Session03-16 エピローグ 王都での会談 思惑は交錯する
「ここで皆で集まるのも、数年振りか…。」
私は、この“紅葉の国”にある三つの辺境伯家の一つを拝命している、オズワルド・クリスチアン・フォン・レンネンカンプ。親しい者からはオズと呼ばれている。
今、私は“紅葉の国”の王都の王城の一室に居る。
王城である為、調度品のどれもが高名な工房で製作された物であったが、この一室に関しては、所有者の意を汲んで煌びやかさは薄れ、質実剛健という言葉が似合いそうな具合にまとめられている。
ここには、色々な思い出がある。
友と出会ったこと。友と未来について語り合ったこと。妻と出逢ったこと。妻に告白をし、受け入れて貰えたこと。友の子供が生まれた時に、皆で祝ったこと。
色々な思い出があった。……妻はもう、ここには来れないが。色褪せぬものは確実に存在していた。
「オズ、貴様からの要請と聞いて飛んで来たが、貴様の方が早かったか!
……まぁ要請してから出発していれば、そんなものか。」
そう言って入ってきた男は、赤い火の玉のようだった。火の玉と例えられる赤い豊かな髪を後ろに流し、暑さを避けるように袖などをまくって、小麦色に焼けた肌を出している。
この男は、南部を守護するアルブレヒト辺境伯家の現当主、”ファルク・ベルント・フォン・アルブレヒト”だ。
南部は海に面する地域が広い事もあり、海軍も司っている。アルブレヒト辺境伯家は海軍の長を必ず一度は経験をする。そのため、個人的にも海へ定期的に船を出すことを楽しみにしている一族でもあった。
「……そう言えば、マーリエが嫁いだと聞いたぞ!?本当か!?」
そう言って、真っ直ぐに私の目をのぞき込んでくる。
……心配する気持ちはわかる。なぜなら、ファルクは私の義兄でもあるのだ。
私の妻は、ファルクの妹だった。四人も子を産んでくれた素晴らしい女性だった。
しかし、一番下の娘を産んだ後、身体の調子が戻らず、臥せったまま眠るように死んだのだ。
ファルクは妻を家に居るときから大層可愛がっており、結婚を申し込んだ時も決闘沙汰になりかけたほどだ。
死んだときも、私と同じくらい……いや、それ以上に悲しんでいただろう。
だが、何も言わず、甥姪になる子らに涙を堪えながら笑みを浮かべて良き伯父として振る舞っていたのを、私は覚えている。そういう男なのだ。
マーリエは死んだ妻の忘れ形見みたいなものだ。だからこそ、マーリエが出家同然の状態になったとき、私のせいではないのかと問い糾しに来ることをして見せた。
その後、私が理由を説明することで、表面上は納得し引き下がってくれたが、やはり、どこかに心配する気持ちが残っていたのであろう。そういう男なのだ。
「……ああ。相手は”あの”アイルだ。」
「待て……今回の議題はアイルが関わるのか?」
私が”あの”と付けた事で、察してくれたらしい。
その言葉に肯定するように頷いて見せた。
ファルクは、私が頷いたのを見て、腕を組んで思考を始めたようだ。
彼は野性的な風貌をしているが、理知的な思考を中心にして考える人だ。
それを知ると意外と感じる者は多いが、海軍を率いていると潮の満ち引きや風を読み、すべての船を統率する必要があるため、普段からもの凄い量の計算を頭の中で行っているのだ。
そのため、時間をかけて考える事ができるときは、今のように思索の海に漕ぎ出すのだ。しばしの間、待っていると、彼は組んでいた腕を解き、頭を掻き始めた。
「うむ、情報が少なすぎてわからん!
