第31話 敵状
とある森の中。
大きな日本家屋が不似合いに建っている。
…いや。森のうっそうとした、雰囲気の中で、この古びた趣のある屋敷は、似合っているのだが…その気配が、尋常ではなかったのだ。
密林の沈黙した空気の中に、そこだけ怪しく…禍々しく…鳥肌が立つほどの気配が漂っていた。
そこは、ふつうの人間を寄せ付けないほどに…。
その古びた屋敷…もっと、厳密に言えば、武家屋敷…と、言っていいほどのりっぱな建物の中の一室。
これまた、りっぱな造りの大広間。
ゆうに20畳はある大広間…よく手入れが行き届いた畳。
そのイグサの香りが、心地よい。
四方のフスマには、春夏秋冬を描いた見事なまでの水墨画。
フスマの上には、大蛇の絵柄が彫刻された、これまた見事な欄間があった。
よくぞここまでの…というほどに造り込まれた大広間。
現代の日本だと、間違いなく国宝級の一室だった。
その国宝級の大広間に集まる6人。
それぞれからは、ただならない気配が漂っていた。
その気配は、あきらかに強者の「ソレ」だった。
その中でも、ひときわ強いオーラを持つ者がいる。
その者は、繊細で美しい彫刻が施された座椅子に鎮座している。
鎮座する最長老の男の名は、「龍山」。
この男こそが「デモンズ」の総帥である。
貫禄のある体格…身の丈は、180センチを超えるいい体格だ。
黒を基調とした和服に、その身を包んでいる。
髪型は、短髪のロマンスグレーといった感じで、清潔感を漂わせる。
その風貌は、60代後半くらいに感じさせるが、その眼光は鋭く、かなりの威圧を放っている。
とても初老とは、思えない精力溢れる男だった。
その龍山を上座にして、左右に3脚ずつの…これまた豪華そうな座椅子が並ぶ。
ただ…最後の1脚が、空席のままだった。
龍山が、重い口調で言葉を発する。
「皆の者。今日は、よく集まってくれて、ありがとう。 気づいている者もいると思うが、先日…我らが同志…ヤザンの気配が消えた……。」
―――「「なっ!!!」」―――
一堂に驚きの表情を浮かべ、ざわめき出す。
「誰がヤザンを……そいつは、俺が殺す!」
そう怒りを表すのは、赤毛の男。
いかにも武将といった雰囲気を持つ。
見るからに、気性が荒いような鋭い目をしている。
名は、「サラマンドル」。
古参のひとりで、「業火の星」の異名を持つ男。
続いて…
「まことですか?龍山様。 あの…慎重で抜け目ないヤツが……。」
メンバーの中で、いちばんの巨体を持つ男。
雰囲気は、物静かだが、その秘めたる力は、他者を圧倒する。
この男の名は、「ダイ・アモン」。
「金剛の星」の異名を持つ。
「確かに…ヤザンは、用心深いわね。 そう簡単にやられるような男では……。」
金髪の長い髪を右手でとかし、妖艶な色気を振りまく美女。
名を「ジュリエット」。
「木蓮の星」の異名を持つ魔女。
「………。」
仲間の訃報に、悲しげな沈黙を続ける…ハタチ前後とみられる黒髪の美少女。
名を「サヤカ」。
「水禍の星」の異名を持つ。
…見るからに、日本人である。
「…皆、落ち着くのだ! そして、龍山様の御話は、まだ終わっていない。 最後まで、聞くのだ!」
そう言うのは、龍山の最たる腹心の男。
名を「蛇光」。
千年以上前に、龍山と共に、この世界へと来訪した者だ。
その風貌は、まさしく影。
全身を黒で染めて、闇にまぎれる者。
蛇光のひと言で、みんなの口が閉じ、その場に静けさが戻った。
「うむ。」
そして、龍山が続ける。
「ヤザンは、ワシの指示で、新たな来訪者の調査に向かったのだ。 ちょうどアヤツがおったところに近かったからじゃ……。」
龍山が事の経緯を説明する。
今から半年ほど前に、かなりの空間の歪みを感知した。
そのエネルギー量から推測すると、かなりの能力者が発現したことは、間違いなかった。
だが、その気配は、すぐに薄くなり、それ以上の追跡ができなかった。
ある程度の方角から、ティフブルー王国ということは、わかったので、その近くの地方にいたヤザンに命じたのだった。
素性を調べて、味方にできるかどうかを…。
そして昨日…ヤザンの気配が途絶えた。
通信魔法も繋がらない。
龍山が忌々しく言う。
「あの国は、ちと厄介じゃな! 我らとしても、ムダに同志を失いたくはない。」
龍山は、千年以上生きる反逆の王だ。
その力は、いうまでもなく最強にして、最凶。
その智は、慎重にして狡猾。
その性格は、豪胆にして残虐性があり、ある種のカリスマを持っていた。
まさに暗黒の破壊神といった感じだが、仲間を大切にする…という人間臭さも持っていた。
そんな龍山だからこそ、ここは、いっそう慎重になる。
現在、ティフブルー王国は、魔法国家として、いちばんの大国だ。
ゆえに、その結界魔法によって、侵入や情報収集が容易ではなかった。
事実、ヤザンという「七曜の星」の幹部のひとり…「土師の星」を失った。
ティフブルー王国は、龍山の野望の前に立ちはだかる障害だった。
おいそれとは、手出しが難しい国だったのだ。
しかし、今回の来訪者は、見逃せない存在だと、考える。
龍山は、この問題に少し頭を抱えていた。
そんな苦悩する主をみた第一の腹心である蛇光が言った。
「情報収集は、わたくしめにお任せ下さい。龍山様。」
龍山は、思案し…蛇光ならば…と、考え
「…うむ。わかった。 おまえに任せよう。 ただし無茶は、するな! その者が、どんなヤツか解ればよい。」
そう言って、龍山は、目を閉じる。
そして、蛇光が姿を消した。
「 龍山 ♂ 182センチ 85キロ デモンズ総帥 千年以上前にゼクセルに来訪した。「真眼」という解析能力を持つ。 「邪蛇神」という太古の蛇神を主祖様として崇めている。そして主祖様の解放を信条とする反逆の王。」
ヤザンの襲撃事件の翌日。
別荘に、ドレンさんと、なんだか怖そうな衛士さんたちがやって来た。
(別荘は、キレイに掃除しててよかった~!)
ふう~。
なんとかドレンの登場が、間に合いました。
「デモンズ」…なんだか、怖そうな組織ですねぇ~。
その幹部を抹殺したホークたちは、どうなるんでしょう?
さて次回は、ホークの元にやって来た怖い衛士さんたちのお話しです。
お楽しみに。




