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九話

後半お父様<ユリス・ボジェ>視点です。

 先日の司法省の役人のことで、今日は父方、母方、双方のお祖父様が来られます。わたくしとしても、お祖父様達にいろいろと聞きたいこともありますしね。


「ようこそ、お祖父様方」


 母方の祖父であるベルクール辺境伯ジョルジュ様と、父方の祖父である元ボーヴェ子爵ヨアン様。お二方はボーヴェ家がベルクール家の分家筋ということもあり、昔から仲が良く、今日も二人してベルクール家の馬車で我が家に来られました。


 応接室にお二人をお通しして、クレアとオレリーがお茶の用意をしてくれた後は、人払いをして三人でのお話となります。ここは単刀直入に行くことにしましょう。


「先日、側妃様の子飼いの役人と騎士が二人来ましたの。わたくしが貴族の身分を失い、虐待されていると言って、保護するのだと息巻いていましたわ」


「ははっ、どうせアルマン家の者だろう?相変わらず愚鈍な奴らだ」


「ふんっ、さしずめ間抜け面をさらして帰る羽目になったのだろう?」


 全く以てその通りですし、あの後、謂れのない疑いをかけられたとして、司法省にはパシェット伯爵の名で抗議しておきましたが、知るべきことはきちんと聞かなくてはね。


「ジョルジュお祖父様、ヨアンお祖父様、わたくしに関する情報をいろいろと操作・撹乱したのは、お祖父様達ですわね?」


「はっはっはは、当然だ。側妃の飼ってる煩いネズミや蠅がうろうろしていたから、適当に餌を撒いてみたんだ」


「ふははっ、あいつら見事に引っ掛かりおった!」


「笑い事ではありませんわ。他にも噂を信じて動かれる方がいたので、わたくし、結構迷惑したのですよ?」


「しかし、これでしばらくは側妃様も大人しくせざるを得まい」


「20年前に、王家にはきっちりと言い含めたのに、あの女狐がこそこそと動いたりするからじゃ」


 元々パシェット家は辺境伯家預りの爵位でしたが、20年ほど前にわたくしのお母様でジョルジュお祖父様の娘・エマーリアを、王家が12も年上の王太子の側室にしようと画策していることに、お祖父様が気づいたのが発端です。それはお母様がベルクール家に時々現れる≪特殊魔法の使い手≫であったために起きた事でした。

 特殊魔法を発現した者は、王家に報告義務があり、お母様は10歳の時に発現したそうです。もっとも、誘拐や悪用を防ぐため、その魔法の内容については国王陛下以外には秘匿されますし、使い手が誰であるかも、公にはされません。しかし、その高い有用性から、王家は何とかしてその特殊魔法の使い手を手に入れたかったのでしょう。

 お祖父様はお母様を守るためにパシェットの爵位を継がせることにし、そして、分家筋である子爵家の三男だったお父様と婚約させました。


「年齢が合うのがあれしか居らんでな。あれは兄たちと年の離れた末の子だったせいか、妻が甘やかしてしまったようでな。すまんな、もう少しきちんと教育したつもりだったんじゃが…」


 お父様の行状に関しては、ヨアンお祖父様が謝られることではないような気も致しますが、謝罪は受けておきましょう。


 その後、どうやら王家が絡んだ問題事を解決するのにお母様が関わり、いろんな法改正が行われたようです。お祖父様達は詳しくは教えてくれませんでしたが、まぁ、大体の想像はつきます。≪あれ≫は、わたくしも使えますからね。

 そして、その時の功績を盾に、我が家には手は出さないように王家には散々言い含めたそうですが、第二王子をなんとか王位に就かせたい側妃様には、通じなかったようです。 


 現国王陛下は19年前にご成婚されましたが、正妃様はそれから3年経ってもお子ができませんでしたので、慣例に倣い側妃様を迎えられることとなりました。しかしその直後、ご懐妊が判明し、第一王子が誕生されました。

 焦ったのは側妃様とそのご実家で、なんとか陛下にお渡り頂き、第二王子が誕生したという経緯があります。

 第一王子は現在16歳で第二王子は15歳。と言っても、お生まれになったのは8か月ほどしか変わりません。そのため側妃様は何とかしてご自分の子を王位に就けたいと、ご実家の力を借りながら色々と画策されていたようです。

 恐らくは、わたくしが2年前に≪特殊魔法の使い手≫となったことを報告したことをお聞きになり、わたくしを手に入れれば、優位に立てるとお考えになったのでしょう。


 虐待された可哀想なわたくしを保護し、恩を感じさせ、自分の意のままに操れる手駒にでもするつもりだったのでしょうね。お祖父様達が意図的に流した噂を、更に広めるよう指示されていたようですから、あの方は。