……まぁお前が全辺境伯と宰相まで呼ぶのだから相当なことなのだろうな。楽しみだ!」
ガハハハと笑いながら、アルブレヒト辺境伯の指定席に座った。それを見て私も指定席へ座る。普段は国防の観点から、辺境伯が全員揃うことはない。そのため、今までは各辺境伯が座る席が埋まることはなかった。
しかし、今回は私の要請で全員が揃う。
この国の未来に関わる話。
そして、娘の話。
義息子の話。
さて、何から話すべきか。
私は控えていた侍女に紅茶を頼んだ。一服しながら考えよう。
便乗するようにファルクも紅茶を頼む。彼は茶よりも酒を愛する人だが、流石に会議前に吞むのは避けたのだろう。
注がれた紅茶を少しずつ味わいながら口にする。ファルクは茶葉が気になったのか、紅茶を持ってきた侍女に茶葉について聞いている。確かに主に流通している茶葉とは違うようだ。流通している物よりも、より香しい。
そうしていると、また一人男が入ってきた。勿論、私が知っている人物だ。
「オズワルド、ファルク、先に着いていたようだね。そうなると、待たせてしまったようだね。申し訳ない。」
コンラート・ベルホルト・フォン・ベルンシュタイン……アイルの実父だ。
溶かし梳いたような金髪の中に、一筋、二筋と鈍く輝く銀髪が差している。
口元と顎を覆うように同じ色の髭も見える。見事なものだった。
アイルの見事な金髪は父譲りなのであろう。アイルに言うと怒るだろうが、あの美貌と相まって、編んだ髪が金細工に見えるのだ。あれは、本当に素晴らしい。
「誤差だ、誤差。お前も鬼人族の氏族群とのやりとりがあるのは知っている。
遅くなったとしても構わんさ。なぁ、オズワルド?」
「勿論だ。今回に関しては、コンラートが休みの回なのに呼び出すことになってしまって、すまないと思っている。」
「……君が要請する程の大事があった。そう言うことだろう?それならば、否はないさ。
で、風聞で聞いたが、マーリエ嬢が結婚とか。おめでとう!相手はだれなんだい?」
コンラートが心の底から祝福をするように笑顔を見せた。
彼も長年の友人だ。特に私達三人は次代の当主として、王都にて机を並べ学んだりしたものだ。その流れで、妻とも出会った。
彼が今回の会議に参加する人員の中では一番心優しい。だから、今回の言も、相手が誰かは知らないが、教会へ修道女として入ったマーリエが結婚するという話を聞き、過去の経緯から、心より祝福しているのだろうとわかる。
「それについては、今回の議題にも関わってくる。詳細に報告するから期待していてくれ。」
「そうかい?なら、楽しみにしているよ。……そうしたら、今度祝いの品を送らないとね。」
「ああ、そうだな。俺も送るから、被らないようにしようぜ。」
コンラートの話に、ファルクが一枚噛ませろとばかりに乗っかった。
二人は、ああでもない、こうでもないとどんな品が良いかを話し合っている。
おもちゃはどうだ。ドレスもいいんじゃないか。茶葉なんかもいいと思う。珍しい食べ物というのもありだな。
そんな感じに色々と提案し合っていく。
二人が白熱した話し合いを続けていると、参加者の残り二人が入ってきた。
「お待たせして申し訳ない。陳情が長引いてしまってね。
待たせた身で申し訳ないが、時間も有限だ。
オズワルド、すまないが、今回の議題を上げてもらっても良いかな?」
この紅葉の国、ノルテンブルグ王家の当代国王、ルーカス・ヴィルヘルム・アラ・ノルデンブルグがそう言い、私に向かってニコリと微笑んで見せた。
昔は輝いていた金髪が、歳を経たことでか少しくすんできているが、髪の量は変わらずで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
そして、隣には宰相を任じられている、ヴァルツァー侯爵家の現当主カール・カスパー・フォン・ヴァルツァーが席に座る。
こちらは、濡れ羽色とでも言うような黒髪に銀髪が混ざり始めている。書類仕事が多いためか視力が落ち始めたらしく、片眼鏡をつけていた。
「……この度は、私から議題を上げさせていただきます。
議題と致しましては、チョトー解放についてとなります。」
私の言葉に四人が固まった。
ファルクは、そう来るかとでも言うように笑いをかみ殺している。コンラートは顎に手を当てて、ふむと考え込んでいる。カールは片眼鏡をキラリと光らせ、ルーカス陛下は目を細めながら両手を組んだ。
この中で、沈黙を破ったのは宰相に任じられているカールだった。
「オズワルド。チョトーの解放は我が国としても悲願の一つだ。
しかしながら、四度も失敗をしたという前例がある。
……それを踏まえても、するべきと言うのか?」
「はい。
……とある冒険者の力で、今までにない好状況を作れることになりました。
解放が叶えば、広大な地が開拓可能となります。
