Session03-10 待ち人達 〜ルナ〜
◇◇◇◇◇
アイルと、フィーリィ、カイルさんとラースさんが平塚と名乗った人に着いて行って、既に一刻。月が中天に差し掛かろうとしている。あの後、”青鮫党”のみんなを連れてきたピッピとイーネが先行して合流したのだけれども、奴隷の人達の誰も彼もがこれからどうなるのか…途方にくれていたんだ。でも、その後、追いかけてきた”青鮫党”のみんなと合流することで、不安は拭われたんだ。
奴隷となっていた人たちは、二十年前、チョトーに住んでた人達で、それをカイルさんが金に糸目を付けず買っていたとの事だった。”青鮫党”の人達は、二十年前にチョトーから逃げる事ができた人達だから同郷と言える。
”生きていた”……ただそれだけで、抱き合って喜びあえた。ケーマさんも、ソーヤさんも……ただ、ただ、涙しながら喜んでいたんだ。
そんな人達を、バーバラが屋敷へ連れて行くように指示を出すと、みんな眦を決して、絶対に守ってみせます!って声に出してから、出発していった。ラースさんが率いている一党の人達も、彼らを守るのを優先してついて行く事を選んだ。何より、降伏した歩兵達が結構いたからね。それを護送するためにも、人手は必要だったんだ。
それをボクとバーバラ、ピッピとイーネは見送った後、互いにちょっと困ったと言った顔で見合わせた。何故なら、目下の課題は……兵士達の死体をどうするかだったんだ。
「……装備は剥いで”魔法の鞄”へ入れるとして……死体はどうするよ?」
ピッピが集めた死体の山を見てボヤいて見せる。生きていた軍馬は、”青鮫党”のみんなに連れて行って貰った。軍馬は資産だからね。売ればお金になるし、ボク達には”魔法の鞄”があるから、飼葉や水を入れておけば、普段の足としても使える。……そして、何よりもアイルが叙爵した時に、何名かは騎士にするはずだ。その際に下賜するのにも使える。屠殺するのは最終手段だった。
「まぁ、”緑肌”共と同じ様に”魔法の鞄”へ入れておくしかあるまい!ここで、埋めるのに手間をかけて、血の匂いで敵を呼び寄せるよりも、改めてハルベルト近郊にて無縁仏として供養してやるのが、せめてもの情けというものじゃろうよ……。」
そう言って、バーバラは両の手の平を合わせて祈りを捧げる。手を組む、手の平を合わせる、被り物があればそれを胸元に持って、なければ片手を胸元に当てて……色々な祈り方がある。人それぞれで良くって、それに文句をつけることはない。
「そうだね。彼らの行いは褒められた物じゃないけども……死者は平等だよ。戦女神様も、死者を鞭打つのは諌めているしね。」
ボクも胸の前で手を合わせて祈りを捧げる。……悪党であることが問題ではあるけれども……上出来の最後ではないだろうかと思う。”緑肌”共が相手であれば、死体も喰われて奴らの胃の中だろう。
「では、さっさと片付けましょう。アイル達を待つにしても、死体の中というのは流石にどうかと……。」
イーネが穢らわしい物を見るかのに死体を睨みつけてる。彼女にとっては、家族、そして故郷を失った要因の国に所属しているというだけで、思う所があるんだろう。降伏した兵を殺す、死体を穢す。そう言った話を口にしないだけ、イーネは理性的だと思う。
ボクはイーネの頭を撫でてあげた。良い子、良い子。それが切っ掛けになったのか、彼女の頬を涙がつたった。
ぐすりと鼻を吸う音が聞こえる。イーネの母親は、二十年前の出来事の五年後に、イーネを産むのと引き換えに身罷ったと、ケーマさんは言っていた。本来であれば、商家の跡取りの嫁として、家庭を切り盛りして、イーネに愛情を注いで……。そう言った、普通の幸せな家庭はもう戻らない。その恨みはどれ程のものか。イーネにしかわからない。だから、頑張ったね。よくやったね。と頭を撫でてあげる。
「……イーネ、お主は偉い。恨みとは克服するのが難しいものの一つじゃ。今後も、恨みだけで動かぬように。……もう、そなたはアイルの嫁の一人じゃ。そなたの行いは、アイルの評判に直結する。努々、外では漏らさぬようにな。」
「……バーバラ、承知いたしました。ルナ、ありがとうございます。」
「イーネなら、出来るさ。あたしもついてる。何かあったら言っておくれな?」
「……ピッピ、ありがとうございます。」
みんなの言葉に感極まったのか、涙と嗚咽を漏らしながら蹲った。うん……落ち着くまで撫でてあげよう。ボクはそう決めると、バーバラとピッピに目配せをして、頷いてみせた。
それで理解してくれて、二人が死体を順番に”魔法の鞄”へ詰め始めてくれた。
……”魔法の鞄”に仕舞う為には、どうしても人の手を介さないといけないんだ。どんなに大きくとも、一部を仕舞おうと鞄の口に入れようとする。その作業がどうしても必要なんだ。
バーバラが死体を持ち上げて、ピッピが鞄の口を近づける。そして、仕舞い込む。それを死体一つ一つやっていく必要があるんだ。
ボクがイーネの頭を撫でて上げていると、少ししたら彼女も泣き止んだ。そして、袖で涙を拭い、一緒にバーバラ達の手伝いを始めた。イーネは強い。
……本当に“ボクの勇者様”の元には素敵な人が集まる。バーバラ、フィーリィ、ピッピ、マーリエ、イーネ……“英雄色を好む”って言うけども……性の吐け口として使うわけじゃないのに、あれだけ凄いって……絶倫って言葉が本当にあるって知らされたよ。みんなもそう思ってるんじゃないかな。……って、何を考えてるんだボクは!
