第52話 始動(5)
4日目。
今日で、作業終了の予定。
作業内容は、新倉庫の中の地ならしと、平屋隊舎の外装の貼り替えだった。
地ならしは、みんなでレイキかけ…(日本でいうと、トンボだ。あの高校野球マンガとかで、よく見かけるやつ。グランドをならすT字のやつだ。)…をする。
このレイキも、余った材木で作ったものなのだ。
これまたエコ!
きれいに地ならしを終えたあとは、ローラーで固める。
これもビックリ!
ナイス発想!
直径1メートル近くある丸太を、長さ2メートルほどで切断する。
切断した丸太の表面を平らに削り、真っ直ぐ転がるように加工されている。
丸太の真ん中に穴をあけて、パイプを通して引き手で引っ張るかたちだ。
2~300キロありそうな丸太だが、魔法で引っ張る力の補助を加えると、難なく引っ張ることができる。
さらに、驚くべきは、ローラー部分に「重量加重」と「超振動」の魔法が、施されている。
この効果で10トン近い圧力で、地面を固め、さらに超振動で、地面を締める。
…という、すぐれ技だった。
(日本では、「振動ローラー」という機械があるが、まさに、それと同じだ。)
いやはや、この世界のテクノロジーに、脱帽しますね。
そして、念入りに地面が締固められた。
俺と橘さんは、その地面を踏んで、確認する。
いい感じだった。
まさに運動場。
まさしく陸上競技場のような感触だった。
「うむ。素晴らしい出来じゃ。さすがは、ゲイルじゃ。感謝する。」
橘さんが、棟梁さんを労っている。
「ふふふ。これくらい朝飯前ですよ。」
棟梁さんが、なんかテレている。
おっさんふたりで、なんかニヤけている。
見ていて、なんか微笑ましい。
(いや。ほんとありがとうです。)
ここは、いい修練場になりますよ。
ここで、ひとつひらめいた!
(このローラー…魔法を発動させなかったら、足腰のトレーニング道具になるな!)
鍛錬したあとで、筋トレといっしょに、修練場の整備になる。
一石二鳥だ!
(ふふふ…。)
ニヤける俺。
りっぱに、戦闘オタクの自分が笑える。
…で、棟梁さんにお願いしたら、気持ちよく
「おうっ。かまわないぜ! 欲しけりゃやるよ!」
と、笑って即答だった。
「ありがとうございます。」
俺は、素直に頭を下げる。
「ハッハッハ。ウチも助かるぜ。どうやって持って帰ろうかと、悩んでたんだ!」
とてもいい笑顔の棟梁さん。
(………。)
まぁ、いいさ!
ギブアンドテイクだ。
お互いが、オッケーなら問題ない。
ありがたく頂戴しておくとしよう。
そして、今回使った…いや、作った道具をすべて、頂けることになった。
ありがとうございます。
マジで感謝です。
後ほど聞いた話だったけど、ふつう職人さんたちは、ちゃんとした道具を持って来るらしい。
だが、ここは、へき地でゲートもないから持って来るのが大変だった…と。
伐採する木が、たくさんある…ということを橘さんから、聞いていたので、ある程度の道具は、現地調達することになったそうだ。
なるほど…と、感心した。
トラックもない世界…知恵を使って、効率よく物事を行うことを学んだ。
ちなみに、足場などで作ったハシゴなども頂いた。
「のちのメンテナンスなどで、必要だろう。」
棟梁さんから。
…要は、メンテナンスは、自分たちで出来るだろ!…ということだ。
(はい。そこは、おまかせください。)
今回の作業内容は、理解できましたので、メンテナンスは、大丈夫ですよ。
…たぶん……。
と、まぁ…そんな感じで、この新隊舎の維持継続も、なんとかなりそうです。
…でも、反則技もあった。
橘さんが、素知らぬ顔で転移魔法装置「ゲート」を設置していた。
本人曰く。
「ここは、れっきとした王国の正規部隊となる。ゲートは、必需品じゃ!」
…と。
(まぁ…たしかに。極秘だけどね…。)
表向きは、「新人隊員育成部隊」になったけど…そこは、割愛で!
ちなみに、初日に俺が食料調達している間に、橘さんの元部下だったレベッカさん…(あのショートカットのお姉さん…か。)…に、ゲートを設置してもらったらしい。
なんでもレベッカさんは、現隊員たちの中で「三大魔女」と、呼ばれるほどの実力者だと…。
(なるほど…あの気配は、やはりただ者では、なかったみたいだ。)
…で、話しは、戻って…
職人さんたちが、あの大量のセメントや瓦などを、よく運んできたなぁ~と思っていた。
魔法があるから…と、あまり気にしていなかったけど……
「そういう大事なことは、ひと言いってくれ!」
と、苦情は、伝えておいた。
どうりで、橘さんも大量のお酒を持ち込んでいたはずだ。
俺なんか自力で、イノシシをここまで運んだのに!