それをレンネンカンプ家のみでどうする気はございません。
是非とも、各辺境伯家、王家直轄領より援軍をお願いしたく。」
「……援軍を出すのは構わんが……その好状況ってのをどんなものかわからんと何も言えんぞ?」
まずは説明をしろとでも言うようにファルクが口を開いた。
その表情は真面目な顔をしようとしているが、先程の笑いをかみ殺し損ねており、何というかもうちょっと真面目な顔をしろと言いたくなる表情だった。
私は胸元から書状を取り出し、先程、紅茶を用意した侍女に預け、陛下へ手渡すように依頼した。
侍女は丁寧に書状を捧げ持ち、陛下へ捧げた。
陛下はそれを手に取ると共に侍女へ下がるよう指示を出す。そして、手にした書状を開き、中を読み始めた。
そして、一通り目を通すと、ふぅとため息を吐く。
「オズワルド。……ここに書かれていることは本当なのかい?」
「はっ。レンネンカンプの名にかけて、嘘偽りはございません。」
「カール。すまないがこれを読み上げてくれ。
……君がどう思っても構わないが、まずは読み上げ切るように頼むよ。」
「承知いたしました。では……。」
一つ、一党”鬼の花嫁”による、徒党”悪鬼羅刹”の創設。二週間の間引きの成果、チョトー砦に所属する”一群”小規模計十一、中規模計一。ゴブリン七十五、オーク二十五、トロール十を討伐。
一つ、”魔法の鞄”の取得。背負い袋型、時間経過なし、最大容量は不明。
一つ、”青鮫党”の服属。
一つ、薄森の国との密約。チョトー地方解放戦の際の援軍。
一つ、薄森の国との密約。チョトー地方解放後、翠葉の国を攻め盗る際の援軍。
「……一介の冒険者が他国と密約を交わしたってことか?
いやぁ、豪快な奴だな。恐れ知らずと言うべきか……希代のペテン師か。
俺個人としては嫌いじゃ無いな。その冒険者は。」
ファルクが豪快な笑いを上げながらそう言った。
ファルクが冒険者と断定をした理由としては、私が外交権を持っているとは言え、陛下とカールに黙って他国……陽森の国と密約を結び、特に翠葉の国を攻め盗るなんて話を纏めることがあり得ないと理解してくれているからだ。
私たち辺境伯家と王家は主従である。だが、それ故に互いの繋がりについては繊細な判断が求められる。
何せ、この国の中で王家の直轄領を除けば、三家が次いで大きな領地を持っているのだ。三家のうち、二家が手を組めば王家の打倒も可能だろう。特に王家が封じた諸侯が有利と見れば”返り忠”をする者も出てくるだろう。
それだけ、緊張感が生じる関係なのだ。故に、様々に縁を繋ぎ、忠を尽くしていることを伝え続けるのだ。……勿論、王が王足り得ない場合は、連名で諫言をすることもある。それも臣下たる義務だろう。
そんな私が、陛下と宰相、他辺境伯に一切話をせず、こんな事を纏めることはないだろうと言うことだ。
「”鬼の花嫁”という一党は聞いたことがないな。等級はどれくらいなんだい?」
「等級はまだ石ですが、今回の間引きの結果で鉄をまたいで銅になるでしょう。
また、銀への後ろ盾としてレンネンカンプの名で書状を発行しました。
間引きを含む、冒険者としての実績を積めば銀になることもそう遠くないでしょう。」
「……石にそこまでするとは……相当惚れ込んだようだね。一党の党首の名を聞いても良いかな?」
私の答えに、コンラートが興味津々と言った体で聞いてきた。
まぁそうだろう。冒険者は数多くいて、石は駆け出し、鉄は殻付き、銅は一端、銀は成り上がり、金は英雄、ミスリルは伝説……と歌われている。
そんな石の一党がこれだけの成果を上げ、しかも国の行く末を左右することを成し、レンネンカンプの名で書状を渡していると言うのだ。
酔狂ととられても仕方ないだろう。
だが、ここから党首の名を出せば、皆に衝撃を与えるだろう。そして、加護の件を話せば……話に乗ってくるはずだ。
私は、一度大きく息を吸い、吐いた。呼吸を整える。大丈夫、焦ってはいない。
「一党”鬼の花嫁”の党首の名は……アイル。アイル・コンラート・フォン・ベルンシュタイン。
今は私が叙爵し、アイル・コンラート・フォン・アインホーン男爵だ。」
私の上げた名前を聞いて、アイルの名を伝えていたファルク以外がガタリと音を立てて立ち上がった。陛下は驚愕し、いつもの温厚な表情を維持できていない。
カールも驚愕したまま、先程までつけていた片眼鏡が落ちたことに気づいていないようだ。
そして、父と言えるコンラートは……愛する子の名を聞いたことが嬉しくも、どこか哀しげな表情を浮かべていた。
座ったままのファルクは、やっと腑に落ちたとでも言うように顎に手を当ててニヤニヤと笑みを浮かべている。
「なるほどな。……あのアイルがなぁ。
正直、あの歳の子供の中で抜きん出ていたから納得してしまったところがあるが……だが、それだけじゃないんだろう?
