Session04-02 アインホーン家の食卓
あれよあれよという間に、前回投稿から約三ヶ月。
大変お待たせ致しました。
今暫くの間は、不定期投稿が続きます。
ネタはありますので。
「我らを見守る神々に、今日も糧を得ることができる喜びを、感謝の祈りとして捧げます。
いただきます。」
「「「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」」」
圧巻だ。
左にマーリエを先頭に妻が並ぶ。
朝の運動の後、皆、服を着替えた。
マーリエは昨夜のようなドレスではなく、彼女が院長を務めている孤児院でいつも着ている修道服を着ている。
バーバラを初めとした”鬼の花嫁”の党員は、冒険者として普段から着込んでいる服装に、護身用の得物を腰に下げている形だ。流石に防具の類いは身につけていない。
この後、冒険者ギルドに報告へ赴くため、そういう格好をしているのだ。
ルナだけは、当世具足ではなくローブを着込ませた。
『……依頼を受けて、それをこなしに行くのでもないのに、ルナの肢体を他人に見せたくはない。』
そう言って、着込んで貰ったのだ。
その言葉が余程嬉しかったのか、尻尾をぶんぶん振ってたのを見て、内心ホッコリしたのは秘密だ。
右には最年長者となる、ハーゲンを先頭に大凡年齢順に並んでいた。
ハーゲンとビョルンは、昨夜着込んでいた礼服ではなく、簡略された騎士服……略装を着込んでいた。
他にも、ヨハンことラースや、カイル、ダール達も略装を着込んで席を並べている。
こうやって、皆で食べることが珍しいのは確かで、何人かは面食らっているが黙々と食べ始める者を見て、皆、食べ始めている。
それはいいのだが、一人だけ見覚えのない少女がいる。
腰まで伸ばした青空のような蒼い髪。小ぶりな顔に、紅玉の如き赤い瞳が印象的な少女だ。
席としては、ハーゲンの隣に座っている……ということは。
「グロース卿。食事中に済まないが……そちらが、卿の?」
ハーゲンがフォークとナイフの動きを止めて、こちらを見てくる。
俺が話を振ったことと、孫のことが話せるということが嬉しいのだろう。厳つい顔が、喜びで綻んでいるのがわかる。
「はっ。我が孫娘の、ミリスと申します。……ミリス、アインホーン卿へ挨拶をなさい。」
「はい、お爺さま。……ミリス・ドールトン・フォン・グロースと申します。
アインホーン男爵様、奥方様方。不束者ですが、宜しくお願いいたします。」
既に、ハーゲンから話が行ってるのがわかる対応だった。
歳はマーリエから聞いてはいたので、十二歳という事であれば少し体格としては小さいかと感じられる。
「確か、ミリスは私より三つ下でしたね。当年十二歳だったと思いましたが……。」
「はい、マーリエ様。仰る通りです。当年で十二歳になりました。」
成人は十五歳が基本だ。
当主が急逝した際に、成人してない子供しか跡取りがいない際に、成人を早めることはあるが、概ね十五歳で成人となる。
貴族的な話からだと、十五歳くらいで嫁ぐということはままある。
一応、俺もこの体格で十五歳ではあるため、まぁ……悪くはない話であるのは確かだ。
五十代の当主へ嫁ぐなんていうのもよくある話だからな。
「では、本日から、ミリスも我らと同じ”我が主殿”の嫁じゃな。宜しく頼むぞ!」
バーバラがそう言うと共に自己紹介を行った。
それに倣って皆が自己紹介をしていく。今の所、特に問題はなさそうだ。
まぁ、まだ食事をして、顔を合わせたくらいだ。ここで問題が出るようでは後が怖い。
「グロース卿。
ミリアには部屋を一室用意している。
最低限の家具はあるが、足りない物はセバスとカイルに諮ってくれ。
ミリア。今日から一緒にこの屋敷で暮らして貰う。
改めて、宜しく頼む。」
「はっ。荷物につきましては準備済みですので、改めて我が家の者に運ばせましょう。」
「……ひゃ、ひゃい!……末永く宜しくお願いしまちゅ。」
俺はミリアにニコリと笑顔を見せた。彼女とは末永い付き合いになる。特に、十二歳という夢に夢見るような年頃だ。彼女に好かれるように…。
その俺の笑みを見てか、ミリアはボッと顔を真っ赤に染め上げて、顔を俯かせながら、もじもじとこちらを伺ってるのがわかる。
そして、舌足らずな返事になってしまってるのがホッコリさせる。
皆も同じように感じているのか優しげな目をしていた。
コホンッと咳払いをし、空気を変える。
「では、食事をしながらで聞いて欲しい。
まず、皆に指示を出す……。
ダール。グロース卿、ビョルンに諮り、奴隷となることを誓約した捕虜と、仕えている衛兵を再編し、兵団を組織せよ。
また、我が名において、そなたを騎士爵へ叙任する。励むように。」
「ははっ!ありがたきお言葉!このダール、粉骨砕身の思いで励みます!
