第53話 始動(6)
では、完成祝いと、いきますか!
お肉もまだたくさんあるし、お酒も、もちろん大丈夫です。
…ということで、バーベキューの用意をしましょう。
シシ肉は、塩こうじに漬け込んだやつと、ニンニク醤油に漬け込んだやつの2種類を用意した。
焼き野菜のタマネギ、ピーマン…
(…んっ? なにか外が騒がしい。なんだ?)
俺は、仕込みの手を止めて、台所から表に出た。
すると、広場では、職人さんたちが一斉にひざまずいていた。
その先には……
「あっ?」
と、その一行を確認した俺も、その場で片ひざついて、敬礼した。
…エプロン姿のままだった……
フォウさんが俺を見て笑っている。
(あらっ? またもや、やってしまった?)
ちょっと、赤面しながら、エプロンを外す俺だった。
…で、いらしたのは、ミカ様御一行。
ミカ様とフォウさん。
それから、ドレンさんとシルビアさん。
そして、ショートカットのお姉様…レベッカさんだった。
この新築祝いに、駆けつけてくれたのだった。
ありがたいことです。
しかし、職人さんたちからすれば、突然、王家の方がいらしたら、そりゃあ驚くってものです。
みんな、崇めるように、熱いまなざしを向けていた。
(みんな、ミカ様たちの信者みたいだね。)
みんなの敬意を受け取ったミカ様が
「ありがとう。みなさんもたいへんご苦労様でした。」
と、職人さんたちを労うように言った。
その女神様の笑顔で、すべての労力が報われた瞬間だろう。
代表して、棟梁さんが答える。
「ははっ。ありがたきお言葉をいただき、恐縮です。ミカ様!」
と、感謝の言葉を述べた。
(おおっ!さすが棟梁!)
いつもの気さくなオヤジ態度が、ちゃんとなっている。
俺は、素直に感心した。
(俺は、まだまだ礼儀作法が、なっていないからね。)
続いて、自分がミカ様たちを呼んだであろう橘さんが、
「これは、これは、ミカ様 フォウ様。このようなところまで、ほんとうにありがとうございます。」
と、敬礼した目線が、一瞬、俺を見た。
「……??。」
あっ?なるほど…。
本来ならば、隊長である俺が、ちゃんと挨拶をしなければならないのだ。
呆けている場合では、ないのだ!
(ありがとうございます。肝に銘じます。)
後ほど、橘さんにお礼を言った。
橘さんは、笑って…
「精進するがよい。」
と、言ってくれた。
ほんと感謝です。
こうやって、橘さんは、俺に剣術以外にも大事なことを指導してくれる。
俺は、幸せものだなぁ…と、しみじみ感じるのだった。
あっ?そうそう…。
レベッカさんに、「ゲート」のお礼を…
「レベッカさん。ゲートの設置、ありがとうございました。ほんと便利で感謝します。」
と、誠意を込めて、一生懸命に言った。
…噛まずに……。
(ほんと、この人も美人さんで、めちゃ緊張します。)
師匠に聞いた話だと、ふつうのゲート設置でも、術士が3人で、丸一日かける作業だと…。
それを、このお姉さんは、ひとりで…しかも数時間で、完成させたみたいだ。
凄すぎて、よくわかりません。
レベッカというショートカットのお姉さんは、ただ者じゃないことが、よくわかりました。
この人とは、仲良くしよう…と。
「ふふふ。どういたしまして。 この貸しは、いずれ返してもらうから。」
と、さっぱりした感じの男気(笑)に、見とれてしまうほどに…。
「はい。俺にできることがあれば、なんでも言ってください。」
と、いちおうに、カッコつけた俺だった。
その後、レベッカさんとは、いろんなことで、親密になったのだった。
まぁ、その話しは、のちほど。
さてさて、ミカ様たちが、おみえになった理由は、もうひとつあった。
それは、「棟上げ式」。
建物が出来て、その営みがうまくいきますように…と、祈願する儀式。
(地鎮祭といい、上棟式といい、日本といっしょだなぁ~。)
なんだかよくわからない世界に、来てしまったけれど、なんとも懐かしい…慣れ親しんだ風習があると、この世界にも、愛着を感じるね。
「俺は、ここで生きていく!」
と、強い意志がさらに湧いてきた。
ちなみに、儀式を執り行うのは、ミカ様でした。
純白の和服が、とてもキレイです。
さすがは、叡智の女神様。
俺と橘さんだけでなく、棟梁さんたちも、神聖な気持ちで、のぞんでいた。
儀式が、無事に終わると、やはり宴会…もとい、完成祝いです。
もちろん、ミカ様から、差し入れをいただきました。
たくさんのお酒と、これまた美味しそうなおにぎりと、おつまみの数々を。
今度は、ちゃんと、俺の口から、
「ありがとうございます。ミカ様 フォウ様。 おかげさまで、立派な隊舎ができました。これから、この部隊が皆様のお役に立てるように、しっかりと、頑張っていきます!」
…と。
ミカ様は、やさしく微笑んで、
「がんばってね。ホークくん。」
と。
そして、フォウさんは、
「とてもいいところですね。私もちょくちょく遊びに来たいです~。」
と、なぜか気に入ったらしい…。
(…遊びに…って、いちおうここは、極秘なんですけど…。)
まぁ、気にしては、ダメだ!
