覚醒!
次の日、日課の早朝ランニングを終えて、朝ごはんのときに、みんなにこの「力」のことを相談した。
それを聞いたドレンさんは、さっそく
「ほう…おもしろい。では、その力で、我と対戦してみよう。」と。
(えっ?待って待って…!)
まだ、実戦で使えるかどうかも、試していないし…っていうか、実戦で使えるかな?
たぶん、まだムリだろうな。発動するまでに、時間がかかる。そこのタイムラグをどうにかしないと…まずムリだな。
それに、移動物に対しての実験も、まだやっていないし…。
それよも、ドレンさんの発言が、気になる。あの口振りだと、どうも魔法に対しての対策…というか、対抗策をドレンさんは、持っていると、考えられるな?
俺みたいに、魔法を無効化する術か?あるいは、他の手段なのか?
やはり、「隊長」という肩書きは、ダテでは、ないようだ。
「まぁ、とりあえずは、見てください。」
と、言って、食後のテーブルの上を片付けして、ひとつのスプーンを実験台にした。
そして、「念」を込める。
(動け……!)
「スゥ~」と、スプーンが宙に浮かぶ。
そして、上下左右に、動かしてみせた。
(なんか、えらいスムーズに動かせているな…特訓の成果か?)
少し得意気な俺とは、裏腹に……なぜか、みんなは……「ふぅん…。」と、あたりまえの反応だ。
(あれ?なんか思っていた反応と、違う…)
そこでシルビアさんが、言った。
「術自体は、どうでもいいのですが……」
(えっ?どうでもいいのか?)
「…魔法を使った形跡…というか、術式が読み取れません。どういう原理ですか?」
シルビアさんは、不思議そうに、キョトンとしている。
それは、フォウさんも同じらしく…ふたりの魔法使いさんは、「???」に、なっていた。
(原理?そんなもの、もちろんわかりません!)むしろ、こっちが聞きたいくらいです。
それ以前に、これは、魔法じゃないと、感じる俺は、こう…答えた。
「術式は、もちろんわかりません。原理も…です。ただ…俺たちの世界では、「超能力」と呼び、こういう現象を「念力」と呼ぶことがあるみたいですけど……」
俺も詳しくは、わからない。
フォウさんも、
「確かに、魔法や精霊の力は、感じられませんでした。…ただ、力の気配というか…どういうことでしょうか?」
そう言って、悩んでいる。
やはり、フォウさんにも、わからないらしい。
わからないものは、悩んでも仕方がない。
原理うんぬんは、置いておいて、この力がどこまで使えるのか試そう!
…ということになって、俺には、さらなる試練が降りかかることになるのだった。
(また…シルビアさんが、怪しい笑みを…)
そんなわけで、実験です。
まずは、質量的なことからだ。どれくらいの物まで、動かせられるのか?
昨日は、10キロくらいのテーブルを動かせられたことは、伝えた。
…ならば、ということで…タテヨコ1メートルほどの石。…いや。岩か!
重さにして、およそ1トン。
(いきなり!…まぁ、いいです。)
この人たちの魔法トレーニングに、ついては、了承済みだから…。
俺は、その岩に向かい、念じる!
昨日のように…持ち上げるイメージで……
(動けぇ~!)
力が作用している感覚がある。
さらに、念を込める!
(動けぇぇぇ~~~!!!)
……すると、岩が……「ズズ……」と、見えないクレーンで、釣り上げたかのように…高さ2メートルくらいまで、浮き上がる!
「OK!クリア!」って感じか?
さすがに、1トン近い重さだ。けっこうな負荷を感じる。
まぁ、でも大丈夫。まだ余裕は、ある。
(この2週間ほどの過酷な魔法トレーニングのおかげだろう!)だいぶ精神力も、ついたことが、実感できる。
あの「スパルタ」も、意味がある。ということだな。このふたりに感謝である。
続いては、森に移動しての……ヨコ3メートル、高さ5メートルほどの円柱の岩。
ゆうに20~30トンは、ありそうな巨石。
(げっ!こんなの動くのか?)
俺の不安とは、裏腹に…またもフォウさんとドレンさんは、ワクワク感丸出しの表情だし…シルビアさんにいたっては、完全にマッドサイエンティストの微笑みを浮かべている。
(シルビアさん!あなた絶対に俺を、実験台にしているだろ!)と、心の中で、ツッコミを入れておく。
(まぁ…いいでしょう。やるしかない!)
俺は、無意識に両手を広げて、巨石全体に念をかぶせるイメージで、強く「念」を集中する。
これでもかっ!というくらいで…体全体の全てを出し尽くして、持ち上げる!
(動けぇぇぇぇぇぇ――――――――――!!!)
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ~~~! ガリガリガリガリ~~~~!!!」
あり得ないくらいの轟音と振動とともに…
その巨大な石の塊が地面から、離れた!
まるで、宇宙戦艦ヤ〇トが、初めて出航した瞬間のように……巨大岩石は、まとわりつく植物のツルや土を、なぎ払うように……。
さすがに、フォウさんたちは、あっ気にとられていたが…俺は、それどころではない!弾き返えされそうな負荷に耐え、集中力をさらに高めて、巨大岩石を持ち上げる!
その高さ5メートル。
みんなは、口が空いたままでの……まさに「ポカ~ン」状態。
みんなのアホ面を見る余裕がなかったことが、悔やまれるが…仕方がない。
俺は、必死に集中力を保っていた……が、さすがに限界かも?
脳からのシビレが、全身にまわっていた。
「ふぅ~。」
呼吸を整えてながら、集中力を少しずつ解いていく。
「スゥー」と、巨大岩石は、元の場所に、収まった。
さすがに、くたびれた!
汗びっしょり、膝ガクガク~ちょっと、座らせて~~。
その場に、へたり込む俺だった。
「すごいです!ホークさん!」
フォウさんが、すごい興奮気味に感動していた。
「うむ!我もここまでの物が、浮いたところは、初めて見た!すごいのひと言だ!」
ドレンさんも、興奮していた。
「信じられません……。」
シルビアさんも、かなりの衝撃だったようで、なにかと葛藤中みたいです。
俺も「新たな力」に、少し身震い…もとい、かなりの身震い…武者震いをしていた。
(いまだに、自分がやったことの本当の凄さには、まだわかっていなかったが…)
その後、精神力を使い果たした俺は、歩けなくなって、ドレンさんに背負われて、別荘に戻った。
(…すんません。隊長…。)
課題は、この疲労感。
いきなりの能力の開花で、精神力が、まだまだ追いついていなかった。
そこは、鍛錬していくしか、ないだろう…と。 俺も同意見だ。
徐々に鍛えていくしか、あるまい。
今日、明日で、どうすることもできないことだ。
(焦っても、仕方ないよね。)
…ということで、お昼からは、休息だ。
ちょっと、根を詰めすぎたところもある。
少しノンビリして、リフレッシュしましょう。
スゴイですね~ホーク。それだけの力…10トンクレーン以上ですね。工事現場で、重宝しそう。…って、冗談は、さておき。まだまだ鍛える余地があることを楽しく思うホーク。
でも、無理は、禁物!
ゆっくりと体を回復させてね。
さてさて、次回は、ノンビリと過ごすホーク。ちょっとセンチなところもかわいいかな?
では、お楽しみに~。