第13話 休息
しばしの休息。
俺は、しばらくぶりにハーモニカを手にして、「あそこ」に行くことにした。
庭の草花の手入れをしていたフォウさんに、断りを入れて…あそこ…日本庭園に、足を向ける。
小川沿いの小道を抜け、池の石橋を渡り、たどり着くのは、あの「東屋」。
(ああ~ほんとにここは、落ち着く…。)
この景色は、俺の故郷を思い出す。
あの、懐かしい…そして、悲しみと、後悔の……。まだ、あの記憶は……。
おっと。いかんいかん!
また、暗くなっていた。今日は、そんなつもりは、ない。
これが、いっしょだからな…。
そして、ポケットから、こいつを取り出して、軽く一曲。
奏でる曲は、ユーミンの「やさしさに包まれたなら」。
この曲は、母が好きだった曲…妹のユリと、いっしょに歌った曲……そして、レクイエムになった…曲。
「小さい頃は、神様がいて、不思議に夢を叶えてくれた~♪」
俺は、楽しく穏やかだった、昔のことを思い出しながら、吹く。
オヤジと、お母さん。そして…ユリの4人家族で、いつも楽しかった。
オヤジは、無口だけど、やさしかった。
いつも、庭の手入れと、畑を大事にしていた。本業は、庭師だったけど…仕事の合間に、よく俺を釣りに、連れて行ってくれた。そして、いろんなことをオヤジから教えてもらった。
お母さんは、体が弱かったけど、庭が大好きで、あたたかい人だった。
そして、俺たち兄妹をほんとに、大事にしてくれていた。
特に、ユリには、やさしかった。
そんな、お母さんとユリを見ていると、俺は、子どもながらに、うれしかった。
ユリも、お母さんの愛情をいっぱいに受けて、ほんとうにスクスク、可愛く育っていた。
幸せだった…。こんな幸せが、いつでも続きますように…。
そんなことを本気で、願っていたあの頃のことを想って………。
「パチパチ~。」
と、拍手が聞こえた。
振り向けば…フォウさんが、泣きながら拍手をしてくれていた。
(…???)
俺は、かなり戸惑った。
「えっ?そんなに、感動してくれたんですか?」
「はい。私とても感動しました。いい曲ですね~。なんか…こう…すっごくあたたかさに、包まれたような感じで…とても、癒やされます~。」
と、フォウさんは、とても気に入ってくれたみたいで、そんな感想を言ってくれた。
あと…自分は、感情移入しやすいから、気にしないでいい…と、微笑むフォウさん。
(この人には、やっぱり、かないませんね~。)
フォウさんは、音楽が大好きらしく、歌うことは、もちろん。楽器の演奏も得意だと。
聞くと、この世界にも、ピアノやバイオリン。そして、ギターやトランペットなど、よく知られた楽器が、あるようだ。
そして、笛や太鼓といった、お祭りで使う楽器なども、あるらしい。
ちなみに、フォウさんの得意なものは、ピアノらしい。
(さすがお姫様。とても似合いますね。)
そんなフォウさんは、俺が吹いていたハーモニカに、興味を持ったらしい。
…で、「吹いてみたい…」と。
彼女の真剣さに、おされて了承した。
もちろん、断る理由は、ない。むしろ、フォウさんが吹くハーモニカを聴いてみたい!
とりあえず、ハーモニカをきれいにして、渡した。
そして、基本的な吹き方を説明しただけで、フォウさんは、すぐに吹けるようになった。
(ちょっと…凄すぎじゃありませんか?)
まぁ、フォウさんの新たな1面がみれて、とてもうれしい。
フォウさんの奏でる音色は、とてもやさしい感じの…とても心にしみる音色だった。
もちろん、彼女が吹く曲は、知らないのだけど…ね。
(フォウさんの生演奏を聴けた俺って、めちゃくちゃ幸せ者?)
などの庶民的な発想になってしまったが、俺は…またもやこの女神様に、癒される。
(ほんとうに、ありがとうございます。いい休息に、なりました。)
その後、またしても、驚くべきことが…。
フォウさんが、「ハーモニカを貸してほしい」と、言うので、俺は、快く貸しました。
そうしたら…なんと!
次の日には、ドレンさんによって、ハーモニカが、複製されていた。
しかも、その出来栄えに、どビックリ!
(なんか…この人たちって、凄すぎ……)
俺は、少しあきれてしまったのだった。
まぁ、いいさ。異世界だし…こういうことも、あるさ!
後日談。
秘かなブームで、宴会の出し物で、楽団が出来たことは、内緒だ!
この話から、第数を表示いたします。
今まで、なくてごめんなさい。
少しずつ、ホークの心の闇も、溶け出してきました。
それにしても、ホークがユーミンファンとは…。少し驚きですね。
フォウの才色兼備は…もう、わかっていますから……でも、ホークは、彼女の生演奏を聴けて、すっごく感動したみたいで、よかったね。
ドレンの秘かな特技にも、ビックリです。
宴会での、みなさんの演奏を聴きたいですね。
さてさて。次回は、とうとうあの御方が、登場します。
ホークが、待ちに待った、あの御方との対面です。
さぁ、どんなことになるのかな?
では、お楽しみに。




