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第15話 出逢(2)

 この日本庭園は、ミカ様が造園(設計)したという。

俺とミカ様は、その石畳を散策しながら気持ちいい風に吹かれていた。

「ほんとうに、素晴らしい庭園ですね。」

俺は、元気に茂る樹木たちを見ながら、言う。

「ふふふ…。ありがとう。ここは、わたくしの『心の古里』なの。…ホークくん。キミは、なぜこの庭園が気に入っているの?まだ、若いのに…。」

ミカ様は、不思議そうに、俺を見上げながら、問う。

「あの…俺のオヤジ…父が造園の職人だったんで、俺も小さいときから、庭が好きで…自分の家の庭の剪定とか、よく手伝っていました。」

「そうなの?…では、お父さまは、立派な職人さんなのね~。」

「いえいえ。そんな立派なもんじゃないですよ。ただの田舎のがんこオヤジです。それでも…庭が大好きだったんだろうな…と。」

 そう…オヤジは、庭好きの男だった。

母が死んでからも、母が大切にしていたブルーベリーの樹や、オリーブの樹。そしてレモンの樹などを大事に、手入れしていた。

そのおかげで、俺とユリは、毎年おいしいブルーベリーの実やレモンの実を食べていた。

オリーブの実は、家族みんなで、塩漬けにしたり、オイルを搾ったりしていた。

 ふと…そんな、昔のことを思い出していた俺だった。


「ふぅん…そうなんだ~。」

と、そんな他愛ないことを話しながら、俺とミカ様は、奥のところにある茶室の縁側にたどり着いて、ふたりで腰をかけた。

「キミは、日本人なんだよね?…じつは、私も日本人なんだよ。」

と、ミカ様から、どストレートな質問が…。

「あっ…はい。そうです。ミカ様もやっぱりそうなんですよね……じゃないと、これは、作れませんよね。」

と、俺もストレートに答えてしまった。

(…すみません。不作法で…。)

ミカ様は、コロコロと、少女のように微笑んでいた。

「いいよ。気にしなくて。わたくしの名は、旧姓 薬師丸 美夏。明治という時代に生まれたの。文明開化の頃だったわ。世間は、にぎやかで、活気があった。私がハタチになる少し前の時だった…ちょっとした事故に巻き込まれて…気がついたら、この世界にいたわ。…そして、主人(前国王ジーク)に、助けられて…そのままこの国に…ね。もう、すっかりおばあちゃんになっちゃったけどね。」

ふふふ…と、ミカ様は、笑っていた。

(いやいや。年齢は、そうかもしれないですけど…どう見てもキレイなお姉さんですよ!)俺の心のツッコミだった。


 ミカ様は、澄んだ笑顔を見せてくれる。

その人生に、悔いはない!とでも、言うように。

女の人の立場で、しかもハタチやそこらで、この異国の世界で…知り合いという人も皆無のこの世界で…一生懸命に、生きてこられたのだろうな…。

そして今、この俺のようなどこの馬の骨とも知れない、傭兵あがりの人間に、こんなに親身にしてくれて、本当にありがとうございます。

尊敬に価する、素晴らしいお方だ!

 その心に、応えるように、俺も自身の出自を話した。

「俺の本名は、柳 鷹志です。24歳です。生まれたのは、九州の福岡で………。」

(なぜか、この人の前でも、不思議と、素直な人間になる。……ほんと不思議だ?)

両親を亡くして、たったひとりの妹まで、災害で失ったことを…。

そして、いつの間にか、特殊部隊の兵士になっていたことを……。

たくさんの命を奪ったことを………。

 それを、やさしく聞いてくれているミカ様だった。


 それから、発対面とは、思えないほどに、俺は、ミカ様との会話を楽しんだ。

こんなに誰かと、話したことは、何年ぶりだろうか?



 今日は、ミカ様も別荘に泊まっていくということで、またしても宴会です。

(この世界の人たちも、たいがいに好きだよね。)

フォウさんも、ミカ様とは、久しぶりだったらしく、かなりのハイテンションだ。

(なんか新鮮な感じで、かわいい!)

そして、ミカ様からの差し入れの品々は、素晴らしかった。

まずは味噌。

この別荘にあった味噌は、ふつうの米こうじの白味噌だった。

今回の差し入れの味噌は、白味噌と八丁味噌みたいな赤味噌だった。

(ありがたいです。)

そして、醤油。

醤油も、醸造醤油と、薄口醤油の2種類が…

さすがミカ様。ありがとうございます!

 ミカ様が、この世界に来て、なにがつらかったかというと、やはり食事だったらしい。

この世界の料理は、もちろんおいしいけど、やはり慣れ親しんだ味…というものがある。

そこらで、なんとかして日本食に近づけようと頑張った!

そして、試行錯誤の末…味噌、醤油といった日本由来の調味料を実現したそうだ。

(マジで尊敬する!本当に素晴らしい!日本人の鏡だ!)

