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十話

後半マリエット視点です

「先ほども申し上げました通り、(あるじ)はお約束のないお方とはお会いになりません。申し訳ありませんが、本日のところはお引き取りを」


「俺は第二王子だ!王族だぞ!」


 玄関先が騒がしいと思ったら、まだおられたのですね。先ほどマルソー(執事)から第二王子が先触れもなく訪問してきたと知らされ、丁重にお断りするように申し付けたのですけれど、困ったものですわね。


「ご訪問はお断りしたはずですわ。おまけに最低限の訪問のルールさえ守れない方が王族を名乗られるとは、我が国も落ちたものですこと」


 わたくし、今からガストンとお出かけしますのに、いきなりやって来た挙句に邪魔されては困りますわ。なにより、わたくし第二王子に一度も正式にご挨拶しておりませんから、訪問をお受けする義務もありません。社交デビュー前ですからね。

 我が国の社交界デビューは15歳で、年に二回、王宮で開かれるデビュタントのためのパーティに出席して、初めて社交界の一員と見做されます。その際に王家の方々に初めて挨拶する事になりますので、もしご訪問を受けるとしたら、それ以降となるわけです。もちろん爵位継承の儀に際して国王陛下にはご挨拶いたしましたが、それはまた別の話ですわ。


「小娘が、口を慎め。不敬だぞ!」


「王子が正式に紹介もされていない令嬢宅を訪ねた挙句に、その態度とは。バルザック王家は大丈夫か?」


「なんだと?貴様、何者だ?」


「わたくしの婚約者ですわ。わたくし今日は彼とお約束がありますの」


 あまりに煩わしいので執事にこっそり頼んで録音用の魔法石と魔方陣を用意させます。扇で口元を隠す。


【確認〈対象人数・一人・第二王子ディミトリ〉ファクトゥムLv3発動】


 王子の足元に一瞬白い魔方陣が浮かび上がり、直ぐに消えます。


「ちなみに殿下、本日はどのようなご用向きでご訪問されたのでしょうか?」


「俺が王位に就くためには絶対必要だから、何が何でも懐柔しろと母上が言うから、わざわざ来てやったんだよ、小娘。なのになんだ、お前の態度は。

王族の俺が来てやったんだから、跪いて喜べよ。でなけりゃ、お前みたいな気味悪い目をした女なんて、側室にだってしたくないわ。

まぁ女なんてものは、やっちまえばこっちのもんだし、バシェロのじいさんだって、抵抗すれば力ずくで手籠めにしてもかまわないと言ってたけどな。

ふん、少々趣味でなくとも、暗い寝室だったら顔も判らんし、こんな生意気で発育前のガキでも、女としての機能はついているだろうから、やるには問題無いだろう。なんだったら今からでも、可愛がってやるよ・・・・・・・・・・・・・えっ、俺は今何を…」



「今のご発言で、王家の、特に側妃さまとそのご実家、及び殿下のご意向は重々に理解いたしました。これほどまでの侮辱を受けては、いくら王族相手と言えど、黙っているつもりは毛頭ございません。これは然るべきところに提出するか、陛下にご相談することといたしましょう」


「ベルティカ王国の次期辺境伯である俺の婚約者を、これほどまでに愚弄したのだから、ベルティカ王国からも抗議が来ることを覚悟しておくのだな」


「いや、さっきのあれは…何かの間違いで…」


 あら、お顔が真っ青ですわよ。

 ご心配なさらなくても、これの複製はちゃんと作って差し上げますわ。そうですわね、5つほどあれば何かと便利でしょうし。とりあえず、1つは正妃様には差し上げることにいたしましょう。


「では、わたくしは出かけますので、御前失礼いたします」


「待ってくれ、エルヴィール嬢、俺は」


  パンッ!


 わたくしの腕を掴もうとする第二王子の手をガストンが叩きます。


「汚らわしい手で触るな」


 本当、礼儀のなってない方ですわね。


「マルソー、殿下のお見送りを。いきましょう、ガストン」


 予定よりずいぶん遅れてしまいましたから、劇場までの道が混んで無いことを祈りましよう。ガストンにエスコートしてもらい馬車に乗り込みます。

 今日は朝から賑やかでしたわね。側妃様も、もう少し思慮のある方だと思ってましたのに、残念ですわ。でもこれで、ようやく静かになりますわね。




  ****




 夫と娘はあれから何度もお屋敷に入ろうとしたり、貴族の身分を取り戻そうと、色々と画策していたようだが、どうやらすべて無駄に終わったようだ。

 最近は、どんな目論見があったのかは知らないが、二人は学園で仕事を見つけてきた。だから私はこれ幸いと、そ知らぬふりをして二人を仕事に送り出している。毎朝、夫はなんだか複雑そうな顔をして出かけるが、初めて給料をもらった時は、恥ずかし気で、それでいてちょっと誇らしげだったのを忘れはしない。

 もっとも娘はすぐに仕事に行かなくなった。あの子は毎日お屋敷の周りをうろついたり、図書館で神前契約について調べたりしているようだ。まぁ、時々は畑仕事も手伝ってはくれるから、私もあえて何も言わないでいる。

 私の土魔法も、どうやらまだまだ使えたようで、小さな畑だができた野菜の市場での評判もいい。家賃も食費もかからない上に馬車も使える状態なので、売り上げのほとんどが利益となっている。目標まであと少し。娘はおそらく反対するだろうが、私は《家族三人で幸せになりたい》と思っているから、諦めてもらうしかないな。

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