Session04−03 大輪の花束
大変お待たせいたしました。
リアルの環境変化と、ルビ振り(途中で力尽きました。)で手間取り。
初めの考えから色々変わってきてるところが今後多くなります。(展開について。)
できる限り、らしいと言える形は取ってるつもりですのでお楽しみに。
あと、手に入れられる書籍の都合と、世界観的な問題で、中国関連の書籍や故事が多々でます。
もし、興味持たれたら是非調べて見てね!
冒険者ギルドは、良くも悪くも喧噪が絶えない。
知り合い同士で情報交換をし合ったり、自身の武勇伝を声高に口にしたり、数が多くない女性冒険者を口説いたり……と、人の数だけ喧噪が生じるものだ。
俺たちがギルドに入った時でもそうだった。
カランカランと、初めて来たときの様にベルが鳴る。
その音に気づいた受付嬢がこちらを見て、笑顔を浮かべた。
愛嬌のある大きい瞳に、なだらかに線を描く眉。
優しげなふっくらとした顔立ちに栗色の長い髪を三つ編みに編み込んで纏めている女性。
俺たちが一党を結成するときにも、初依頼を終えてきた後にもお世話になったクリスさんだ。
この笑顔を見ると、ああ、戻ってきたなと思わせる。
「ああ、“鬼の花嫁”の皆さん!お疲れ様です!二週間振りですね!
“間引き”の報告で宜しかったですか?」
「おお、クリス殿。久しぶりじゃ!壮健そうで何より!
うむ!此度は“間引き”の報告と、一党と徒党の加入手続きをお願いしたい。
ブースでは話せない内容もあるのと、ある程度広い場所が必要なのじゃが……。」
「承知しました!では、第一倉庫の方で承ります。
素材担当も呼びますね。皆さんは、先に第一倉庫でお待ちください。
すぐに参ります!」
そう言うと、クリスさんは素材担当者を呼びに走って行った。
それを見た俺たちは、指定された第一倉庫へ向かって歩いて行く。
ギルドの作りとしては、一定の規定があるらしい。
まず受付などをするカウンタースペース。ここに依頼を張り出すスペースも存在している。
複数の一党が受付ができるように、最低二人が常駐できるカウンター。
一人だと、どうしても手が回らなくなることが考えられるからだろう。
依頼票を張り出す掲示板も一定のサイズが必要だ。
ハルベルトのような比較的大きめの都市であれば、それだけスペースを用意せねばならない。
小さい町であれば、それに合わせたサイズになるというのは道理だ。
特に商隊の護衛と言った、信用できるかが重要視される様な依頼は、基本的に指定依頼として出される為、張り出されることはまずない。
なので、討伐を奨励している“緑肌”、“不死者”、“悪魔”と言った魔物。
“迷宮”指定地域の“間引き”。
害獣の駆除など、常時受付ている物は端に張り出しっぱなしなのだ。
特に暴れる魔物や害獣の駆除、跋扈する盗賊の下見〜可能なら討伐と言った、張り出される依頼というのは緊急で、かつ、高額。
それが、ギルドへ来る者たちが見やすい状態に出来れば良いのだろう。
そう考えると、やはり良く練られていると思う。
次に、比較的安価な食事を提供するスペース。
新米である“石”の冒険者が依頼をこなして得る報酬は哀しいかな少ない。
それでも、人は生きるために食べて寝なくてはならない。
少しでも量が食べられるように、ギルドが一括して食材を仕入れ、提供しているのだ。
勿論、オークの肉と言った可食部位を冒険者が採取してくれば、買い取って食材とする事もある。
なにせ、生物は足が早い。
オーク肉などは、比較的御馳走と言える食材だが……。
オークを討伐→その場で解体→近くのギルドで買取……という手順になるため、どうしても討伐した場所から日数がかかる。
血抜きをして、解体したとしても、その場で保存食に出来るわけでもなく……。
俺たちが持つような“魔法の鞄”でもなければ……冷蔵用の魔道具などを別途用意する必要がある。
そして、殆どの冒険者はそんな便利な物を手にすることは、まず出来ない。
そのため、珍しく納品があった場合、ギルドから辺境伯家や商家に連絡が行き、入り用であれば卸す。
