第54話 腕力
まぁ…幸せは、長く続かないものさ!
フォウさんとの、楽しい会話を堪能していた俺だったが、突然の終末を迎えた。
「ところで隊長さん。 あんた本当に強いのかい? あの橘様が副隊長だから、それ相応だとは、思うんだが…。」
という、棟梁さんからの鋭いツッコミである。
(この酔っぱらいオヤジ! なんてことを言い出すんだ!)
と、思ったが…
俺は、冷静に…
「いやいや…。こう見えても、いちおうは……」
なんとか、誤魔化そうとした俺の発言は、さえぎられ…
他の職人さんからも、
「そうそう。俺も不思議だったんだ。 あの橘様が副隊長だろ? ってことは、同等か、それ以上って、ことだよな?」
と。
…(いえいえ。橘さんには、まだ勝てません!)…
「それに、こうやって、ドレン様 レベッカ様 シルビア様も、いらっしゃってるし…。」
…(そこは、ミカ様とフォウさんの護衛だから!)…
「いや。待てよ? こんなへんぴな所にミカ様が来てくれるってことは…。やはり…?」
…(いやいや。ミカ様は、こういう楽しい事が、大好きだからね!)…
と、いちおうに、ツッコミを入れた俺だったが……
「まぁ、いいさ! 俺たちが建てた逸品に相応しいかどうかは、これでハッキリする!」
(…えっ?どういうこと?…)
理解が追いつかない俺を置き去りにして、あっという間に、会場が作られた。
それは、1メートル四方の頑丈そうな闘技場……って、この飲み会で使っているテーブルだった。
ちなみに、このテーブルは、余った木材で職人さんたちが、作ったものだった。
やはりエコです。
「やっぱり、男は、ここだろ?」
パンパンと、作務衣をめくって、上腕二頭筋を叩く棟梁さんだった。
なるほど…上腕二頭筋に四角いリング…といえば、これしかあるまい。
「ザ・腕相撲」
古今東西、腕っぷしを決するには、この単純明快な力勝負しか、あるまい!
少しでも力が劣れば、負ける。
ヘタしたら、腕が砕ける!
…という、見た目からは、想像しがたいハードな勝負だ!
もうすでに、有無をいわせないほどの決定事項のようだ。
その四角いリングのまわりには、観客席が用意されている。
その正面の特等席には、ミカ様とフォウさんが、すでに鎮座していた。
ふたりの輝くような女神の笑顔が、とてもまぶしかった…。
そして、その両サイドには、レベッカさんとシルビアさんが、それぞれ…。
(みなさん。ほんと楽しそう。)
あと、ドレンさんがいないってことは、まぁ…そういうことだろう。
かくして、即席の「腕相撲大会」が始まったのだ。
ルールは、簡単だが、対戦方法を決めなくては…。
…が、しかし…鶴のひと声で、トーナメント戦に、決定した。
もちろん、「鶴のひと声」とは、ミカ様である。
では、参加者募集…って、男全員だった。
さすが職人!
みんな武闘派だった!
しかも、橘さんまで…。
実際、橘さんの戦闘能力は、とんでもないが、単純に力勝負だと、どうなんだろう?
あの細身の体で、どれくらいのパワーがあるのか?
俺も、かなりの興味がある。
橘さんは、スピード重視…いえば、瞬発力が、とてつもないから、案外…腕相撲も、瞬発力でイケる…かも?
…と、俺は、考える。
まぁ…結果は、後ほど…。
それから、ドレンさん…は、言うまでもなく…。
すでに、ストレッチを始めているし…。
(ドレンさん…めちゃ楽しそう!)
参加者は、職人さん10名と、棟梁さん。
ドレンさんと、橘さん。
そして、俺。
全14名のトーナメント戦。
枠は、くじ引きで決まった。
1回戦目は、全7試合。
奇数なので、最後の7試合目の勝者が、次の2回戦目の不戦勝となる。
3回戦目が準決勝戦で、4回戦目が決勝戦というトーナメント戦だ。
みんなの意見で、「ハンデ無しの力勝負がしたい。」ということもあり、勝ち上がった者は、シルビアさんの回復魔法のオマケ付きになった。
チカラを出し尽くしても、パワー回復して、万全状態で、次の試合に臨めるのだ。
あと…
「万が一、ケガしたときも、回復魔法をかけてあげるから、遠慮なく全力で闘え!」
と、ミカ様からのありがたいお言葉があった。
(職人さんたちが、涙してミカ様を崇めていたけど…。)
まぁ、そういう感じで、「腕相撲大会」が、無事?に始まった。
俺の予想では、職人さんの中にも、4~5人の強者がいた。
…さてさて、どんな試合になるのか?
と、少しワクワクしてきた。
1回戦目は、7試合あるので、ダイジェストで、いきます。
第1試合は、ドレンさんが、やはり圧勝だった。
負けた職人さんも、けっこう強そうだったけど…。
「やはり、ドレン様は、強い!」
と、正々堂々と闘えたことを喜んでいた。
第2試合。
橘さんと、ブラッシュという職人さん。
ブラッシュさんは、190センチ、120キロの巨体で、職人さんの中で、いちばんパワーのありそうな人だった。
(見ものだ!)
と、思った試合は、橘さんがあっさりと、負けた。
「わっはっは! さすが職人さんじゃ!」
と、笑っていたが、俺からみると、全然本気を出しているようには……。
まぁ、そうだよね。
少し残念だが…。
ブラッシュさんは、橘さんと、闘えたことに感謝しているみたいだった。
ふたりで、熱い握手を交わしていた。
第3試合は、タリスという職人さんが勝ち、第4試合は、マルレオという、おっさん職人が勝った。
で、第5試合…俺だ。
相手は、ヤマトさんという人。
俺に、木の皮タイルの貼り方を教えてくれた職人さん。
やはり、この人…日本人だった。
もともと大工さんだったらしく、30年くらい前に、この世界に来訪したらしい。
「自分は、職人だから!」
と、今も大工を続けている人だった。
素直に尊敬する。
しかし、勝負は、弱肉強食。
俺が、勝った。
「がんばれよ!若大将!」
と、笑って言うヤマトさんに、「男」をみた!
「ありがとうございます!」
俺も笑顔で、答えた。
第6試合。
やはり、棟梁さん(本名ゲイル)が圧勝。
ちなみに、俺の次の相手だ。
このオヤジも、かなり強い!
フツフツと、燃えてきたぞ!
最後の第7試合。
見るからに、頑丈そうな体格をした、おっさん。
185センチ、110キロのアメフト選手みたいなおっさん!
歳は、30代後半くらいかな?
名を「ハーレー」という。
かなり、強そう…。
(もし、棟梁さんに勝ったら、次は、この人。)
なんか俺のブロック…厳しくない?
ふふふ。
腕相撲ですか…。
やはり、こういう単純明快の闘いは、燃えますね。
特に、ドレンが気合い入っているみたいですね。
もちろん、職人さんたちも。
ホークも、徐々に、火がついてきたみたいですよ~。
ホークは、橘の力が気になったみたいだけど…。
まぁ、橘は、「三武神」だから。
自分の立場をよく分かっているからね。
だから、対戦相手にも、失礼がないように、がんばったのさ!
橘は、実際には、90才のオヤジだし…。
そこは、みなさんのご想像で。
…で、話しを戻して…
ホークのブロックは、強者がそろっているみたいですね~。
ここは、ひとつ…隊長さんの意地を見せないとね。
フォウも、見てるよ~。
さて、次回は、ヒートアップする腕相撲大会です。
思わず、乱入する人も…。
では、お楽しみに。