……グロース卿、ビョルン殿、お引き立ての程宜しくお願いいたす。」
ダールの言葉に、ハーゲンとビョルンが頷いてみせたの確認し、続ける。
「マーリエ、君はルー、ターニャ、ケイの三人と一緒に孤児院の子供たちと、今回、カイルが買ってきた奴隷たちの素質を調べ、教育をして欲しい。
また、孤児院の運営については、アインホーン家より寄付をする。できる限り受け入れてくれ。
……コホンッ!
ルー・ファビアン・ヴィンター!」
「は、ははっ!」
「ターニャ・ビョルン・インメルマン!」
「は、はいっ!」
「ケイ・コタロー・アマツ!」
「お、応っ!」
俺がルー達三人の名を一人ずつ呼ぶ。名を呼ばれると思っていなかったのであろう。三人ともが慌てて応えるように返事をしてきた。
その返事を確認し、三人の顔を一度確りと見つめた後、側室として迎える旨を伝えた。
「そなた達三人を妻として娶る。以後、妻の一人として傍に侍るように。
そして今、この場に居る妻全てに誓う。分け隔て無く愛することを。
三人とも、良いな?」
「「「しょ、承知致しました!」」」
三人が声を揃えて返事をする。
その声は震えており、泣きそうになっているのを頑張って堪えているようだ。
「マーリエ。すまないが義父上に、三人の実家を引き取る事ができないかを相談して欲しい。
この後、書状を用意するのでそれを渡してくれ。俺の狙いと要望を記載しておく。三人は実家に送る書状を認め、マーリエへ預けるように。その後は、先程の指示に従い、マーリエと共に当たってくれ。」
「承知致しました、”愛しの君”。ルー、ターニャ、ケイ。改めて、宜しくお願いしますね」
「「「承知致しました!」」」
三人が揃って返事をする。その瞳からは光るものが見えた。
彼女たちは、公爵家の次男坊…ラークスの傍付きとして……多分に妾として……付けられただけあり、教育が十分に施されている。
三人とも、基本的な知識、剣術などは勿論、ルーは組織を運営する才、ターニャは算術を元にした管理する才、ケイは剣術を修め、更には部隊を指揮する才……そして、それを教えると言う才が三人にはある。
算術は文官として必要な力と言えるし、指揮能力は武官になる上で力になる。そして、管理運営する力は上に立つ者には確実に必要となる。
特に騎士となりたいのであれば、どちらかだけではいけない。
平時であれば治政を行い、有事とあらば武を持って立ち向かう。
この二つが出来て、騎士といえよう。……尤も、華やかな武官が持て囃されるのは世の常ではあるが。
特に、俺には譜代と言える家臣は今の所、ここにいるだけだ。
バーバラの伝手でフォルミタージ工房から幾人か人を用意できる”かも”知れない。
マーリエの伝手でレンネンカンプ辺境伯家から、ハーゲン、ビョルンと言った寄子を得たが、それ以上は厳しいだろう。
となると、新規で召し抱えるか、引き抜くかしかない。
引き抜きは他国からならまだしも、国内でやると要らぬ軋轢を生む。
なので、本来は引き抜きはできない。しかし、例外がある。
それが、三人の実家だ。
ラークスの暴走により、バウエル公爵家とレンネンカンプ辺境伯家の間に溝が出来てしまった。
そして、ラークスは公爵家の次子であり、実子だ。
普通ならば、暴走をしたラークスを出家させて神殿に押し込み、それに併せて進物を用意して収める手があるが、今回は内容が問題だった。
なにせ、辺境伯家の騎士を無礼討ちしたとかであれば、良くはないがどうとでも出来たであろうが、如何せん、辺境伯の長女を狂言誘拐をした上で手籠めにしようと画策していたのだ。
これには公爵も頭を抱えたであろう。
”公爵家はどのような教育をしているのか!”