俺も笑顔で、
「はい。いつでもどうぞ。お待ちしております!」
と、答えたのだが……
のちに、このひと言が、いらぬひと言と、なったのだった。
まぁ、それは、今は、置いておこう。
まぁ、いろいろと、前置きがあったが、宴会の準備も、整ったようだし。
では、はじめるとしよう。
みんなも、「早く飲ませろ!」と、言わんばかりの目線なので…。
「第6部隊の新隊舎完成を祝って~乾杯~! そして、みなさん、ほんとにありがとうございました!」
と、簡潔に音頭をとった。
「かんぱ~い!」
「くぅ~。うまい!」
「ひと仕事のあとは、最高だぜ!」
「みんなで飲むお酒は、やっぱりおいしいわね!」
「あははは~。いつでも、おいしいです~!」
などの歓喜の声が聞こえる。
あと、よく見ると、なぜか職人さんたちが、ミカ様たちにお酌をしていたのが、笑えた。
(ふつうは、棟梁さんたちを労うはずなのに~?)
って、いやいや。
それは、日本の感覚だ。
いかんいかん。
またも、昔の常識が出てしまった。
それに、よく考えると、ミカ様たちは、王族の方なので、棟梁さんたちがお酌するのが、あたりまえかも?
それにしても、おっさんたち…デレデレだな。
まぁ、あの女神様たちを目の前にしたら、仕方がないことだね。
俺だって、そうだもん!
…と、まぁ、おっさんたちは、おいておいて…みんな楽しく宴会が始まった。
さあっ、俺は、どんどんお肉を焼いていきますよ!
いっぱい食べてくださいね~。
…って、もう、行列ができていた。
「隊長さん。早くしてくれよぅ~!」
「早くしないと、敵にやられるぜ~!」
「わっはっは!」
などと、俺がイジられていた。
(敵ってなんだ? 肉か? 食べ物の恨みは、怖い?)
などのアホなツッコミをしながら、ひたすら、お肉を焼いていく、俺だった。
…隊長なのに…いちばん下っ端みたい。
まぁ、たしかに、いちばん年下だし!
(あっ?フォウさんは、別ですよ~。)
前の部隊でも、同じだったし!
これはもう…特技と言っていいだろう。
別にイヤでもないし…
まぁ、いいや。
とりあえず、焼こう! 飲もう!
割り切った俺は、反撃するかのように、
「はいはい。 よい子にしていたら、お肉をあげますよ~。」
と、ボケていたら…
職人さんたちが、一斉に、
「ボクたち、よい子でチュ~!」
と。
…まいった!
またしても、やられてしまった!
次の瞬間…
大爆笑が……。
やはり、この世界のツボが、よくわからない!
一通り、みんなのおなかも落ち着いてきたようだ。
俺の焼く手も、だいぶゆっくりになってきたから、ひと息つこう。
まわりをみると、今度は、「飲み」にはしっている。
相変わらず、職人さんたちがお酌していたが、今度は、返されていた。
まぁ、デレデレだ!
何度も言うが、ミカ様を筆頭に、フォウさんは、言うまでもなく、シルビアさん、レベッカさんも、かなりの美人さんなのだ。
そんな美人さんに、お酌してもらったら、このおっさんたちみたいに、デレデレになるのは、仕方がないこと。
おっさんたちも、この最高のシチュエーションは、職人冥利に尽きるだろう。
かく言う俺も、今までは、野郎しかいない環境だったので、この世界の美人さんたちに、かなりドギマギしたことは、内密に!
しかも、この王族の美人さんたちをはじめ、みんなフレンドリーで、いい人たちばかりだしね。
ああ~もう、どうしようもなく、幸せなこの世界を失う…いや、違う。
護るのだ!
なにがなんでも、護るのだ!
…と、また心に刻むのだった。
そんなタイミングで、フォウさんが、
「ホークさん。焼き係、お疲れさま~。いっしょに飲みましょう~。」
って、満天の笑顔で……
もう、ほんとこの人には、かないません!
「ありがとうございます。フォウさん。」
俺は、グラスを合わせた。
いやぁ~、ホークって、幸せものだね。
この世界に、紛れ込んで、どうなることか…と、心配したけど…。
この幸せを…この人たちを護ることを確実に思う気持ちが、大切なのよ。
話しは、かわるけど…ミカの祭司?巫女?姿は、キレイそうですね。
さすがは、ミカ様のようです。
そんなミカから、お酌されたら、職人さんでなくとも、デレデレだよね。
ほんと、あたたかい人たちばかりって、いいね。
さて、次回は、宴会も佳境に突入します。
お楽しみに。