一介の冒険者なら、お前が叙爵までしてマーリエを降嫁させるとは思えん。
マーリエがアイルに思いを寄せていたとしてもだ。
……で、カールが読み上げたこと以外に隠していることがあるんだろう?ええ?」
ファルクが裏を読むように苦笑いを浮かべながら、私にさっさと続きを話せと促してくる。ファルクのその態度に、平静を取り戻した三人が席へ座り直す。それを見届けてから、私は人払いを申し出る。侍女は各貴族家の子女が成っている。これから話す内容は、知られたら正直面倒なことになる。なので、人払いを申し出たのだ。
それを四人は察してくれた。カールが代表して侍女たちに指示を出し、退出させる。扉が閉まったのを確認し、加護の話を切り出した。
「……聞いて驚くなとは言わない。私も驚いたからな。……アイルは加護持ちだ。」
「……加護……というと、あの加護か。」
「して、どの神より授かったのですか?」
カールが落ちた片眼鏡を手に取り、浮かんでもいない曇りをスカーフで拭いながら言った。
「首座神様と戦女神様だ。」
「……二つの加護持ちかい?しかも、首座神様の?」
陛下の、その疑問の声に私は無言で頷いて見せた。
部屋が沈黙に支配されたのがわかる。
私は、沈黙を破って提案をするために立ち上がった。
「……アイルは二つの加護持ちだ。
正直言って、英雄譚にも二つの加護を受けた英雄の話は明確に存在はしない。
しかも、片方は首座神様だ。これだけでも、アイルは規格外の存在になる。
彼と便宜上呼ぶが……彼が冒険者となった理由が、功を上げ、叙爵を受けて幼馴染みを娶るためという話だった。
その為に、今回のチョトー解放のために動いたのだそうだ。
私としては、何よりもだが……英雄と言える存在を囲うべきだと思う。
その枷は大きい程、多い程良いと思う。チョトーの解放に合わせて、陞爵もして取り込むべきです。」
「確かに……そんな英雄候補を他国へ走らせることになるのは問題だね。しかし、陞爵だけでは弱くないかな?」
陛下がアイルの重要性に理解を示した。そして、爵位を上げるだけでは足りないだろうと懸念点を指摘してきた。そう、足りないのであれば、彼が捨てることのできない縁を作れば良い。
「そこで、提案があります。
王家から末姫様、
ヴァルツァー侯爵家から四女、
アルブレヒト辺境伯家から二女、
ベルンシュタイン辺境伯家は実家になりますから、分家筋の然るべき女性を彼に嫁がせるのはいかがでしょうか。」
「なるほどな。うちのじゃじゃ馬もアイルだったら御せるかもな。
で、新貴族家となるアインホーン家に各家から譜代となる者たちを受け入れさせるわけか。」
「……女で縁を繋ぎ、家臣でその縁を大きくさせるわけですな。
……先の話になりますが……一つ良いでしょうか。」
「カール、私たち以外はいないから遠慮はしないでいいよ。君の提案を聞こうか。」
「ありがとうございます。
……密約の件で我が国は、翠葉の国を攻め盗る必要があるのは把握してると思います。
……攻め盗った後ですが、アイルに彼の国の姫を娶らせて王として封じるのはいかがかと。」
カールの提案は、私の考えを斜め上に行く内容だった。
大貴族として封じるという可能性は考えたが、王として封じるというのは思いもよらなかった。
しかし、妙案ではあるかも知れない。
「……国を盗った後、どう治めるかが重要だからね。
……正直に言おう。私の子らを封じる気はないよ。それだけの器量はない。」
「……陛下の前で言うのは本来憚れるが……まぁ俺らだけだから目をつぶってくれな?
