第50話 始動(3)
さて、次の日の朝。
橘さんの言っていた職人さんたちが、10人ほど集まっていた。
軽く紹介されて、
「よろしくお願いします。」
と、俺は、隊長らしく挨拶をした。
棟梁さんらしい人から、
「あんたが新しい隊長さんかい? よろしく頼むよ!」
バンバン…と、勢いよく背中を叩かれた。
(…だから、痛いって!)
この世界のあいさつかな?
ドレンさんもだったし…。
「親愛の証し」と、受けとっておこう。
それから、みんなで更地になった場所に、お酒をまいて…清め…お祈りをする。
日本でいうところの地鎮祭だろう。
この世界にも、そういう風習があることに
親近感を覚える。
まぁ、ゼクセルを創った人…もとい神さまって、日本の古代神だから、納得いく話しだね。
ところで、棟梁さんが「よろしく」って、言っていたけど…?
こっちの方が、よろしくだけど…?
どういうこと?
橘さんから、説明を受けた。
曰く。
この職人さんたちは、隊舎が完成するまで
ここに、寝泊まりするから、その間の飲み食いを「よろしく!」ということだった。
…なるほど、理解した。
この世界は、賃金では、なく 物々交換だったな。
「よし! まかせてもらおう!」
こちらの感謝の気持ちを、大にして伝えなければ!
がんばった!
走り回った!
ゲットした!
みなさんの胃袋を満足させましょう!
俺は、イノシシと魚を大量に捕まえてきた。
これだけあれば、1週間くらいは、大丈夫だろう。
(…そういえば、完成までに、何日くらいかかるんだろう?)
聞いてなかった。
そういう日程は、ちゃんと把握しておかないと…ね。
俺が作業中の棟梁さんのところへ行くと、驚きの光景が……。
なんと、100本くらいあった木が、きれいさっぱりと、角材に加工されていた。
(マジで?)
そして、今は、残っていた株元の処理をしていた。
その処理方法を聞いて、またぶっ飛んだ!
さすが異星界!
さすが魔法!
残った株元は、使い道がないので、
「自然にかえす!」
らしい。
腐食の魔法をかけて、腐植させて、堆肥として土にかえす。
なんともエコだ!
そういう発想を、ほんと素晴らしいと感じる。
俺は、農家の出身なので、こういう自然循環が、とてもうらやましい。
…で、日程だが…
だいたい3~4日だと。
「はっ?」
(早すぎだろう! ふつう1ヶ月くらいかかるんじゃ?)
……あっ? いかんいかん!
また前の常識で、考えていた。
ここは、異星界。
なんでもアリなのだ。
俺は、脳キンのアタマをほぐすように、首をぐるぐると、ストレッチした。
その日の夕食は、まっさらな更地が出来たので、みんなで焼き肉だ。
マキは、いっぱいあるので、キャンプファイヤーである。
橘さんも大量のお酒を仕入れてきたから、みんなで「乾杯~!」だ。
焼き肉を食べながら、新倉庫の建設場所などを検討する。
訓練場も考えていたいたので、ちょっと大きめの倉庫にしてもらう。
平屋隊舎の外装リフォームは、おまかせした。
そんな話し合いをしながら、宴会は続く。
そして、さすがは、職人さんたち。
飲むは、食うは…で、あっという間に大量のお肉を食べてしまった。
(多めに食糧をゲットしていて、よかった~。)
あとは、各自お風呂に入って、寝床についた。
「みなさん。お疲れさまでした。」
職人さんが来て、2日目。
今日は、俺たちもお手伝いだ。
この世界の建設技術を学ぶには、いい機会だった。
軍人たる者、あらゆる知識を持っていた方が、いいからね。
今回は、倉庫なので、造り自体は、シンプルだった。
ただ、激しい訓練にも耐えられるように、頑丈にしてもらいます。
まずは、基礎となる穴を掘る。
直径1メートル。
深さ1メートル。
の穴を…いくつも……。
俺は、がんばった!
アタマを柔軟にして、自分の能力を活用して、がんばった!
人力で掘り、念力で土をかき出す。
…何?
掘るのも、念力を使え…だと?