そう問われて致し方ない案件だ。
ラークスは、暫くは病として幽閉するとしても、その汚名をどうにかせねばならない。
”犠牲の羊”が必要だった。
文官、武官の目端が利く者は諫言を退けられた後、高をくくって出仕を控えた。
そいつらは公爵から禄を貰っているため、主家の不名誉になりかねないことには参加を避けたのだ。自分たちがいなければ、ラークスだけでは決行できるわけがないと。
しかし、ラークスは無理矢理に決行した。
彼女たち三人は道中、何度も諫めたという。しかし、彼女達はあくまでも付き人として付けられていたため、受け入れられず、また逆らってラークスの元を離れるという選択肢は選べなかった。
だが、それが結果として、公爵家に取っては丁度良い”犠牲の羊”となり得た。
三人の実家は中堅どころであることと、彼女達が戻ってきていないことで罪を被らせた方が話が纏まると考えるであろう。
罪を被らせ、円滑に進ませる代わりに、三人の実家をこちらで引き取る。
辺境伯家の長女を娶る、新興の家門の譜代となれる。
側室の実家として厚く遇することで、忠誠を得ることも可能だろう。
即戦力として、十分に期待が出来る。
……改めて、三人をしっかりと評価してやらねば。
「カイル、貴殿は捕虜にした兵たちの中で、兵士になることを承知しなかった者たちを売りさばけ。
また、レンネンカンプ辺境伯領の村や町を周り、口減らしの話があれば、できる限り仕入れてくるように。
男女問わず成人までの歳であれば買うように。買った子らはマーリエへ引き渡すこと。
そして、改めて貴殿を御用商人とする。フォルミタージ工房のゴルド殿に書状を用意するので、打ち合わせをするように。
その後は、ゴルド殿と図り、貴殿の才覚において好きにせよ。」
「ははっ。非才の身ではありますが、全身全霊を持って、お役に立って見せます。」
カイルが礼で応える。
人が増えれば金がかかる。人材自体にもかかるし、装備や資材などでも金がかかる。
俺たちは封土はなく、金銭などの俸禄で仕える法衣貴族と言う立場だ。
本来、封土を賜った貴族家が奉公としての軍役を担うものであるため、急いで兵団を組織する必要はないが……。
人材は望む”者”が手に入るのは稀と言える。そのため、一番良いのは人材を育てることだ。
だからこそ、今から育てる。そうなると、育てる人材の分だけ金がかかる。
その費用を捻出するのが役割だ。
「”鬼の花嫁”の党員と、ヨハンは俺と一緒に冒険者ギルドへ行く。
”間引き”の報告と冒険者登録に”鬼の花嫁”への登録、”悪鬼羅刹”への”勇敢なる剣闘士達”の参加報告だな。
そして、その場でだが良き一党が居れば、”悪鬼羅刹”への勧誘をする。
その後、傭兵ギルドへ行き、ヨハンの推薦する傭兵団への連絡を取る。
また、ヨハン。そなたを騎士爵へ叙任する。励むように」
「……有り難きお言葉。このヨハン、我が武を持って、お役に立って見せましょう」
ヨハンが様々な傷が浮かぶ顔に、笑みを浮かべた。
どう見ても厳ついのに、笑みを浮かべると妙に人懐っこく見えるのは人徳と言えるのだろうな。
妻達は言わずとも分かってると言うように頷いてくれている。
こっちは特に追加することはないな。
「セバス。改めて、屋敷内の事は全て任せる。カーヤと図り、良くしてくれ。
また、辺境伯からの使いが来たとしても、辺境伯ご自身か、長子、次子の署名のある書状を持っていない限りは命に従わぬ事を申しつける。
もしも、狼藉を働く場合には目に余るようであらば切り捨てよ」
「承知致しました。流石に、そこまでではないことを祈りましょう」
セバスティアンが恭しく腰を折る。
これだけ見ると、執事の鏡なのだがなぁ。
ニヤニヤと”問題が起こると良いが”と思ってるのを隠さずにいるのが、じいの悪い癖だ。
その顔を見ながらため息を吐いた後、カーヤへ一つ依頼をする。
「カーヤ。昼に孤児院へ昼食の差し入れをしてやってくれ。
あと、子供も大人もだが、焼き菓子も差し入れて欲しい。
マーリエたちは、カーヤの焼き菓子を餌にうまく手綱を取るといい」
「はい。カーヤさん、お願いしますね」
「承知しました!腕によりをかけますのでご期待ください!」
ドンッと自分の胸を叩き、カーヤが自信があるということをアピールしている。
彼女の料理の腕は、相当な物だ。特に菓子作りは。
一度食べた菓子を、試行錯誤しながら、ほぼ同じ物を作り上げるのだ。
これを才能と言わずして、なんと言おう?
勿論、味もお墨付きだ。
ジャムとかも趣味で作るため、朝食の際に並ぶジャムは彼女の手製である。
俺の発言が一段落した事を確認し、話し合いが終わりであるかを確認するように、バーバラが俺へ顔を向けて尋ねた。
「では、”我が主殿”。話は仕舞いじゃな?」
「ああ。では、各々方、抜かりの無いように頼む。」
「「「「「「「ははっ!」」」」」」」