 第二王子を王位に就けた際に、側室にでも据えるつもりだったのかしら。ほんと、王家の方の考え方は自分本位で困ります。第一、わたくしバカは嫌いです。王族でありながら、Cクラスに甘んじている第二王子なんて、相手にするわけがありませんのに。


 でも、さすがに側妃様も今ごろはわたくしに婚約者がいることを知ったでしょうから、少しは大人しくしてくださるでしょう。しかもその相手は隣国の辺境伯家の跡取りですからね。下手に手を出したら、国際問題になりかねませんもの、ふふっ。




「それでは、お祖父様方、お気をつけてお帰り下さい」


 お二人をお見送りするために玄関を出ると、そこにはなぜか仁王立ちした連れ子さんがいました。


「お姉さま、ひどいわ!おじいさまが来ているのに、何で私に声をかけてくれないのよ!」


 今日お二人はわたくしに会いにこられましたので、わざわざ連れ子さんにお声をかける必要はないと思いますのに、それをひどいと言われましても困りますわ。


「これは、なんだ?」


 ジョルジュお祖父様、露骨に嫌なお顔をされていますわね。


「お父様の再婚相手の連れ子さんですわ」


「連れ子、連れ子って、毎回毎回、腹が立つ!いい加減私の事、妹って認めなさいよ!私はパパの娘なんだから!それから、そこのパパのパパ!なんで私がここでいじめられてるのに、ちっとも助けてくれないのよ!それに、いつになったらプレゼントくれるの!」


「エルちゃん、じいさま、この子怖い…」


 ヨアンお祖父様、怯えた振りなんかして、わたくしの後ろに隠れても、ちっとも可愛くありませんからね。しかし、これでは埒が明きませんので、従僕に合図を送ります。優秀な我が屋敷の使用人たちは、あっという間に連れ子さんを簀巻きにして運んで行ってくれました。


「ちょっと待ちなさいよ、せめてプレゼントだけでも…」


 何か叫んでおられるようですが、離れに押し込められたようで、もう聞こえません。やっと静かになりましたので、お見送りの続きをいたしましょう。



 ****




「あんた、クリーンが使えるんだ」


「む、まぁな」


 学園にもぐりこむために清掃人になったが、それで手に入れたノートでは、屋敷に入れなかった。そこで辞めるつもりだった。だが、妻は毎朝わしを学園まで送ってくれ、笑顔で頑張ってと言って帰っていく。だから、辞められないまま1ヶ月経った。

 娘はとっくに辞めたというか、来なくなった。給料は大して高くないが、毎週決まった金額が貰える。こんなものは、わし本来の生活ではないというプライドと、これもまた幸せなのかもしれないという思いが交差する。

 結局、わしは隣でマリエットが笑っていてくれる生活がしたかっただけなのかもしれない。


「クリーンが使えるなら、もっといい仕事もあると思うよ」


 仕事の先輩であるスーさんが言う。クリーンのレベルにもよるが、清掃から衣服の染み抜きまで、その需要は多いという。初めて知った。



 子爵家の三男として生まれ、兄たちとは年が離れていたせいか、母はわしには甘かった。13歳の時に辺境伯の令嬢との婚約が決まったときは大層喜んでくれた。その令嬢は伯爵位を受け継ぎ、そこの婿になるのだから、大出世だと。

 しかし、父は違った。『ほかに手がない、すまないが、これで我慢してくれ』と、そんな感じのことを令嬢に言っているのを聞いてしまった。令嬢もそれを否定しなかった。


 貴族なんだから、政略結婚は当たり前だ。そう思っても傷ついたプライドはどうしようもなかった。

 学園で知り合ったマリエットと恋仲になったとき、本当の幸せはこれだと思った。

 しかし父親に逆らう気概も腕力もないわしは、そのまま卒業後は彼女とは別れ、婚約者だったエマーリアと結婚した。やがて妻は妊娠し、義務を果たしたと考えたわしはマリエットとよりを戻し、彼女を囲った。


 妻との間に生まれた娘は妻とそっくりな上に、左右で色の違う変わった眼をしていた。すべてを見透かされるようで、わしはその眼が苦手だった。しかし親父も妻の父も娘を溺愛し、わしの居場所は其処にはなかった。

 わしは親父を見返したかったのかもしれない。親父が選んだ妻以外の相手と、親父が溺愛している娘ではない娘と三人で幸せになる姿を、見せつけたかっただけなのかもしれない。

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