言っちゃなんだが、王太子殿下は守成の方だ。
陛下の後を継ぐということは出来るだろうが、攻め盗った国を興すというのは荷が重いだろうな。
配することができるかと言えば、器量はあるだろうが……。」
「……殿下に文句はないんだけどね。
逆に言うと、殿下なら苦労はされるけれども何とかできると思う。
……しかし、弟王子様は傲慢なところがあるからね。平穏な所に波を立てかねない。
それ故に配することはできないし、するべきじゃない。また、王太子に立てることもできない。
で、あれば末姫様の配偶者を王に据える方がマシ……ということかな。」
ファルクは王太子殿下を、コンラートは弟王子様を評した。
王太子殿下は、陛下より政務の一部を引き継ぎ執政を行っている。前例を引き継ぎつつも、現代と合わない場合は新しい裁定を下すなど、片鱗を見せ始めているという。
弟王子様は、兄である王太子殿下を公の場では立てているが、裏では自身の方が良くやれると嘯いているとの噂が絶えない。
また、派手好きで女性関係でも浮名を流しており、太鼓持ちと言えるような貴族家の子弟を取り巻きとしているとの話だ。
殿下を配せば、傘下の同盟国として新生できるやも知れない。
しかし、そうなると弟王子が次代の王となる。取り巻きはおもねる者たちばかり。
それに女性関係で浮名を流すというが、性に関してだらしがないというのが強い。
王城の侍女にも手を出しているとの話がある。
なによりも、一番大きいのが傲慢であるという点だろう。
攻め盗った国の貴族をすべて殺すなんてことはできない。ある程度の領地を召し上げる形で、安堵するのが慣例だ。
そうなると、彼らも過去の経緯や感情に蓋をして忠を尽くそうとする。互いに前を見て進むのだ。
しかし傲慢さがあると、それをあげつらったりして、要らぬ軋轢を作りかねない。
なので、王子を配することはできないと言ったのであろう。
「その通りです。
……通例で各家の子供を見てきておりますが、彼は人後に落ちないと当時は評しておりました。
……鬼人族との混血、そして両性具有ということで日の目は見ませんでしたが、今は違います。
お前も協力してくれるな?コンラート。」
「……はっ。我が子を評価されて喜ばぬ親がおりましょうや。
オズ……アイルを繋ぎ止めるのはそれだけでは足りないと思うが、君は聞いているかな?」
そう。アイルの本来の目的。それを満たした上で枷を増やさなければ、繋ぎ止めることはできない。
「鬼人族の氏族群に二人の幼馴染みが居て、それを娶るためと聞いている。その為にも、お前の協力が必要だ。」
「その二人は…ハルとナツだな。ベルンシュタイン家との縁を深めるために婚姻の話がある。
貴族としての後ろ盾という意味では、ジルクまたはボルドーに娶らせようと考えていたよ。
……成果を出せば可能性はあると発破をかけたが……オズ、息子を評価してくれてありがとう。
勿論、私の名で書状を書かせてもらうよ。」
「……話は纏まりそうかな?であれば、私もリーンを出そう。
コンラート、君は分家筋で適当な子女に覚えはあるかな?」
「はっ。
……実は側付きのメイドとして分家筋のカーヤという子女がおりましたが、先日我が家を辞しまして……既に息子の元についている頃かと。」
ニヤリと笑みを見せるコンラート。
この話があるとは予測はしていなかったであろうが、慕うメイドを繋がりとして走らせる。
伝手を繋ぎ止める貴族らしい考えだ。
その答えに、私を含めて四人が頷いて見せた。
「なるほど。では、ファルク、カール。
ヘレン嬢がアルブレヒト邸へ到着次第、リーン、ヘレン嬢、ローラ嬢をハルベルトへ出立させよう。
……その時の護衛を”鬼の花嫁”にさせるのはどうかな?
