第16話 出願
(う~ん……アタマが痛い…!)
完璧に二日酔いです。
とりあえず、水を一気飲みして、ヤケたノドを潤す。
そして、軽く汗を流して、サッパリしよう。(汗といっしょにアルコールを出す! アタマが痛いけど……。)
まだ6時前くらいだ。みんなを起こさないように、静かに部屋を出る。
小一時間ほど、ランニングして戻ってくると、ドレンさんとミカ様の護衛の人…えっと、なんだっけ?……う~ん……そうだった。
「橘 康介さん!」
そう…彼も、異世界人…日本人だった。
「橘 康介 91歳 ♂ 178センチ 70キロ 国王直属護衛部隊 第1部隊副隊長
神刀「クサナギ」をあやつる剣の達人 趣味 座禅 」
ランニングから戻ると、ドレンさんと橘さんが、朝トレをしていた。
本日は、「剣術」らしい。
「カンッ。カンッ。」
と、気持ちいい木刀の響き。
しかし、その音色は、速さを増していく。
(マジか?速すぎ!)
俺は、すっかりと、ふたりの打ち合いに、見とれてしまった。
橘 康介…ただ者じゃない!
齢…90才。(見た目は、70才くらいだが…)
…とは、思えないほどの技とスピードだ!
それに対抗している、ドレンさんも、ただ者じゃなかったけど…ね。
(なんちゅうオッサンたちだ!)
俺は、素直に感嘆したのだった。
いくばくの打ち合いが終わると、橘さんが、俺に視線を向ける。
「ホーク君。来なさい。軽く対戦しよう。」と。
俺は、うなずき木刀を握る。
「よろしくお願いします。」
と、一礼して、軽く木刀を合わせる。
「はじめ!」
の、かけ声があがり、模擬戦が始まる。
俺は、まず、正面中段の構えで、橘さんの様子をみる。
橘さんも、正面中段の構えをとっていた。
しかし、その佇まいは、なんとも自然体だった。にもかかわらず、付け入る隙は、全くなかった。
(…スキがない…マジで、達人レベルだな!)
俺は、剣術に関しては、ド素人だから、ここはひとつ…胸を借りるつもりで、行きますか?
…ということで、先手必勝!
瞬発で、橘さんの胸元に「突き」を入れる。
橘さんは、微動だにせず、木刀のさばきだけで、俺の突きが、かわされる。
橘さんは、俺の木刀を払うと、その流れのまま…ヨコ凪に振り込む!
(はや!なんというスピード!)
俺は、反射だけで、なんとかその太刀をかわせた。
一瞬、橘さんが「おっ?」という表情をみせたが、俺は、かまわずに反撃に移る。
しかし、俺のようなド素人が、ただ木刀を振り回すような攻撃は、「カンッ。」と、難なく受けられて、そのまま返しの「面」が来る。
(マジで、速っ!)
俺は、かろうじて、その面を受け止めた。
受け止めて、負けじと返しの「面」を放ったが…そこには、もう橘さんは、いなかった。
…いや。正確には、いたのだが…「消えた!」かと、思わほどのスピードで、俺の右ヨコへと、ステップ移動して…と同時に、わき腹への一撃!
またもや、かろうじて木刀で、ブロックできた。
しかし、高速ステップの威力が加算された一撃は、かなりの衝撃だった!
俺は、とっさに左手を、受け止める木刀の背に充てて、木刀が弾かれないように、固定した!
「ガンッ!」
と、鈍い音がした。
その衝撃は、俺の体幹をずらすほどだった。(なんちゅうオヤジだよ!ゲキ強!)
俺は、戦慄を感じた!
橘さんは、弾いた木刀で、そのまま逆回転で、コマのように1回転して、バックブローのような形で、追撃してきた。
俺は、右肩口から入って来る斬撃を、ダッキングでかわし、しゃがみ込んだ姿勢から、さらにもう一歩踏み込み、左斜め下から、橘さんのわき腹へと、斬り上げる攻撃を仕掛けた!
(これは、どうだ!)
いいタイミングでのカウンターに、なったはずだ。
…しかし、橘 康介という男は、俺が思っていた以上の達人だった。
信じられないが、俺の放った木刀のツカの先…右手の握りこぶしから、飛び出している木刀のツカを踏み台にして、ジャンプしたのだ!
(信じられるか?そんなモン!)
ジャンプでかわした橘さんは、余裕で俺の脳天に一撃!
「イタっ!」…衝撃は、そこまでなかった。
当たる瞬間、力を抜いてくれたおかげだろう。
……完敗だ!
俺は、潔く…
「参りました!」
と、一礼した。
「まだまだじゃな。だが…スジは、いい。」
橘さんは、笑って言った。
(なんちゅうオッサンだよ!まったく…。)
俺は、意を決して…
「橘さん。もしよろしければ、俺に剣術を指導して、いただけませんか?」
と、頭を下げた。
そう…じつは、俺は、格闘技とスナイピングには、自信があったが、剣術に関しては、ド素人だったのだ。
それもそのはず…元の世界での武器は、「銃」がメインだったからだ。たまにナイフを使うこともあるが、ナイフと刀では、まるで違う。
俺は、ここぞとばかりに、弱点を克服しようと、願い出たのだ。
橘さんは、迷うことなく、快く引き受けてくれた。
「ワシの修行は、厳しいぞ!」
と、ニヤリと微笑んで。
(望むところだ!)
「よろしくお願いします!」
俺は、今一度、頭を下げた。
それからは、地獄と呼ぶに相応しい修行が、始まったのだった。
(マジ泣きそう~!)
二日酔いは、ツラいよね。
次からは、ほどほどに、しようね。
橘 康介。 やはりただ者じゃなかったですね。
ホークも、頑張ったみたいだけど…。
そして、なんと…弟子入りを志願したホークと、あっさり認めた橘。
この子弟コンビは、面白くなりそうですね。
さてさて、次回は、本格的に修行に入ったホークと橘。
ホークは、橘の過去にも、気になるけど…
では、お楽しみに。




