第39話 接見
裏庭にある「ゲート」のところでは、すでにふたりが待っていた。
「お待たせしました。」
足早に駆け寄った。
…見ると、確かに、軽装。
ドレンさんも、リュックサックひとつだけ。
橘さんにいたっては、手ぶらだった…刀は、差しているけどね。
では、待ちに待った(?)「ゲート」初体験の時がきた。
…と、その前に「ゲート」の説明をしよう。
うんちく。
「ゲート」とは、設置型の転移魔法装置。
ゲートとゲートを結ぶ移動手段。
あらかじめ、転移先のゲートの情報…(緯度、経度などの地理的情報。又は、地名などの表記地)…をセットしておく。
そして、使用者がこの魔法陣の中で、セットされた行き先のゲートをイメージするだけで、魔法が発動して、転移する。
という仕組みだ。
問題点とすると、複数の人で転移する場合だ。
みんながバラバラの行き先をイメージすると、魔法が発動しない。
これを防ぐには、みんなが手を繋ぐとかして、触れ合っていると、代表者がイメージした行き先に転移することができる。
それと同じ原理で、動物とかも、使用者が触れていれば、いっしょに転移できる。
あとは、道具や荷物などの物質も、触っていれば、転移可能だった。
…ということで、「さあっ出発だ!」
(もちろん、俺は、わからないので、ドレンさんの肩に、手を当てているだけだ。)
………って、一瞬だった!
なんの体感もなかった!
あの「グニャグニャ感」は、やはり、ファンタジーアニメだけのようだ。
考えてみると、あたりまえのこと。
転移するたびに、あんな感じで、グニャグニャしていたら、酔いそうだ。
みんなゲロしまくりで、後始末が大変だろう。
…で、気を取り直して、周りの景色を確かめてみる。
石造りの何もない部屋。
どこかの地下室って感じだ。
天井は、高く、陽射しは、ないけど、明るい。
(魔法のおかげかな?)
俺たちが立っている場所は、一段上がった舞台みたいな感じだった。
その時…
「さあっ、着いたぞホーク! ここが王宮だ!」
バンっバンっ!
俺の背中を叩くドレンさん。
(だから…イタイって! いいかげん…手加減ってやつを覚えてくれよ~。)
俺は、涙目になりながら、ドレンさんのあとをついて行く。
大きな扉を開けて、部屋を出ると、そこは、「ベルサイユ宮殿か?」(行ったことないけど…。)と、叫びたくなるほどの豪華な大広間だった。
(転移してきた部屋は、地下室ではなく、1階フロアだったか…)
床には、煌びやかな刺繍が施された赤と緑のツートンカラーの絨毯が敷いてあった。
このまま踏むのが、気が引けるくらいの立派な絨毯。
そして、天井からは、細かいガラス細工が、施してある、見事なシャンデリアが、いくつもぶら下がっていた。
窓には、ステンドグラスが貼られて、美しい光が差し込んでいた。
この世界の建築技術の高さと、芸術文化の素晴らしさに、しばらくの間…見とれてしまった。
聞けば、王宮の宴会場……舞踏会や晩餐会などが開かれる会場らしい。
(なるほど…ここは、見栄を張らないと、いけない場所なのだな。)
さすが王宮…と、いった感じである。
そして、俺たちは、2階へと上がって行く。
「これから現王…サウスランド・ザク王に、挨拶に行くぞ。」
と、ドレンさん。
「えっ?ちょっと待って?…いきなりですか?」
動揺する俺に、ドレンさんは、笑いながら言う。
「ハッハッハ。ザク王は、お優しく、気さくなお方だ。そんなにガチガチにならずともよい。普段通りでいいとも。」
…そうだな。俺みたいな、いち兵士にも会ってくれるのだ。
こっちが、緊張しまくるのは、かえって失礼というものだな!
…って、緊張が緩むと、また、いらぬ考えが……。
「ザク王?…ザクだと。グフではなく!」
お決まりのネタで、ひとりウケていたら…
「「グフ…?」」
と、ふたりから、なんのことだ?
みたいな視線がイタイ。
(…おっと?心のつぶやきが、口に出たらしい。)
気をつけなければ。
「すみません。独り言です…。」
と、ごまかして笑った。
そんなこんなで、緊張もだいぶほぐれた。
(よし。大丈夫だ!あとは、しっかり誠意と敬意を持ってね。)
2階に上がると、その奥には、これまた素晴らしい彫刻が施された、重厚感溢れる扉があった。
その扉の前には、ふたりの衛士が立っていた。
そのふたりからも、ただならない気配を感じる。
(この人たちも、ガーディアンズかな?)
ごく自然なたたずまいが、逆にスキのなさを感じさせる。
(…気が抜けないな。)
橘さんとドレンさんを確認したふたりの衛士さんは、ニッコリと微笑んで、丁寧に挨拶していた。
そして、興味の視線は、俺に注がれている。
もちろん俺という異世界人…もとい異星界人を吟味しているのだろう。
俺は、折り目正しく一礼した。
それを見た衛士さんたちは、俺にもニッコリ微笑んで…
「ようこそ。王都グロリアへ。ホーク殿。」
と。
(さすがガーディアンズ。ちゃんと俺の情報は、把握されているみたいだ。)
「よろしくお願いします。ホークです。」
俺も挨拶を交わす。
そして、いちおう合格だったらしい。
「コンコン。」
扉の呼び鈴を鳴らして…
「王よ。橘様、ドレン様、ホーク様が、お見えになりました。」
と、中にいるであろうザク王に告げた。
「うむ。入れ!」
扉の内側から、低音のよく響く声がした。
そして、ふたりの衛士さんが、それぞれ左右の扉を開き、俺たちを部屋の中へと、案内した。
「サウスランド・ザク ♂ 52歳 182センチ 83キロ ティフブルー王国の現王 拳王にして賢王。国民からの支持も厚い。デロンギ流格闘技の継承者 魔法戦よりは、格闘戦が大好き。趣味 乗馬。 」
いや~ゲートってば、一瞬でしたね。
なんの体感もないほどに…。
少し残念で、かなりホッとしたホーク。
これで、次からは、大丈夫だね。
それにしても、王宮って、やはりベルサイユ宮殿みたいな感じなんだね。
まぁ、あくまでもホークの感想ですからね。
さあっ、いよいよザク王との面会ですよ~
グフとか言っている場合じゃないですよ~。
しっかり、頑張ってね。
さて、次回は、ホークの配属先が決まりそうです。
ホークとしたら、フォウを護衛したいみたいだけど…。
さて、どうなるやら…。
では、お楽しみに。