私としては嫁に出す相手を改めて一度見てみたいと思うのだが。」
これまたニヤリと陛下が笑みを見せた。
そう、昔から悪巧みをする際に浮かべていた笑みだ。
それを見て、私とカールは苦笑を浮かべる。陛下の悪い癖だ。
ファルクは陛下の発言に我が意を得たりとでも言うように手のひらを合わせて、賛同の意を示した。
「それは名案ですな!俺も嫁に出すなら一度手合わせをしたいと思ってましたので、良い考えかと!
……特に、娘もアイルと一度手合わせをせねば納得しないでしょうからな!」
「確かに……私の娘も、嫁ぐのであれば自身の器量を活かせる者へと常々口にしておりました。
それに、私自身もアイルがどれ程成長したのか。確かめたいものです。」
ファルクの賛同の言葉に、カールも頷いて見せた。
娘を嫁に出す父親として、嫁に出す相手を見極めたい……という気持ちはよくわかる。
私は直接は見ることができなかったが、マーリエからアイルの活躍を聞いた。
それはもう耳にタコができそうなぐらいに。
そして、直接、彼自身を目で見た。声を聞いた。……あれで騙されたのであれば、私の目がなかったということだ。
コンラートは三人の発言を面白がっているのか笑みを浮かべている。
「陛下、私は書状の受け渡しのためにその場に参加させていただきますね。
……援軍についてですが、ベルンシュタイン家としては寄子を中心に編成し、ジルクを旗頭として二千を出そうと思います。」
「陛下、アルブレヒト家もルドルフを旗頭に二千を出すぞ!必要とあらば海軍も出そう!」
「陛下、王太子殿下を旗頭に直轄領から二千、そして糧秣の提供をいたしましょう。」
「宰相、両辺境伯の言や良し。
レンネンカンプ辺境伯は計画を纏め、提出せよ。
その計画に沿って両辺境伯は兵を動員。援軍を派遣せよ。
宰相は提出された計画より算出される糧秣を試算。その半分を提供せよ。
また、軍務卿に計り動員計画を作成し、それに沿って実行せよ。」
「「「「ははっ!」」」」
陛下の決定に私を含めた四人は平伏した。
最大兵力を擁するレンネンカンプ辺境伯軍が主導する形になるが、王太子を筆頭に、各辺境伯の長子を旗頭として揃う。
今回の戦を経験と……実績とする流れだ。
本来の予定よりも動員兵力が大きくなる分、統制はしづらくなるがチョトーの兵力の誘引はしやすくなるだろう。
主目的はアイルたちの迷宮攻略までの敵戦力の拘束。それなら、十分に実績を積めるだろう。
私からの議題はここまでだ。
「陛下。
今回の私からの議題でありますが、チョトーの解放に纏わる件はここまでの話で纏まったと認識して良いでしょうか?」
「私は構わないよ。三人はどうかな?」
「「「異議なし!」」」
四人が良い笑顔をしている。久しぶりの良い話となったようだ。
他には、この五人が久しぶりに揃うと言うことで、最近気になった話が議題としてあげられた。
先日の公爵家の次男坊の話や、鬼人族の氏族群の話、最近活発になってきている海賊の話……と様々な話をした。
こうやって五人が揃って話すのは何年ぶりか。
「そうだ。皆、これから晩餐を一緒にしよう。その際に、オズワルド、君が見たアイル評を聞かせてくれないか?」
「陛下、それは宜しいですな。私もアイルがどのように成長したのか。聞いてみたいものです。」
「ああ、そう言えばマーリエとの出会いが凄かったって話だが、詳細が伝わってこなくてな。是非、教えてくれや!」
「しかし、ハーレムか。我が子ながらよくやるねぇ。」
「……一応今のうちに言っておくが、これから嫁がれる三人と幼馴染み二人を除いて、数えるだけでも八人は既にいるからな?」
「「「「そこの所詳しく!?」」」」
これは晩餐会が荒れそうだ。




