの手を打つのだ。
そのための情報収集だ。
戦いに勝つには、あらゆる手段を持つのだ。
その「手段の多さ」こそが、生き残る術になるのだ。
戦場に、まったく同じ場面は、ない。
その時その時で、状況は違う。
だから、その状況に対応できるほどの手段を持っていないと、生き残れない。
戦場では、生き残って、なんぼ!
死んだら、意味がないのだ!
…おっと?失礼。
つい、熱くなってしまった。
…で、第1項目は、
「情報収集の大切さ」。
第2項目は、さらに難しくなるが、
「情報の分析と管理」。
収集した情報の分析…。
これによって、敵の目的がみえてくる。
目的がみえてくれば、おのずと、その戦略がみえてくるのだ。
戦略がみえてくれば、先手を打つことができる。
敵よりも、常に、2手3手…先の状況を読むことができれば、主導権を握ることが可能だ。
戦闘は、有利に!
尚かつ、最低限のリスクで!
これが、モットー。
戦場で、後手にまわることは、あまり良い結果に、ならないからね。
ヘタしたら、部隊が全滅しかねない。
かといって、読み間違えたりすると、さらに危険だ。
だから、分析は、慎重に。
そして、正確な分析のためにも、たくさんの情報が必要となる。
これが、「情報の分析」。
それから、「情報の管理」。
情報の管理とは、こちら側の情報漏洩の遮断。
これを成さないと、情報収集しても、意味がない…ということだ。
収集した情報の漏洩は、逆に、自分たちの作戦行動を、敵に悟られることになる。
敵に、悟られる…ということは、作戦の失敗を意味する。
何度も言うが、作戦の失敗=死 に直結するからだ。
恥ずかしい話しだが、俺がこの世界にやって来た原因は、あの作戦の情報漏洩だった…と言っても、過言ではない。
思い出してきたら、また腹が立ってきた!
(…いかんいかん。)
冷静に、ならなければ……。
そうそう、「冷静沈着」も、忘れちゃならない。
…おっと?話しを戻して。
「情報の管理」は、徹底して行う。
これが、出来ないヤツは、要らない。
いくら強くて、優秀でも…だ!
(優秀なヤツは、そんなことをしないけど…。)
いやいや。油断は禁物だった!
優秀なヤツほど、気をつけなければ!
…そう。
裏切り者は、許さない!
裏切り者は、必ず潰す!
これも、徹底する。
別に…脅して、恐怖で縛りつけることでは、ないけど。
恐怖なんかで、部隊を縛りつけると、必ずどこかに、シワ寄せがくる。
特に、寄せ集めの部隊は、そうだった。
(俺の経験上。)
だから…できれば、育成しながら、鍛えたい。
育成からだと、いろんなことを教えてあげられるし、そいつの性格も、わかってくるからね。
そして、できれば、少数がいい。
どうしても、多数になると、いろんな考えが、生まれてくるからだ。
いろんな考え方や、意見があることは、いいことだけど、それは、ふつうの部隊の話しだ。
俺たちは、「隠密」。
「特殊部隊」なのだ。
意識統一は、必須なのだ。
別に、個人の意思を無視するわけでは、ない。
人それぞれのやり方がある。
その人の得意なやり方がある。
道は、無数にあるのだ。
そこで、大切なのは、「意識統一」。
ひとりひとりの目的意識が、同じならば、行き着く先は、同じだからね。
だから、ひとりひとりのスタンドプレーが集まって、部隊としてのチームプレーが成り立てば、何も問題がない。
これこそが、理想的な「隠密機動隊」だろう。
…おっと?また話しが、それてしまった。
すまない。
…で、裏切り者は、潰す!…だが、
まぁ、この世界の感じだと、裏切りとかの行為は、あまりないような気は、するけど……。
油断は、禁物だ!
ほんとうに、禁物だ!
特に、俺がいちばん気をつけることだろう!
少し、話しがそれたけど…
第2項目は、「情報の分析と管理」だな。
第3項目としては…
「情報の鮮度」だろう。
いかに、最新の情報を掴む!…かに、手腕が問われる。
電気通信がないこの世界での、遠距離通信を俺は、半分あきらめていた。
けれども、その遠距離通信を可能にする「通信魔法」なるものが、存在する。
これを利用しない手は、ない。
そのおかげで、情報の鮮度が、保たれるのだ。
遠く離れた情報が伝わるのに、時間がかかってしまうことは、極力避けたい。
戦場の情報は、その場その場で、2転3転する「ナマモノ」だからね。
腐って(時間経過)しまっては、せっかくのネタ(情報)が、台無しだ。
(…あっ? 「腐っても鯛」ということわざが、あったけど…)
鯛こその高級魚(最新情報)を、腐らせては、ダメだろう!
…って、ちょっと意味が違うか?
失礼。
お魚に、例えると、要は…
どんな魚(情報)でも、新鮮(最新情報)が、いちばんおいしい…ということだ。
だから、俺も、魔法を使えるように、がんばらないといけないのだ。
逃げちゃダメなのだ……。
(がんばります!)
ちょっと、脱線もしたけど、情報に関することは、この3つが大前提だろう。
「情報収集の大切さ」
「情報の分析と管理」
「最新情報の優先」
以上だ。
後日談。
理念とは、少し話しが変わるけど…ふと、思い出した言葉が、ふたつ。
それは、以前フォウさんが言った、
「デモンズの連中は、すごい!」
と、ドレンさんが言った、
「そんな面倒くさいこと!」
の、ふたつの発言だった。
ドレンさんの「面倒くさい」は、
…まぁ、その通りだろう。
ドレンさんくらいの力があれば、敵の画策など…テーブルごとひっくり返すことができるからね。
だから、コソコソと、情報収集することなんて、手間のかかることに、興味がないのだろう。
理解できる。
…で、フォウさんの「デモンズの連中」…
いえば、デモンズには、多数の地球人が存在するみたいだ。
いえば、俺と同類。
情報の大切さを理解している連中。
…ということだな。
そして、俺のように「特殊能力」を身につけている連中。
…と、考えて行動しないと、いけないな。
油断大敵だ!
(ふふふ。おもしろいじゃないか!)
俺の隠密機動と、ヤツらの隠密機動…
どちらが勝っているか?
楽しみだな!
さすがホークですね~。
やっぱり、戦う兵士です。
なかなか、シビアな理念ですね~。
ところどころ、オマヌケですが…。
本人も、言っている通り、国語力が少ないみたいです。
みなさんは、どうですか?
橘は、よく理解しているのかなぁ?
魚で、例えるあたりは、ホークらしいけど…。
「腐っても、鯛。」
ちょっと、使い方が違うね。
言いたいことは、わかるけど…。
そして、魔法の勉強をする覚悟が、とうとう、固まりました。
…でも、ホークが魔法を習得するのは、もう少し、先のお話しです。
橘も、魔法を教えることに関しては、苦手みたいですから~。
がんばってね。ホーク。
では、次回は、理念も固まったことだし、新人隊員の募集(?)のお話しです。
お楽しみに。




