第26話 激突
「パチッ。パチッパチッ。」
気持ちいい音が、暖炉から聞こえくる。
辺りは、静けさで時が止まったかのように、沈黙していた。
月も隠れ、星がよく見える。
(新月のためだろう。)
ただし、はっきりと輝く星とは、裏腹に…辺りは、深い闇に包まれる。
(作戦には、いい夜だな。)
「やっと、来たか…!」
俺は、静かに集中して、「防御魔法」の発動を準備する。
橘さんは、ただ静かに、暖炉の前で、座禅を組んでいた。
「愚かな侵入者に、やすらかな死を…。」
と、告げると一閃。
橘さんが抜刀すると、暖炉の火が消えた。
「手加減無用!」
暗闇になった部屋の中に、その言葉が響き、気配が変わる。
戦闘モードに入った橘さんが、もう一閃。
「ゴトリ。」
闇の中に、侵入者の頭が落ちた。
それを皮切りに、戦闘が始まった。
俺たちは、素早く表に出る。
部屋の中だと、身動きがとりづらいし、敵からは、制圧されやすい。
…敵の気配は、多い。
あたりまえだが、奇襲をかけるには、数の利があったら、成功率が上がるからな。
そして、肝心なことは、「部屋を汚したくない!」…これだな!
(この別荘に、被害を出したら、とんでもないことが起きそうな…。)
おっと?
今は、戦闘中だったな…集中しよう。
俺たちは、表に出ると、お互いに背中合わせで、敵を討つ。
多勢を相手にするのだ。
弱点である背中を、お互いに守り合うことは、基本だ。
そして、向かってくるヤツから、仕留めていく。
暗くてよくわからないが、どうも敵は、人間じゃあないような雰囲気だ。
(人の気配は、感じない。代わりに、イヤな気配だな…。)
そして、どこか規則正しい…操り人形のような動きだ。
かといって、楽勝ということではない。
うじゃうじゃと、湧いて出る感じで、キリがない!
だが、手を抜いているヒマもなく、ひたすら敵を叩き斬る。
俺は、橘さんからの教えを忠実に実行する。
斬撃は、「つなぎ」が大事!
打撃でもそうだが、一撃のみの単発で終わらないようにする。
斬撃という線と線を繋ぎ合わせて、円になるように…無限につながる円のように…。
俺たちは、湧いて出る敵をことごとく、叩き斬っていった。
「おっと?」
なにやら、敵陣から魔法攻撃が、加わってきた。
「火系」の攻撃魔法のようだ。
「………!」
気を集中させる。
―――キンッ―――。
俺のまわりは、魔法攻撃を無効化した。
背後にいる橘さんのまわりも、無効化が出来ているようだ。
襲ってくる火の玉は、見えないバリアに当たって、消滅している。
「すまんな!」
橘さんからの言葉だった。
「どういたしまして。」
俺は、ニヤリと答える。
そして、また押し潰すように、湧き出る敵を叩き斬る。
戦いの最中、ふと思うことが…。
おそらく…今、襲ってきている操り人形も魔法のたぐいに、間違いない。
だが…不思議なことに、この操り人形は、俺の防御魔法には、反応しないようだ。
今も、降り注ぐ火の玉には、ちゃんと反応している。
(…不思議だ?)
俺が直接、この操り人形に触れると効果は、あるのかな?
そんなことを考えるが、今は戦闘中だ。
試すなんてことは、しない。
するはずもない。
そこまで俺も、バカではない!
(あとで、橘さんに聞いてみよう。)
結局…他力本願だが…。
現状は、この操り人形を殲滅するのみ。
(しかし…キリがないな!)
この物量攻撃…間違いなく、俺たちを圧死させることが目的だろう。
攻撃魔法は、効かないのだから…。
この厄介だが、押し迫る操り人形に、対処すればいい。
そして、スキをみて、本命の敵を潰すのだ。
俺は、背後の橘さんを確認する。
橘さんは、なんの問題もないように、余裕で、操り人形を蹴散らしていた。
(あっ?そういえば、俺の好きなようにしていい…って、言っていたな。)
敵の目標も、俺みたいだし…ならば、遠慮は、無用だな!
俺は、本命の敵である「ヤツ」の気配を探す。
「ヤツ」…あの「のぞき見」していたヤツだ。
(…………。)
だが、なかなかヤツの気配が感じられない。
うまく気配を断っているようだ。
おまけに、このゴキブリのような操り人形が気配の邪魔をしている。
次々に、湧いて出る操り人形……
「マジで、しゃ~しい!」(博多弁)
(終わらせる!)
俺は、ギアを上げる。
そして、片っ端から、ぶった斬る!叩き斬る!叩き斬りまくる!
斬られた操り人形は、すぐに崩れ落ち…土になる。
どうやら、敵は……?
(なんか…こういうの、マンガで見たな。)
なんだっけ?…ゴーレム…?ゴーレム使い?
何かの術で、土人形を作り、操る魔法。
このあたりは…というか、あたり一面の地面は、土だ。
ということは、ほぼ無限に、この操り人形が出てくる…ということだな。
(まぁ、斬撃の練習には、もってこい…だけど…。)
…しかし、ほんとにキリがないな!
(本命は、どこだ?)
俺は、さらに集中して、ヤツの気配を探ろうとしたとき…うしろから…
「ホーク。上じゃ!」
と。
(さすが師匠!)
俺の視線は、暗闇の上空に向いた。
(いた!)
「パンッ。パンッ。パンッ!」
ヤツの位置を認識したと同時に…
俺は、マグナムを3発ブチ込んだ!
星空がきれいな夜に、襲撃とは、不粋な敵さんですね~。
ホークは、この世界での初めての、本格戦闘に少し、戸惑い気味だけど…
そこは、師匠の橘に手助けしてもらって、だいぶ慣れてきたみたいだね。
そのあたりは、さすがの格闘センスだね。
敵の操り人形に、かなりイライラしたホークだったけど…。
さて、次回は、その戦闘に決着をつけましょう。
どんな決着になるのかな?
お楽しみに。