あとは、やはりお酒だった。

こちらの世界には、ビールや果実酒、ワインなどがあったが、やはり「日本酒」は、なかった。

そして、ミカ様が再び立ち上がる。

その結果…「日本酒」の醸造に成功したそうだ。

(お米のような作物は、あったから、日本酒は、比較的楽だった…と、本人は、言っているが……)

ミカ様が嫁いだ先が、王家ということもあるだろうが、やはり感心せざるを得ない!

…ということで、本日のメニューは……

まずは「クロの刺身」。(しつこく言うが、俺の勝手な表現だ!)

クロは、きれいな白身で、甘みがある上品な味だ。今日は、皮を剥いで身だけを刺身にする。

剥いだ皮は、サッと湯引きして、細切りにする。ポン酢とネギであえると「クロ皮のポン酢あえ」の完成です。

弾力があり、噛めば噛むほど旨みがあり、突き出しに最高の一品です。

アラは、もちろん味噌汁です。

ちなみに今日は、赤出汁です。ミカ様からの差し入れの赤味噌をさっそく使わせて、いただきます。

続いては、「アジのナメロウ」。

アジを3枚におろして、ネギとショウガを加えて、包丁でほどよく叩く。

叩いたら白味噌を加えて、馴染ませる。

大葉の上に盛り付けて、完成です。これまたお酒が進む一品です。

今日は、ナメロウもたくさん出来たので「さんが焼き」も作ろう。

「さんが焼き」とは、ナメロウをオーブンで焼いたもの。

グラタン皿で焼いてもいいけど、やはり漁師料理は、貝殻を使いたい。

いささかホタテの貝殻は、入手できなかったが、地元の漁師さんからわけてもらった「ヒヨキ貝」の貝殻を使う。ヒヨキ貝は、ホタテよりも厚みがなく、フラットな貝殻だ。でも充分に器になるからOKです。

この貝殻にナメロウを盛って、オーブンで10分ほど焼くと「さんが焼き」の完成です。お酒にもあうし、ご飯にもあう漁師料理です。

次は、フォウさんが採った「ビナ貝の佃煮」。

ビナ貝を下茹でして、身を取り出して、酒と醤油と砂糖で甘辛く煮る。

これまた、お酒のお供に最高だ。もちろん白ご飯にも、最高に合います。

保存もきくので、たくさん作ってビン詰めしておきましょう。

そして、最後は、「アジフライ」。

みんな大好きアジフライ。今さら説明する必要もないでしょうが、説明させてください。

夏を乗り越えたアジは、脂が乗りまくり、とてもおいしいのです。

今日のアジフライには、刺身にしなかった少し小さいアジを使うので、ひとくちサイズのかわいらしいアジフライです。小さいから骨まで食べれて、とっても健康的です。

そして、頑張って「タルタルソース」も作りました。タマネギをみじん切りにして、キュウリの酢漬けもみじん切りにして、ゆで卵を細かく潰して、マヨネーズで、和えます。コショウで味を整えたら即席タルタルソースの完成です。

アジフライと、たっぷりのタルタルソースで、召し上がってください。

…と、いった感じの漁師メシのメニューです。

さぁ。宴会の始まりです!


…ふと、気になることが…あまり今まで、気にしなかったけど、王族の方と、一般市民である俺とかが、普通に食卓を囲んでいるのだけど…いいのだろうか?

ましてや、こんな宴会なんて、無礼講過ぎでは?

尋ねてみたところ、この「ティフブルー王国」では、そこまで厳しくは、ないらしい。

もちろん、王族の方に対しての侮辱や不快感を与えることは、厳罰だった。

(いや。誰もそんなことは、しないだろう。もしいたとしたら、そいつは、自殺志願者か?)

まぁ、実際には、そんなことは、ほぼないらしい。

それもそのはず…気心が知れたもの同士で、食事は、楽しむものだ!

いや…気心を知るために、一緒に食卓を囲むこともあるな?…それは、世間一般的な話しかも…。

今、この場には、王族であるミカ様とフォウさん。その護衛であるドレンさんとシルビアさん。そして、レベッカさんと橘さん。そして、俺の7人のメンバーだった。

…まぁ、一般市民じゃあないかな?

(俺は、異世界人だし…。)

今さらそんなことを気にしていたら、ダメだろう!

今は、このおいしい料理とおいしいお酒を楽しむのみだ!

そして、みんなの笑顔で楽しむのだ!

それが現在の今なのだから!

 

後日談。

橘 康介という武人との出会いは、俺の人生において、多大な影響を与える人物だったのだ!

 ……その話しは、後ほど………。



恐るべしミカ。

やはり年の功なのね。

あのホークが、素直に心を開きはじめました。

でも、すぐには、心の傷は、癒されないけど…。

それにしても、ホークの漁師メシは、やっぱり美味しそう!

ミカが、頑張って日本の調味料を実現したおかげでも、あるし…ね。

さてさて、次回は、橘 康介なる武人との……。

ホークの人生を左右するほどのキーマンに、どんな感じを受けるのか?

次回をお楽しみに。

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