黒雪伝説・略奪 2
国の北西は、もう寒かった。
灰色の厚い雲で覆われた空が、雪の予告をしているようだ。
「黒雪さまですか?」
走り寄って来たのは村長だと名乗る老人である。
「王子さまが・・・、わしの孫も・・・。」
「で、そいつらはあそこですか?」
黒雪が見る方向には、大きな帆船が泊まっている。
「ちょっとあの一番小さい帆を撃ってみて。」
黒雪の命じるままに、兵士が大砲を撃つ。
ドッカーーーーーーーーン!!!
「おお、凄い凄い、命中したわ、腕が良いわねえ。」
黒雪の拍手に、砲兵が頬を赤くしながら頭を掻いて照れる。
「な、何事だ!!!!! 誰だ?」
船上から、うろたえた声が響く。
「はーい、王子の妻ですがー?
お呼びになりましたよねー?」
甲板から見下ろす女性たちが、愕然とする。
「な、何だ、その軍隊は・・・。」
100余名の兵士に武器フル装備をさせ
自らも刃物携帯しまくりで、まるで針山のようになって
仁王立ちする黒雪が高笑いをする。
「権力というのは、こういう風に使うものですのよ。
おーっほほほほほほほ」
「え、ええーい、黙れ黙れ、おまえの夫がどうなっても良いのか?」
縛られた王子が引っ張り出された。
「王子さま!」
「王子さま!!」
兵士たちの間に動揺の声が広がる中
黒雪が嬉々として、王子に声を掛けた。
「王子ーっ、心配しないでねーーー。
あの世でも絶対に、私はあなたを夫に選ぶからーーー。」
黒雪の奇妙な言葉に、海賊たちが王子に問う。
「あの女は何を言ってるんだ?」
王子は、悲しそうに微笑んだ。
「今から総攻撃をかける、と言っているんですよ。」
今度は海賊たちが動揺する番だった。
「王子であり夫であるこいつを見殺しにする、というのか?」
黒雪は、きっぱりと言い切った。
「おまえら、勘違いしてるようだけど
大事なのは国であって、王族じゃないのよ。
王族がいる理由は、国のトップがコロコロ変わると
他国から信用されないからであって
うちの王国には、もう跡継ぎがいるから
私たちの命は、国の平定に捧げてオッケーなわけ。」
銃を天に掲げて、黒雪が叫んだ。
「おまえらのようなヤカラから国を守るため
この身を捨てる事に、微塵のちゅうちょもないわ。
思う存分、皆殺しにしてくれる!!!」
「「「「「 おーーーーーっ!!!!! 」」」」」
黒雪の雄叫びで、兵士全員が銃を掲げた。
「ままま待て! こっちには村長の孫もいるんだぞ!」
泣き喚く男の子が連れて来られた。
「あらま・・・。」
黒雪が村長を見ると、村長は唇を噛みしめた。
「・・・あの子も、まがりなりにもこの村の長の孫です。
定めと思って、国のために散ってくれると思います。」
ギャン泣きしているんだけど・・・
黒雪はちょっと困った様子で考え込んだ。
「私たちが帰って来ない場合、あいつらを根絶やしにして良いから。」
隊長に小声でそう命令すると、持っていた剣類を外しながら
黒雪は甲板に向かって呼び掛けた。
「その子の代わりに、私が人質になります!」
黒雪の足元に積み重なる凶器を見て
一体どれだけ持ってきているのか、ゾッとした海賊たち。