まぁ、そうなのだが…念力で穴を掘る作業は、かなり難しいのだよ。
ただ単に、穴を掘るならば、なにも問題ない。
しかし、今回は、建物の基礎穴なのだ。
ちゃんと、計画通りに、設計図通りにしないと、ちゃんとした建物が建たないのだ。
それというのも、俺の念力は、「球状」で作用しているみたいなのだ。
試しに、念力で土を掘ってみたら、スプーンでアイスクリームをすくう感じで、掘れたのだ。
ひと言で言うと、大きすぎ。
まだ、力の制御が甘い俺には、難しい作業だった。
まぁ、俺ひとりの訓練ならば、いいんだけど…今は、建設作業中なのだ。
俺が、みなさんに迷惑をかけては、いけない。
なので、人力でサイズ通りに、穴を掘り、重い土を念力でかき出す作業をしているのだよ。
それに、穴掘りは、いい筋トレになるからね。
土をかき出す作業も、繊細な念力のコントロールの訓練にもなる。
一石二鳥なのだ。
…おっと?
話しがそれてしまった。
元に戻そう。
穴が掘れたら、柱を立てて、コンクリートみたいなものを流し込む。
水平器…(この世界には、地球にあった道具に、よく似ている物がたくさんある。やはり、人類の知恵は、どの世界でも同じなのか?それとも俺たちみたいな来訪者の知恵なのか? どちらにせよ、使いやすい道具とは、類似しているのだ。…人類の叡智を感じる。)…で、垂直を出したら、魔法でコンクリートを固める。
ものの1分で、固まる。
(1分って…。はぁ~ため息しか出ない。)
まぁ、いい。
作業を続けよう。
柱は、腐食を防ぐための薬剤と、魔法との二重防御だった。
この効果で、300年以上は、かるくもつらしい。
(300年って……俺もう死んでいるし…。)
そんなこんなで、科学と魔法の合併で、この世界の建設技術は、かなり高い。
地球よりも、はるかに…。
そうこうしているうちに、基礎となる柱が完成する。
それと同時に、まわりには、足場が組み上がっていた。
ちなみに、この倉庫…
幅20メートル。
長さ30メートル。
高さ8メートルだ。
ちょっとした、体育館くらいのサイズだった。
(それが、4日間くらいで、完成するのか……?)
「はぁ~。」
やっぱり、ため息が…。
ここいらで、休暇に入ります。
「隊長さん。こんなへんぴなところに、新しい部隊って、一体何の部隊だい?」
と、棟梁さんからの鋭い質問。
(隠密は、極秘なので…って、そうだ!)
「えっと…ですね…この部隊は、新人隊員を育成するところなんですよ。 ここだったら、まわりを気にしないで、激しい訓練が出来ますからね。」
とっさに、口から出た。
(ある意味…激しい訓練は、本当だけど…)
「なるほど! よし! わかった! 俺たちにまかせな! 頑丈な倉庫に仕上げてみせるぜ!」
と、棟梁さんの意気込みに、火をつけたみたいです。
少し後ろめたいが、激しい訓練は、本当なので、許してください~。
俺は、チラリと橘さんを見た。
そして…
「よろしくお願いします!」
と、笑顔で答える俺と橘さんだった。
(なんかヘンなところで、息ピッタリ!)
さて、お昼まで、もうひと踏ん張りしましょう。
「棟梁…ゲイル・シャルドネ 55歳 ♂ 183センチ 97キロ キャッスルガーディアン西部支部所属 趣味 昆虫採集。」
この世界の男たちは、なぜか昆虫が好きなやつが多いらしい。
たしかに、カブトムシやクワガタ、カマキリなどは、男子に人気があるからね。
ふむふむ。
ゼクセルの建設技術に、触れられて、たのしそうなホークです。
しかし、完成まで、4日くらいって…
なんとも、プラモデル感覚ですね~。
科学と魔法が融合すると、とんでもないことが平然と可能になるのですね~。
うらやましい!
しかし、棟梁さんの質問は、あたりまえだよね。
橘も、お願いしたのは、いいけど…詳しい説明は、していなかったみたいだね。
ホークの口からデマカセだったけど、育成部隊として、みんなには、認知されるようです。
ひとまず安心。
しかし、師匠と弟子…同じリアクションには、感心しました。
頑張って、部隊を組織してね。
さて、次回は、新倉庫も完成に向けて、ラストスパートです。
ホークも、またいっぱいイノシシを捕まえてきてね。
では、お楽しみに。




