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そそそけ

作者: 伏籠洋介

    「そそそけ」

   

  伏籠 洋介


 「そそそけ」

 誰かがネットの中で呟いた。

 蛭子原了はそれにはじめ気が付かなかった

「そそそけ」

 それは二回続いた。 

 それはあくまでもエラーではなく、誰かが意図的に呟いている。

 蛭子原は何かその呟きに惹かれて、自分も呟いてみた。

 「そそそけ」

 すると顔も見えない誰かがまた呟く。

 「そそそけ」

 蛭子原は、訝しんだ。

 だいたい、そそそけ、てなんだろう、外国語だろうか、いや、伝言板でのつぶやきは日本語だ。

 「そそそけ」

 蛭子原でない誰かが呟いている。

 「そそそけ」

 蛭子原はネットでそそそけを引いてみた。

 だがドラクエのハンドルネームしかヒットしなかった。

 「そそそけ」

 呟きは、サイダーの泡の様に上がってくる。

 そのつぶやきの声音は冷たくて、心地よい。

 蛭子原はまた呟いてみた。

 「そそそけ」

 自分の呟きが清涼かどうかはわからない。

 だから蛭子原は自分ではつぶやかず、聞いている事にした。

 「そそそけ」ささやくように。

 「そそそけ」フォルテで。

 「そそそけ」力ずよく。

 「そそそけ」基本的に

 蛭子原は色んな呟きを聞いて、いったい誰があ呟いているのか知りたくなった。

 蛭子原はチャット仲間のオノゴロに聞いた。

 「誰が呟いているんだろう」

 オノゴロは最初の島らしく答えた。

 「潜ってみれば、わかるよ」

 そこで蛭子原は、ネットの世界を自分の力で潜り始めた。

 最上部の超高速の光の流れが、均衡を保っていく世界から、どんどん潜る。

 だんだん光の流れが乱れて来る。

 その中からも呟きが聞こえる。

「そそそけ」

 蛭子原の傍を呟きが通る。

「そそそけ」

「そそそけ」

「そそそけ」

 呟きは海の底から上がる、泡の様に、また

逆に底に沈むプランクトンの様にゆらゆらとたゆたっていた。

 さあ、蛭子原はどんどん潜って行った。

 だんだん光の流れが乱暴になってくる。

「そそそけ」

「そそそけ」

[そそそけ」

呟き達も光の中でうねっている。

 蛭子原はそれでもどんどん潜っていく。

 ある面を越えると、荒い光の波は急に収まって静かになっている。

 光は静かにうねる。

「そ そ

  そ け」

     そ け」

「そ そ

 呟き達はゆらゆらとしていた。

 やがて、蛭子原は底に着いた。

 暗い穴から呟き達が発生して居た。

 「そそそけ」

 「そそそけ」

 「そそそけ」

 其処には誰もいない。

 呟きが出る穴があった。

 せめて何かないのかと蛭子原は呟きが出る穴のあたりをうろうろとあたりを探した。

 すると、赤毛のはだかの女の人形が捨ててあった。

 蛭子原は瞬時に検索し、これが初期のAI搭載の若い女の人形である事が分った。

 かなり古いモノなのに、彼女はつぶやいていた。

 「そそそけ」

 オノゴロが漆原に通信して来た。

「ここは初期のAIの発生場だ、段々進化して、今俺たちがいる最上部にある」

 オノゴロの思考は、揺らいだ。

「俺たちもいつか古くなり、呟き始めるかもしれない。             


           了 

 

 




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