「いい鍛錬になったじゃろ?」
と、橘さんは、笑っている。
(もう、いいけど…。)
さて、休暇も終わり作業を再開しよう。
俺たちがローラーがけを行っている間にも、平屋隊舎の外装修理も始まっていた。
その作業も、すでに半分近く終わっていた。
(さすが職人さん! 仕事がはやい!)
平屋の外装修理も、倉庫の外装と同じタイプで「木の皮タイル」が貼られていた。
この木の皮タイルは、かなり俺の好みに合っていた。
見た目から木皮なので、この森にマッチしているし、色合いも、いい焦げ茶色で落ち着く。
そこは、橘さんも同感らしく、かなり満足したいた。
さて、心が満たされたあとは、お腹を満たそう。
そろそろ、お昼ご飯の準備をしよう。
今日のメニューは、昨晩の鍋パーティーのあまりダシ汁を使った「煮込みうどん」と、同じダシ汁を使った「雑炊」だ。
…なに?手抜きだと!
バカ言っちゃいけないぜ!
鍋のあとは、麺と雑炊に限る!
これ常識よ!
すべての具材から出たダシが凝縮されて、このダシ汁が麺に絡んで、最高の味となる。
さらに雑炊は、そのダシ汁をたっぷりと、お米が吸って、最高の雑炊となるのだ。
その証拠に、職人さんたちも、大喜びで食べている。
一粒残さず、完食です。
「あんたのメシ、ほんとうまいな! 俺もこの隊に入れてくれよぅ~!」
などと、冗談か本気かわからない感想を言ってくれていた。
でも、みんな楽しそうに、美味しそうに、食べてくれて、作り甲斐があるってものですよ。
(うん。うん。)
お昼休みのあとは、残りのタイル貼りです。
下処理に、防寒防熱の魔法を施して、木の皮タイルには、防腐処理の魔法を施して、終了だった。
屋根瓦も、所々を修理してもらって、雨漏り対策もバッチリです。
そんなこんなで、本当に4日間で、完成したのだった。
あの幽霊屋敷だった平屋も、見違えるように、りっぱにリフォームされた。
内装の細々したところは、自分たちでやっていくことにしよう。
新築された倉庫兼修練場は、ほんと立派過ぎるほどの出来栄えだった。
(ここが、俺たちの部隊…「隠密機動部隊」の本拠地と、なるのだ。)
俺は、これからのことをあれこれ想像しつつ…この新しい倉庫を眺めていた。
「どうだい?気に入ったか?」
棟梁さんに、声をかけられて、俺は、現実に戻る。
「はい。とても気に入りました。ほんとありがとうございます。これからは、みなさんのお役に立てるように、がんばっていきます!」
俺の意気込みと、感謝の意を込めて言った。
「ワッハッハ! 期待しているぜ! 若隊長さんよ!」
バンッバンッ…って、また俺の背中を叩いて笑う棟梁さん。
その笑顔には、職人としての達成感と、俺たちへの期待感が、たっぷり含まれていた。
俺は、心底…
「ありがとうございます。」
…と。
さらに、バンッバンッ!
背中を叩いて笑う棟梁。
(だから、痛いって!)
…もう、いいけど…。
…たいがいに、慣れてしまったけど…。
そんな俺を、豪快に…あたたかく…笑いとばす棟梁さんだった。
みなさんお疲れさまでした。
よかったね、ホーク。
りっぱな、隊舎が出来て。
ほんと、おめでとう~。
職人さんたちも、ほんとお疲れさまでした。
しかし、この世界のテクノロジーは、すごいね、
地球では、科学技術の粋が集まって、いろんな機械が発明されるけど…
この世界では、知恵と魔法技術での最先端の道具が発明されるのね。
やはり、人って、素晴らしい!
特に、振動ローラーなんて、すごい発想ですね。
そして…やはり、戦闘オタクのホーク。
たしかに、昔の部活では、ローラーを引いて筋トレしていました。
うっ!
思い出すと、目まいが……。
その話しは、置いておいて…。
さすが橘。
抜け目なし!
こっそりとゲートを設置していました。
まぁ…ほんとうのところは、ゲート設置に、気がつかないホークのオマヌケなんですけど…。
橘は、師匠として、心をオニにして、ホークを指導しているからね。
ホークにとって、まずは、魔法よりも、もっと大切なことを身につけることが必要って、ことだね。
特に、念力の使用については、ホーク自身で熟成させるしかないからね。
がんばってね、ホーク。
さて、次回は、やはり…完成とくれば、やることは、ひとつだね。
まぁ、ほどほどに…。
でも…ふつうの宴会とは、言えないように…
では、お楽しみに。