そんな桃色の想像を打ち払う様に作業を手伝う。……でも、“ボクの勇者様”ってちょっとズルいんだよ?
どんな男よりも強くて、格好良くて、優しくて……ボク達誰もが勝てない“逸物”に、女性として羨ましく思っちゃう胸とお尻を持ってるんだよ?……ボクももうちょっと欲しいんだけどね。
「……ルナ。お主、アイルの事を考えとるじゃろ?」
えっ。なんでわかるの? 心を読まれた!? なんて思ってると、ピッピが自身のお尻を叩いて見せていた。
……あ。装備を変えてから尻尾が丸見えなのを忘れてた。佩楯の隙間から尻尾がブンブンという表現が似合いそうなくらいな勢いで揺れていた事がわかった。
……ボクのチャームポイントの一つだとは思うけど、こういう時に恨めしく感じる時がある。
「……そんなにアイルのは……その、凄いんでしょうか?」
「……あー…あれは経験してみりゃ分かるけど……凄いんじゃないかな?他に経験ないから比較できないけどよ。」
「……我も貴族みたいなもんじゃったから少しは知識はあるが……あれは比べられんぞ?……あれは規格外じゃろ。」
「……だよなぁ。それに、あの肢体だろ?力強いのに柔らかいって……何ていうか、とろけるっていうか……うまく言い表せないんだよなぁ。」
「……存外、お主も夢中じゃな。ピッピ?」
「……あー、もう!早く戻ってこないかな!」
カラリとした笑みを浮かべたバーバラの言葉を誤魔化すようにピッピが叫ぶ。
気持ちはわかる。男言葉を使ってはいるけれども、優しく気遣ってくれる得難い”ボクの勇者様”。本当に出会えて良かった。それは絶対に言える。
「んふふ。戻ってくるまで、色々話してようよ?焚火も用意してさ。」
そう言って”魔法の鞄”から薪を取り出して並べた。そして、キャンプに使っていた道具も取り出し並べた。水牛の肉を鉄串に刺して炙り始める。ジワリジワリと油が垂れ落ちて、火のついた薪に落ちる。その油が焼けて蒸発すると共に、香ばしい香りが漂う。
ピッピが鞄から調味料を取り出して、サッと味付けをしていく。塩に、”青鮫党”から譲ってもらったバターにチーズと魚醤……そして少量の胡椒。
これだけで味わいが大きく変わる。あっさりといくなら塩に胡椒。ちょっと濃厚な味が良ければバターと魚醤。少しの間、炙っていれば肉に焦げ目ができてくる。チーズも火で炙ることで肉を覆うようにとろけていく。
ボク、バーバラ、ピッピは串を片手で掴んで串の先の肉からパクりと食べていく。イーネは串を横にして、両手で持って少しずつ口にしていく。
……美味しい。そう思えるのは本当に素晴らしいと思うんだ。冒険者が活動中の食事は保存食や、合間に狩れた獲物くらいだ。それを、こう、新鮮な肉類や、様々な味に調整する調味料。野菜や果物に、菓子とか!……クッキーとかケーキが崩れない、団子が固くならないでいつでも食べられるって凄いよね。
そんな事を考えながら、四人で取り留めない話をしていく。”鬼の花嫁”に……アイルの嫁となるまでの間、どんな生活をしていたのか。家族はどんなだったか。などなど、一人が答えたら、また一人が答えてという風に、少しずつ話していった。合間に肉や野菜を摘みながら……だけど、酒は出さない。屋外である以上、酒を呑むと判断力が鈍るからね。酒に強いという鉱人族のバーバラもそこはわかってるから、美味い美味いと肉ばっかり食べてるんだ。
そんな風にアイル達が戻ってくるのを待っていると、月が中天まで到達してしまった。もう一刻も過ぎてしまったらしい。流石に朝から活動しっぱなしな上に、少し前に大立ち回りをした事もあって、若干眠気を感じてきた。
眠気覚ましと、気分転換に立ち上がり、腕と背を伸ばそう。ぐーーーっと手を天に向かって伸ばしながら背筋を伸ばす。伸びをする時って、目を瞑る事ってない?ボクは瞑る事が多いんだ。
伸びをした後、瞑った目を開けた時に、角灯の物と思える明かりがゆらりゆらりと漂ってるのが見えた。こんなタイミングで角灯を照らしながら来るのは限られている。別のザスコ子爵軍であれば、もっと多くの数が揺れているはずだ。で、あれば……考えられるのは唯一つ。
「お帰りなさい!”ボクの勇者様”!」