なければ、翌日の食材または保存食となる……とは専らの噂だ。
味は、所属している調理師の腕に左右される。
腕が良い調理師は店を開いたり、料亭に引き抜かれるため、あくまでも調理師への道の切っ掛けとしてなる人も多い。
酒も出しているが、味は……お察しと言ったところだ。
酒を扱う商人のところで、古くなったエールやワインを卸して貰い、安価に提供しているという話らしい。
良い酒が吞みたければ、金を稼いで酒場へ行け!っというわけだ。
酔えれば良いという輩は、金が稼げるようになってもギルドで吞むのだ。
そして、俺たちが打ち合わせをした会議室スペース。
依頼主との折衝であったり、複数の一党で受ける依頼などの打ち合わせをするスペースだ。
壁を漆喰だけではなく、砂利なども入れ簡単には破壊ができないようにされているらしい。
厚みもあり、盗み聞きもできないようにもするとのことだ。
……指名依頼や、緊急依頼と言った、秘匿性の高い依頼で説明をしたり、打ち合わせをしたりするのに必要なのだ。
ここまでが一番よく知られている冒険者ギルドの建物の造りだ。
あと二つ、ギルドを造る上で必要な物がある。
訓練場と倉庫だ。
訓練場はその名の通り、冒険者が訓練をするスペースだ。
冒険者は様々な攻撃手段を使う。
剣、槍、斧、弓、魔法……こう言ったものをどこで練習すればいいのか。
”実戦で!”……というのは素人だ。
馴れた者程、まずは訓練場で練習を積み重ね、納得がいってから実戦で試す。
腕の立つ者程、そこに到達するまでにいくつもの積み重ねがあるのだ。
それに、訓練場はもう一つ役割を持っている。
登録したばかりの石の冒険者に、野営の練習を兼ねた宿泊スペースでもあるのだ。
俺たちが初めての依頼で盗賊を捕まえた帰りに、宿で馬小屋を使わせて貰ったが……小さい町や村に寄ったときは良いだろう。
ハルベルトの様な街では、宿の体裁もあり、そう言ったことはできない。
そうなると、金がカツカツなら野宿をすれば良いか?
……スラムなどがある街であれば気にはならない(手出しをしない)かも知れないが、基本的に治安の悪化に繋がるため、殆どの街が野宿を禁止している。
ならば、冒険者の訓練の一環であればどうか?
あくまでも、冒険者ギルドの敷地内で、ギルドの監督の元に野宿をする。
……それならば仕方ない……という所に持ち込んだらしい。
ただし、代償がある。
ドブ浚いや下水道の害獣退治と言うような、殆どの冒険者が避けたがる仕事を代わりに行うのだ。
勿論、報酬はでる。
なので、野営の練習をしつつ、先程上げたような依頼をこなして経験を積む冒険者も多い。
……そう考えると、俺たちは恵まれていると言えるだろうな。
最後に、倉庫。
これは単純だ。
冒険者が仕留めてきた獲物で換金ができる物を保管しておくためだ。
大きめの街であれば、冷蔵や冷凍が可能な保管用の魔道具を設置して、生鮮素材を長期保存したりする。
そこまで大きくない街や、生鮮素材以外のものであれば、仕分けして仕舞う。
そして、商人へ卸すのだ。
この素材を卸した際の売却益と国からの補助金が、ギルドを運営する資金となっているとの話だ。
今回は素材については口にしなかったが、”間引き”の報告をする上で、討伐証明部位を提示する必要があるため、素材担当が必要であろうとクリスさんは考えてくれたのだろう。
ギルドの建物を突っ切ると訓練場が見えてくる。
五十メートル四方の広さがあり、新人と思わしき少年少女が年配の職員からレクチャーを受けているのが見える。
冒険者となった後、石、鉄、銅と進み、ある程度の信頼を勝ち取ると、片手や片足が不自由になったという様に引退せざるを得なくなった時に、教官として雇用される事がある。
今、教えてる職員もそう言った形で雇用されたのだろう。
片足の足運びに少しぎこちないところがある。
新人の相手であれば、問題ないだろうが……命を賭ける戦いにはマイナスだろう。
他にも一党が連携の練習をしていたり、魔術師が魔法の試し撃ちを行っているのが見える。
そう言ったのを横目にしながら、訓練場の先にある第一倉庫へ歩いて行く。
