この人の笑顔を護る!
陽もだいぶ傾き辺りは、鳥の鳴き声から虫の鳴き声に変わりはじめた頃、再びノックがした。
「コンコン。」
「どうぞ…。」
ドアが開いて、
「こんばんは。落ち着きましたか?」
と、その女性がやさしく問いかける。
「ああ…。はい…。ありがとうございます。大丈夫です。先ほどは、失礼しました。」
俺は、だいぶ冷静さを取り戻したかのような…いや。体裁をつくろって答えた。
そんな俺の態度を解きほぐすように…
「お茶。いかがですか?」
と、やさしく微笑み、金髪の美女は、ベッドのすぐ横のテーブルに運んでくれた。
「…ありがとうございます。いただきます。」
俺は、体を起こして、テーブルの椅子に腰をおろした。
白いティーカップに注がれたハーブティーは、とてもいい香りがした。ジャスミンティーだった。ジャスミンの香りは、心を落ち着かせてくれる。ひとくちいただくと、
(はぁ~。うまい。…なんか落ち着く…。)
「おかわりいかがですか?」
と、金髪の美女が。 …気がつくと、もう飲み干していた。 そして、やさしくおかわりを注いでくれた。
「あ…すみません。いただきます。…あのぅ……。」
俺は、言葉に詰まった。なんて呼んでいいのか、分からなかったからだ。
「ふふふ。フォウ…で、いいですよ。ホーク様。」
と、少し照れたように言う。
「えっと……フォウさん。俺のことも『ホーク』で、いいですよ。様なんていりません。」
「ふふ。そうですか~。わかりました。ホークさん。」
フォウさんは、ニッコリ微笑んでいた。
(…なんかこの人。妹だったユリを思い出させる。見た目は、全然ちがうのに……)
ただ…疑問がある。なぜこの金髪の美女…フォウさんは、俺に対して、このように献身的にしてくれるのか?ということだ。
(なにが狙いなのだ?) もちろん俺には、莫大な財産などない!(笑)…見ればわかることだ。…それは、ないだろう。
(俺がもっている情報か?) どうも俺は、この人たちにとっては、異質な人種なのだろう。だから、その知識を得たいのか?
(…まぁ、助けてくれた恩もあるので、力になれることがあれば、やぶさかではない。)
…なんにしても、俺が回復してからの話しだろうね。
だから今は、甘えさせていただきます。
それから、色々な話しを…俺のいた世の中のことをした。
もちろん、世間一般的なことだ。
俺のいた世間は、特殊だから…一般的には、理解されにくいからね。
でも、こうなったいきさつは、ある程度のことを話した。
軍関係の任務ということを。そこは、ウソをついても仕方がない。
実際に、助けられた俺は、モロに戦闘服だったし…重傷だったし…。
彼女は、ただ黙って、興味深そうに聞いていた。
「俺は、あの爆発の影響で…こちらの世界に来た。ということなんですかね?」
「そうですねぇ~。そんな不思議な出来事があるのですねぇ~。でも、たまにいらっしゃいますよ。」
と、何気ない口調で、彼女は、言った。
(たまにいる?)俺の動揺とは、裏腹に…。
「ホークさん。不安でしょうけど。安心してください。わたくしも、しばらくは、ここにいるので、これからのことは、ゆっくり考えましょう。お身体のことも、ありますからね~。」
「そう言ってもらえると、助かります。ほんとに、ありがとうございます。」
と、心から感謝した。…こんな俺に……。
そして、しばらくの間、お世話になることになった。
ただ…気になることが…「たまにいらっしゃいますよ。」って、言っていたような。
まぁ、そのことは、おいおいだな。
俺は、ジャスミンティーのおかげで、やすらかに眠りに入れそうだ。
そして、窓から見える、きれいな星空を眺めながら、ゆっくりと眠りについた。
かなり冷静になり、今の現状を客観的に観察できるようになった。
ひとつ感じたことは、…この世界は、というと、かなり平和で過ごしやすい!
(まぁ、今いる…この場所だけの感想だが…)
俺のいた世界よりは、科学という面では、かなりレトロな感じだが…基本的には、そんなに変わらないようだ。
大気に関しては、なにも問題がない。
問題があれば、すでに死んでいるだろう。
むしろ、こっちの世界の方が空気が、おいしい。
環境は、地球とほぼ同じような感じだ。
…少し、重力が軽いかな?
そして、ごはんがおいしい! これは、大事なことだ。 それともうひとつ。
お風呂もある! 少し感じが違うが「温泉」みたいなものがあるのだ!
そう!俺は、温泉が大好きなのだ!
俺の育った福岡(糸島)にも、温泉があった。
「まむし温泉」という、いい温泉があった。かの空海…弘法大師が入ったという、由緒正しい温泉なのだ。
その温泉にオヤジとよく入ったのだった。
その影響で、俺は、温泉が大好きなのだ!
温泉歴は、20年以上経った今…温泉と酒さえあれば、どんなところでも、生きていく自信がある!
(裏を返せば、温泉と酒がなかったら、死にそう……。)
おっと、話しがそれたが、もとに戻そう。
あとは、なんていうか…平和感というか、幸福感…なんとも穏やかな気分がするのだ。
戦いが、日常だった俺が…だ。
でも、たぶんそれは、フォウさんという存在のおかげなのだろう。
あの人のふわふわした雰囲気で、まわりをあたたかく包んでくれるイメージがした。
そう…まるで太陽のように…。
そして…ユリみたいに……。
戦場の中で、生きてきたホーク。いつしか、ただ敵を殲滅するだけの殺人マシーンだったホーク。その彼がフォウというあたたかい人間と接して、次第に元の彼に戻り始めた。そして、また彼の前にあらたな太陽が…差しはじめる。




