第28話 激突(3)
それは、昨日のこと。
夕飯の準備で、庭の菜園から、野菜を収穫していた俺は、視線を感じた。
殺意は、感じない…だが、その視線は、俺の隅々まで、観察するように、しつこくまとわりつく。
(ウザい!捕まえるか!)
…いや。これは、かなりの遠距離か?
魔法による視線かな…?
さてさて…どうしたものかな…。
俺は、気にする素振りを見せずに、収穫を続けた。
そして、夕飯のときに、橘さんに相談したのだ。
「橘さん。さっき、野菜を収穫していたら、なんか変な視線を感じたッスけど…どうしますか?」
「ホークもか?ワシもじゃよ。」
橘さんも視線を感じたらしい。
間違いなく、敵さんの仕業なんだけど…俺たちを監視して、襲撃の準備をしているのだろう。
そのせいもあり、この2~3日は、俺たちの修行は、剣術しかしていなかった。
俺も橘さんも、同じ考えだったのだ。
「敵には、手の内は、見せない!」
暗黙の了解だった。
そして、今日は、あからさまな視線を送ってきた。
「襲撃するぞ!」
と、みていい合図だろう。
「まぁ、目標は、おぬしじゃろうからな。ワシは、知らん。おぬしの好きにするがいい。」
などと、丸投げされた。
「俺ッスか?え~面倒くさっ!」
ジッと、橘さんを見る。
我関せず…と、ばかりに、焼き肉を食っている。
…うまそうに……。
「まぁ、そんなに面倒くさがるな。いい退屈しのぎの相手が、できたじゃないか。ついでに、今の修行の成果をみせるがいい。」
「…はいはい。わかりましたよ。」
俺は、しぶしぶ納得した。
(ふむふむ。考えてみたら、いっさいの手加減なしで、いけるかもな。これは、ナイスタイミングかも?)
訓練で、身につけたことを実戦で発揮することは、結構難しい。
いかに、100%に近く、力を発揮できる者が戦場での勝敗を決める。
そうなのだ!チャンスなのだ!
俺は、ニヤリと笑う。
俺を見た橘さんも、ニヤリと笑った。
やはり、俺と橘さんは、同じベクトルにいるようだ。
ハタから見たら、男ふたりでニヤけて、気持ち悪いかもしれないが……。
そんなことにかまわず、俺たちは、なにか変なテンションで、相手をどのように料理するのか、談義したのだった。
ちなみに、俺たちの夕飯の料理は、「イノシシの塩こうじ焼き」と、さっき収穫した「野菜サラダ」だ。
イノシシ…(のようなもの。何度も言うが、俺の主観である。)…は、裏山で捕獲した。
別荘の食糧が、少なくなってきたら、俺の修行という名の「狩り」が、行われる。
この裏山には、野生動物が、けっこういて、食糧には、あまり困らない。
特にこのイノシシは、畑を荒らすので、農民たちの天敵となっていた。
だから、農家の人たちは、このイノシシを捕獲して、食糧にしていた。
日本でも同じだった。
俺の育った田舎でも、イノシシを捕獲したら、みんなで食べていた。
イノシシを捌くことにも、慣れていた。
カッターナイフひとつで、上手に捌けるのだ。
そして、焼き肉とシシ鍋だった。
そんな嫌われ者のイノシシ君だが、やはり美味しいのだ。
だから、冬場の農民たちの主食となっていた。
しかし…やはり、畑を荒らされることが、困り事なのだ。
まぁ、この別荘には、結界があるから、菜園やあの美しい庭園を荒らされる心配は、ないのだけど。
もし、荒らされたら、このオヤジの逆鱗に触れそうだ。
間違いなく、八つ裂きにされるだろう…ね。
…おっと。話しがそれてしまった。
で、イノシシだが…イノシシの肉を塩こうじに漬け込むことが、最近の俺たちのブームだった。
ミカ様が、この前に持ち込んでいた「もろみ」を見て、俺が日本で「塩こうじ」が流行っていることを話したら、「ぜひとも、試したい!」と、ミカ様が作ってくれたのである。
おまけに「醤油こうじ」もアレンジで作ってくれた。
(さすがは、ミカ様。ありがとうございます。)
この塩こうじに、イノシシ肉や魚を漬け込んで焼いてみたら、ものすごくおいしかったのだ!
それからすっかり、「塩こうじ漬け」に、ハマったのだ!
ミカ様も、「王都で流行らせる!」と、息まいていた。
「醤油こうじ」のほうは、刺身に添えたり、豆腐や温野菜に添えたりして、食べている。
そんな感じで、またも宴会が盛り上がっていた。
後日談…。
橘さんより、一振りの刀をいただいた。
まぎれもなく本物の日本刀。
刀身が少し短い刀。
昔、橘さんが使っていたシロモノだった。
片手で振るうのに、ちょうど良いサイズの刀だった。
「ありがとうございます。精進します!」
「うむ。励むがよい。」
俺は、新しい「相棒」を手に入れた。
…そして、侵入者がやって来た。
明けましておめでとうございます。
新しい年の始まりですね。
今年も元気に頑張っていきましょう。
さてさて…なにやら戦闘シーンでは、ありませんが…。
ストーカーまがいの行為に、イラッとするホークですが、師匠の言葉に前向きな発想へと…。
やはり、戦闘オタクのホークですね。
それよりも、塩こうじ漬けのイノシシ肉…
めちゃくちゃ美味しそう!
食べてみたい!
そして、師匠からいただいた刀を存分に振るうホーク。
またひとつ…強くなったね。
さて次回は、決着の時です。
お楽しみに。




