第18話 就活
橘さんからの話しを聞いていて、ずっと気がかりなことがあった。
それは、現代社会に生きる者の掟…「働かざるもの食うべからず!」だ。
異世界人といっても、そこは、同じだろう。
ドレンさんも橘さんも、れっきとした軍人さんだ。(おまけに、ふたりとも階級持ちだし…。)
それに比べ、俺は、ただの居候だし…。
いちおうは、食材の調達…別荘の掃除、洗濯とかのお手伝いは、しているけど、やはり…どうみても「ただのプーさん!」。
俺としては、大の大人が「プーさん」ということが、許せないのだ。
(働き者の俺としてのプライドが…!)
フォウさんには、返しきれないほどの恩がある。
こんなことでは、その恩が返せるはずもない。
…ということで、職探しだ!(就活だ!)
そういえば、この世界には、どんな仕事があるんだろう?
「軍隊」は、あるみたいだ。
実際に、ドレンさんと橘さんは、国王直属の護衛部隊~という所属だ。
他には、どんな部署があるんだろう?
俺は、隠密機動部隊だったから、単独行動や数人の精鋭との作戦行動が、主だった。
だから、あまり団体行動が得意ではない。
軍隊に所属するにしても、俺は、あまり役に立たないかも?
…そういえば、なんとか…という悪の組織があったな?
じゃあ、それを取り締まる「警察組織」みたいなものがあるはずだ。
(ドレンさんも、この国の犯罪率は、低い…みたいなことを言っていたから、警察組織は、間違いなくあるだろう。)
…その警察組織に入る?
……いや。公務員試験は、難しいかも…。
っていうか、公務員制度があるのか?
筆記試験があるかどうかは、わからないが、採用試験は、あるはずだ。
そうしないと、変なヤツが入る可能性があるからな。
そういうキッチリとした人事がないと、組織が、まっとうに活動出来なくなってしまう。
そう考えると、橘さんたちは、国家公務員というものに、あたるのかな?
王族を護衛する組織…犯罪を取り締まる組織…があるから、公務員制度は、あるはずだ。
俺は、自身で確信する。
(あとでちゃんと確認しよう。)
「公務員」といえば、役場みたいなところもあるのかな?
フォウさんたちの王族の方も、もちろん公職だろう。
…となれば、やはり国家を運営するには、人材が必要なわけで……。
いや。役所関係は、アウトだな。
俺は、肉体派だ。頭脳派ではない。
事務関係の仕事なんて、したことがない。
もちろん、学生時代のときでも、クラス委員なんて、重大なポストについたこともない。
(もっぱら、掃除係とかの肉体労働系だった。)
…おっと、待てよ?
学校といえば、「教師」という職があるはずだ。
ハリー〇ッターみたいな魔法がある世界だし…その養成所みたいなところがあるはずだ。
…って、俺…魔法使えんし…。
教師は、ダメだな。
あっ?…教師? もしかしたら、「体育教師」だったらできるかも?
(中学では、バスケ部だったし、小学校までは、野球もしていた。いけるかも…)
…いや。ダメだな…それ以外のスポーツといえば、この身に染みついた「殺人術」しかない。
もし授業中に生徒を殺したり、大ケガさせたりして、即刻クビに決まっている。
それ以前に、よく考えてみたら教師は、ムリだ。
俺は、他人に何かを教えてあげられるほどの人格者では、ないからな…。
…となると、やはり「居酒屋」でアルバイトしかないか?
まぁ、漁師メシは、得意だし…飲んべえの相手もキライじゃない。
そこで頑張って、店長になって…もっと頑張って…自分のお店が持てるかも?
しかも、繁盛すれば…ムフフフ……夢は、広がるぜ!
…で、フォウさんは、永久VIPで飲み放題、食べ放題の特典付きだ!
(……そんなことで、この恩が返せるのか!)
そんなユルい妄想から 「はっ?」と、現実に戻り、冷静に思考する。
やはり俺は、「傭兵」なのだ…「兵士」なのだ……「殺人マシーン」なのだ…と。
戦うことしか、今は、できないから…。
またまた、ドロドロの思考迷路に囚われた俺だった。
そんな俺に、ドレンさんが
「なにを百面相をして、歩いている?」
そして、俺は、このユルい妄想を話すと……ドレンさんから、衝撃の事実が。
「ホーク殿は、おもしろいですなぁ~。」
そして、はじめて知る事実……
なんと俺は、ドレンさんの部下…つまりは、国王直属護衛部隊に所属していた。
(いつの間に…。)
まぁ、そうだよね?
そうしないと、対人訓練や魔法訓練やら、させてもらえないよね?
ましてや、第1皇女様の傍で…。
しかも、橘さんに弟子入りも、できないよね。
…いや。これは、願ってもないことだ!
これで、あの人に恩返しが、できるのだから…。
(精一杯。尽くさせていただきます!)
「ありがとうございます!ドレンさん!」
俺は、元気よくお礼を言った。
さっぱりと、ドロドロの思考迷路から抜け出せたのだ。
「わっはっはっはっ!お礼は、フォウ様に。」
ドレンさんは、気持ちよく笑っていた。
遅くなってしまったが、フォウさんにあいさつしなければ!
ということで、さっそくフォウさんの部屋を訪ねた。
「コンコン。」
ドアをノックする。
「フォウさん。いらっしゃいます?」
…返事は、ない。お出かけのようですね。
台所にシルビアさんがいたので、尋ねてみた。
「シルビアさん。お疲れさまです。ところでフォウさんいらっしゃいます?」
「フォウ様は、ミカ様と離れに行っておられますよ。」
と、教えてくれた。
(離れ…?ああ…日本庭園のあそこね…。)
「ありがとうございます。シルビアさん。
…それから、俺…自分をドレンさんの部下にさせてもらったみたいで…えっと…あらためて、これからもよろしくお願いします。」
俺は、少し照れくさく言うと、シルビアさんは、ニッコリ微笑んで
「がんばってくださいね。」
と、優しく言ってくれた。
ほんとこの世界の人たちは、あったかい。
俺は、そんなことに感謝して、フォウさんがいる日本庭園へと、足を向ける。
公務員か~。この世界も、公務員がいちばん安定したお仕事なのかな?
でも、ホークには、「居酒屋の大将」って、ものすごく似合いそうな気がする。
…教師は、ちょっとね…。
ひとまずは、プーさんじゃなくって、よかったね。
その心意気で、がんばってね~。
さてさて、次回は、女の子たちの内緒の話しです。
お楽しみに。




