黒雪伝説・略奪 6
何とかタコの足に近付こうと、もがく黒雪の横に頭領が滑ってきた。
「あっ、何で来たの! 死ぬわよ?」
「それはこっちのセリフだよ。
立てもしないこの揺れの中、あんたら、どうするつもりなの?」
ズザーッズザーッと甲板を滑りながら、何とか会話をする。
「何か刃物持ってない? カギ爪とか。」
「ダガーナイフならあるけど・・・。」
「2個ある?」
「いや、他は斧ならある。」
「じゃあ、それ両方貸して。 多分返せないけど。
んで、あなたは武器庫に向かっている王子の手伝いをして。
最後の手段は、こいつの爆破だから。」
「わかった。」
黒雪はタコのいる船首へ、頭領は地下への階段へと滑って行った。
王子と頭領が、爆弾と銃を抱えて甲板に出ると
黒雪は遥か上空で舞っていた。
タコの足に斧とナイフを刺して、しがみ付いているのである。
生きてるタコがこんなにヌルヌルするとはーーー!
料理をしないヤツにはわからない話である。
「ああ・・・、奥さま・・・。」
気絶しようとする王子を、頭領が怒鳴る。
「そういうのは後にしな!
早く船首に行かないと
あんたの奥さんが冷たい海の中にドボンだよ!」
タコが黒雪を振り払おうと、足を上げた瞬間
黒雪は斧とナイフを抜き、タコの頭の方へとダイヴした。
タコの頭に叩き付けられた瞬間、右手の斧を振り下ろし
左手のナイフを刺し、タコの頭部に自分を固定させる。
とっさによく出来たもので、マジでファイト一発のCMに出られそうな
ラッキーとしか言えない曲芸である。
それは黒雪にもわかっていて、とうとう音を上げた。
「魔王ーーーーーーーっ、魔王ーーーーーーーーーーっ
こいつ、レベル的に私らには絶対に無理ーーーーーっ!!!
やれても、頭部爆破で殺すしかないから
これで “捕まえた” と解釈してーーーーーっ!
おーーーねーーーがーーーいーーーっっっ!!!」
確かに、両手両足を広げてタコにしがみつく姿は
“捕獲している” と見えなくもないかもしれない。
かなりな拡大解釈ではあるが。
「彼女、何を言ってるの?」
頭領が黒雪の錯乱を疑いかけたその時、声が響いた。
了解ーーーーー
空中に巨大な手が現われ、タコの頭部を掴んだ。
黒雪どころか、船ごとである。
「魔王ーーーっ、道連れ禁止ーーーっ
タコだけ回収してーーーっ!」
黒雪が慌てて叫ぶと、手がもうひとつ出現して
船をベリッと丁寧に剥がし、海に浮かべた。
黒雪も摘まみ上げられ、船の上にソッと戻された。
「あっぶなーい。
今度は魔界にワープするとこだったわ。」
「奥さま、大丈夫でしたか? ケガなど・・・」
胸を押さえてヘタり込んでいる黒雪のところへ
王子が駆け寄って抱きしめようとして
・・・止めた。
「だよね、全身ヌメヌメだもんね。
こんな事であなたの愛を量ろうとはしないから
遠慮なく、ちゅうちょしてて良いわよ。」
黒雪は悪気なく、いやむしろ気を遣って言っているのだが
王子にはものすごいイヤミに聞こえて
でも、そのネバネバヌラヌラは潔癖症の王子には耐えられず
愛との天秤に、ひとり苦悩した。
それを横目で見ながら、頭領が訊く。
「で、あの不可思議な手は何なんだい?」
「あ、説明はちゃんとするから、ちょっと待って。
魔王ーーーーーーっ、聞こえてるーーーーーーーー?
今回は大物だったんだから、お礼も相応のを希望ーーーっ!」
次の瞬間、遠くに見える陸地の端に雷が落ちた。
「あそこ! あそこに向かって!」
黒雪は頭領をせかした。