歩いていると、ガヤガヤと喧噪が生じ始め、こちらへ視線が来るのがわかる。
……確かに、俺も含めて女性が八人。しかも全員が見目麗しい。
その中に、厳つい大男が一人となったら、興味を抱かざるを得ないだろう。
”この大男のハーレムか!?”と。
俺たちの肢体を舐めるような視線がいくつか来るのがわかる。
それに合わせるように、バーバラが手を組んできた。その逆の手にはルナが。
二人に視線を向けると、二人とも首を横に振った。
……ああ、俺が”牽制のために威圧をしよう”としたのに気づいたのか。
「……”我が主殿”の気持ちは嬉しい。だが、ここでは威圧せん方が良いぞ?」
「”ボクの勇者様”、大丈夫。ボク達は貴方のものだから。いっそのこと、自慢して欲しいかな?」
「……わかった。……そして、ありがとう。」
二人の言葉に、感謝の言葉を口にする。
俺の言葉に、二人は笑顔を見せてくれた。
それだけで、ささくれだつ心が安らぐのがわかる。
そうこうしていると、倉庫が近づいてきた。
ハルベルト支部には、大きく二つの倉庫が存在している。
冷蔵と冷凍の魔道具、そして希少価値の高い物を保管する金庫のある第二倉庫と、それ以外を保管する第一倉庫だ。
今回の目的地である第一倉庫の入り口は既に開いていた。
基本的に、朝、ギルドが開業する三刻と共に開き、受付業務が終わる十刻に閉まる。
それまでは専門の管理者が交代で常駐し、管理を行なっているらしい。
その管理者だろう。男性職員が俺たちに声をかけてきた。それにバーバラがうんむ!と言わんまでに答える。
「お、納品かい?」
「うむ。“間引き”をしてきたのでな。報告と、素材の納品じゃ。クリス殿が後から、素材担当者と共に来る予定じゃよ。」
「そうかそうか。量としてはどれくらいになりそうだね?」
「量か……フィーリィ、どれくらいじゃったかの?」
「小規模十一、中規模一ですよ。”魔法鞄“があるので、解体せず持ってきています。
……そうそう、トロールも四体程おります。武具もありますから……結構、場所は必要とするかも知れませんね。」
フィーリィの回答に、職員は目をパチクリさせている。
……まず、”緑肌“達の一群を小規模を十一も討伐してくると言うのが珍しい。しかも、中規模まで討伐しているのだ。更には、トロールまでいると言う。
それだけで、どれくらいの量か想像ができてしまうのだ。
「……こりゃ、今日は応援を呼んで徹夜だな。解体はこっちでやって良いんだろ?」
「勿論じゃ。解体料は割増で払おう。ついでに、終わった後の宴会用に銅板を幾らか提供しようぞ!」
職員がぼやくように口にした内容に、バーバラはニッカリと笑顔で応える。
その言葉に、そりゃ太っ腹だ!と職員はガハハと笑い声を上げた。
納品の際にだが、基本的に部位だけを納品出来れば十分ではある。
なので、殆どの場合、冒険者は獲物を解体して、納品ができる部分だけを納品する。
ただ、”魔法鞄”持ちの一党の場合、容量に依っては解体せずに全て持ち込むことがある。
その際に、その場で解体を待つのは時間がかかる上に、解体する者の技量に依っては質が落ちる可能性が生じる。
その為、素材の買取額の二割を引く事で、ギルド職員の手で解体を代行するサービスを用意しているのだ。
特に今回は数も多く、“緑肌”の素材だけではなく、奴等が装備していた武具類もあるため、解体手数料を割増で払っても十分元が取れるし、なによりも職員たちの好感を買えるとあらば安いものだろう。
そんな話をしていると、クリスさんともう一人、男性の職員が駆け込んできた。
そして、それを見届けた倉庫担当の職員は、応援を呼ぶ為にギルドへ走っていく。
あくまでも、冒険者だけが倉庫にいる状態は宜しくない。
その点では、納得のできる動きだ。
「お待たせしました!では、今回の“間引き”の報告をお願いいたします!」
「おお!……今回は、小規模十一、中規模一、内トロール四を討伐。戦利品で“魔法鞄”を入手してな。ここに全てを突っ込んできた!」
「……“魔法鞄”なんて、私、この支部に勤めて初めて見ますよ?
