第37話 史実(3)
霊峰「オニール」の蹂躙が、終わったあと、邪蛇神の前にひざまずく者がいた。
龍山率いるデモンズの幹部たちと、生き残った戦士たち。
そして、龍山が挨拶を述べる。
「御復活…お待ちしておりました。我らが神よ。」
頭を深く下げる。
『うむ。我もこの日を待ちわびていたぞ。 ご苦労だったな。 シャッシャッシャッ――――!!!!』
邪蛇神は、笑う。
「もったいないお言葉、ありがとうございます。」
一堂がもう1度、頭を下げる。
深く…深く。
「ところで、我らが神よ。 そのお姿は、どのような感じで……。」
龍山は、考えていた。
(ヤマタノオロチ様は、8つの頭を持つ蛇神様と、聞いておったが…?)
そうなのだ…今、龍山たちの目の前に、顕現した邪蛇神は、4つの頭しか持っていなかったのだ。
(封印解除が完全では、なかったか? あの…最後の邪魔が原因か?)
龍山の問いかけに、邪蛇神は、お互いの頭を見つめ合いながら……
『頭が足りぬのぉ~。』
『そう言われると、そうじゃ。』
『まぁ~よかろう。』
『そうじゃ。気にするな。』
と、さすがは、絶大な力を持つ邪蛇神。
フトコロが大きい…というか、大雑把だった。
頭の数から推測できるが、封印解除は、50%しか、出来ていなかったみたいだ。
それでも…
『シャッシャッシャッ――――!!!! 気にするでない。』
『そうとも。』
『王家を潰せばよい。』
『その後、ゆっくり封印解除をすればよい!』
邪蛇神は、笑う。
解放されて、機嫌がいいのだろう。
今の状態でも、絶大な力を持つのだから。
そして…「スサノオ」は、もういない!
邪蛇神は、思う。
『自分を封印できる者は、もういない。』
『我の天下だ。』
『悪意で、造り変えよう。』
『皆殺しだ。』
…と。
それは、油断だった。
同じ轍を踏むことになるとは、想像もしなかった。
…いや。できなかった。
邪蛇神は、本能のみで生きる邪神だったからだ。
「後悔あとに立たず。」…なんて言葉は、邪蛇神の思考には、存在しないのだ。
各王国に震撼が走る。
「邪蛇神の復活!」
備えは、していたが…実際に復活したとなると、動揺は、するものだ。
各王国間で、緊急の対策が話し合いが、行われた。
しかし、決定的な案は、出なかった。
なにせ相手は、神話級の邪蛇神だ。
仕方のないことだった。
ともかく、邪蛇神をあの地より、外に出さないようにすることだった。
その間に、魔術師による再封印の術を完成させる…という作戦が決められた。
その作戦は、すぐさま行動に移され、邪蛇神を足止めする為に、精鋭部隊が編成されて、攻撃が開始された。
その激しい攻防は、10日間ほど続いた。
霊峰「オニール」の周囲では、戦闘の余波で、樹海は、燃え尽き…大地は、えぐれた。
えぐれた大地からは、溶岩が噴き出し…。
まさに、「地獄絵図」だった。
それでも、人類は、果敢に戦っていた。
いや…あの邪蛇神相手に、善戦している…といっていいだろう。
その激しい戦いを支えていたのは、「金剛力の王」ことジーク王の「挫けない強い意志」を筆頭に、
「叡智の女神」たるミカ王妃の「絶対防御の盾」。
そして、何モノも斬り裂く「抜刀神」橘 康介。
彼らが先頭に立ち、戦いを支えていたからだった。
しかし…10日間は、長かった。
みんなの体力は、もちろん…魔力も、尽きかけている。
邪蛇神の方も、いささか力の低下をみせていたが、それでもまだまだ、凶悪的な力を持っている。
そして…いっときの静寂が戦場に訪れた。
ひとときの疲れを癒やす食事のとき、ミカ王妃が、何気ないことを言った。
「日本神話では……スサノオは、酒で酔わせて、ヤマタノオロチを退治したそうよ。」
…と。
この神話は、ゼクセルには、伝わっていなかったらしく、ジーク王をはじめ、一堂みな目を丸くして、驚いた。
橘は、日本人だから、その神話は、知っていたが…まさか、そんなバカげた方法で……しかも、マユツバな伝説……と、思ったが…
実際…ここにヤマタノオロチがいる!
案外いけるかも?
…と、一条の光が差した。
実際問題、すでに手段は、出し尽くしていて、新たな選択肢は、なかった。
…というのが、現状だった。
議論する時間もなく、ミカ王妃の案は、すぐに実行された。
各王国より、選りすぐりの食材と酒が集められた。
そして…「世紀の宴」が開宴されたのだ。
ヨダレが出そうなほどに、美味しそうな肉と魚。
となりには、新鮮な野菜と果物。
そして、野外といえば、「バーベキュー!」。
ジーク王をはじめ、戦士たちみんなで、本気の宴が始まった。
うまそうに焼ける肉、肉、肉。
魚は、刺身となり、みんなの胃袋へ。
そして、うまい酒。
辺りには、香ばしい匂いと、歓喜に包まれた。
みんな楽しそうに、大盛り上がりだった。
…そして、邪蛇神が現れた。
『人間よ。我にもソレを寄越すがよい!』
待ってました…とばかりにミカ王妃が、酒と刺身、焼きたての肉を差し出す。
邪蛇神は、ペロリと完食し…
『おかわりじゃ。』
…と。
大昔に、同じ方法で退治されたことも忘れて…。
そう…邪蛇神ヤマタノオロチも宴会が大好きだったのだ。
結末は、言うまでもなく……。
酔っぱらいの邪蛇神とはいえ、10メートルを超える巨体だ。
暴れまわられると、面倒なので、ジーク王自らが邪蛇神の巨体を抑え込み、4つの頭は、橘が一閃。
仕上げは、ミカ王妃の封印魔法で、退治完了!
そして、最後に邪蛇神が笑う。
『あっぱれ人間よ!』
『今回は、おとなしく引こう!』
『また必ず復活するぞ!』
『その時は、また酒を振る舞え!』
『シャッシャッシャッ――――!!!!』
笑いながら、消えていった。
そして…一振りの刀が残されて…
その刀は、橘の愛刀と融合した。
その愛刀は、神刀「クサナギ」と、なった。
…………バカ?。
まぁ~なんにしろ、ヤマタノオロチは、無事に封印されたのですねぇ~。
しかし、やはり感心するのは、ミカですねぇ~。
そんなバカげた方法を実際に行ったことが、すごい!
まぁ、当事者たちにとったら、決死の覚悟だったのだろうね。
…で、やっぱり伝説の通り、ヤマタノオロチからは、神刀が出現したのですねぇ~。
まるで、RPGですね。
いや…ファンタジーだから……。
さて次回は、ホークの今後の生き方を決める時が来たようです。
さて…どうなることやら…。
お楽しみに。