それに、全てを突っ込んだって……容量はどれくらいなんですか!?」
クリスさんが驚愕の声を上げる。いや、まぁそうだろうな。
三週間前に冒険者登録したばかりの一党が“魔法鞄“を得て、”緑肌“の一群を十以上討伐してくるなんて、ホラ吹きと言われても仕方ない。
「えー……鑑定担当のサンジェルマンです。”鬼の花嫁”の皆さん、納品の際にお会いすると思いますので、今後とも宜しくお願いします。……クリスさん、それよりも数がありますので、まずは確認しましょう。」
「そ、そうですね!……取り乱して申し訳ございません。では、出していただいても宜しいでしょうか?」
「承知した。フィーリィ、すまないが鞄から取り出すのを頼む。それ以外の皆で、取り出したのを並べて行くぞ!」
クリスさんの取り乱し様に、鑑定担当のサンジェルマンさんは逆に落ち着いたようだ。
俺たちにきちんと挨拶をした上で、クリスさんへ先に進めるように促した。
バーバラが音頭を取って作業を指示する。
「では、まずはゴブリンから行きます。」
そう言うと、フィーリィがどんどんゴブリンを鞄から取り出していく。
背負い袋型のため、どういう原理で入っているのか考えてしまうが、ズルズル…ドサリと出てくる。
それを俺たちで順番に並べていった。
ゴブリンが終われば、次はオーク。これは一人では運べないため、二人から三人がかりで運んでいく。そして、一際がっしりとしたオークを出すと、クリスさんとサンジェルマンさんが息を飲んだ。
「……これは、オークチーフですね。オークやゴブリンには、我々で言う階級みたいなのがありまして……チーフ、隊長クラスからは高品質の武具を身につけたり、魔道具を持っている事が多いのです。それで、“魔法鞄”ですか……。」
「私も受付嬢として、結構長いですが……初めて見ました。正直言って、トロールもここ数年、討伐証明部位の持ち込みさえなかったですから……。そう考えると、快挙ですよ!」
「それは頑張った甲斐があるのう!」
「私も、そう思います。後はトロールということでしたね。トロールが並んだら、査定に入ります。この量で、死体丸々であれば……全部で金貨一枚は下らないでしょう。」
金貨一枚。
少なそうだが、報酬としては十分な額になる。
金貨一枚=銀貨百枚。銀貨一枚=銅板十枚=銅貨十貫=銅貨千枚。
一貫は百枚の銅貨を紐で貫いて束ねた状態を指す。両替商はいるが、両替をすると手数料が掛かる為、銅貨に関しては、百枚単位で束ねる一貫という単位が存在する。
宿での一泊が最低ランクで銅貨十枚。一食の料金が三〜五枚でそれなりの食事ができる。
銅板一枚あれば、五日間は食事つきの宿に泊まれるというわけだ。
銀貨が必要となる金額となると例えるのが難しいが……一番目にして、わかりやすいのは、騎士が着る様な甲冑。あれを一式発注した場合、銀貨十枚前後が最低かかると思って良い。
装飾や素材によっては、更に高くなることが十分考えられる。
あと、俸禄払いの騎士の場合、金貨一枚が一年の俸給となることが多い。自身の武具の整備代、小者、小間使いと言った家臣への俸禄をそれで払うのだ。
おおよその価値は分かったと思う。
……俺たちは、騎士一人分の一年の俸禄分を稼いだということだ。
ただ、これは俺たちが特殊であるということを忘れてはならない。
本来、トロールが含まれた一群や、中規模の一群は“避けるべき”なのだ。
今回は、綱渡りになったが……人を増やし、より効率的に狩れるようにしなければ。
人を増やす……という所で思い出した。ラース……ヨハンをクリスさんに紹介していない。
それを思い出した俺は、クリスさんに声をかけた。
「クリスさん。紹介を忘れていたが……この度、“悪鬼羅刹”に参加することになった、一党“勇敢なる剣闘士達”の党首、ラース殿だ。顔を合わす機会も増えるだろうから、覚えておいて欲しい。」
「……ラースだ。宜しくお願いする。」
「はい!クリス・アレス・チョトーと申します。あ、チョトーはチョトー村で生まれたので、名乗ってます。ラースさん、宜しくお願いしますね!」
ビクッと、ラースの動きが止まった。
そして、まじまじとクリスさんの顔をのぞき込む。その仕草に、彼女も首を傾げるが……ハッと目を見開いた。
両の手を……ラースの顔に伸ばし、確かめるように触れる。
「ヨハン……兄ちゃん?」
「……ああ。クリス……無事で良かった。……大きく……綺麗になったな。」
「ああぁぁ……兄ちゃん……にいちゃあああん!!」
クリスさんは、この時、二十年前に失った物を一つだけ……一つだけだが、取り戻したのだった。




