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Session03-09 密約

大変お待たせしております。

難産だったのと、若干鬱が入りまして様々な事に無気力な状態になっておりました。

現在、Session03は書き上げましたので、順番に上げて参ります。

宜しければ、ご覧の程、宜しくお願いいたします。

「……そなたがアイルか。カカ神様より聞き及んでおる。数奇な運命を持つ者よ。」


 楓と呼ばれた修験者(しゅげんしゃ)は、アイルにそう言うと共に、被った赤い面の留め紐を解いて外す。真っ白な惣髪(そうはつ)は面と共についていたようで、外すと白髪の下から、闇が溶け込んだような漆黒の髪が広がりながら(こぼ)れ落ちる。

すっと整った鼻梁(びりょう)に、厚く潤いを保つ唇に、猛禽(もうきん)の如き目。しかし瞳には人のものとも違う力強い輝きが秘められていた。アイルを見る目は慈愛に満ちており、口の端が上がり、眉が少し下がったことで、微笑んで見せたのだとわかった。

 平塚が、刑部の隣に床几を置き、楓へ座るように進める。楓は少し頭を下げた後、床几に腰掛けた。そして、腰から木の棒の様な物を取り出すと、上下に力強く振る。何をするのかと四人は自身の得物に手を添えて身構えた。ババッと大きな音がしたと思うと、木の棒が二つに割れてぐるりと広がり、紙だろうか、木の棒の間をまたぐるりと広がった。それを使って楓は自分へ扇いでみせた。胸元を少し引っ張り、修験服の中に風を送る。


「……ああ、すまぬな。あの面は髪もついてる分、熱が籠もっての。無作法じゃが見逃して欲しい。……さて、首座神(しゅざしん)様と戦女神(いくさめがみ)様、交易神(こうえきしん)様とカカ神様の関係じゃったな。……ああ、その前に……平塚殿。茶と茶受けを、皆に用意して貰っても良いか?先日、”(せん)”から買った茶があったじゃろう。それと茶うけに羊羹を出してやってくれ。……詳しくは一服してからにしようぞ。」


 平塚は一礼をして、幔幕(まんまく)を出ていった。待っている間、アイルの今までの働きを根掘り葉掘り聞きだすことになった。”鬼の花嫁”のメンバーとの出会い。ギルドでの大立ち回り。初めての依頼。ハーレムのこと。孤児院での大立ち回り。この間引きでの戦い。”青鮫党(あおさめとう)”との出会い……。

 その内容を聞いていたラースは床几を倒す勢いで立ち上がった。カイルも目を見開いて大きく口を開いていた。


「ツーシュウの奴ら、生きていたのか!!……おお、首座神様に戦女神様……感謝を!!」


「そうか、ソーヤも生きてたんだな……。良かった……良かった……!」


 ラースは傷だらけで厳つい顔の満面に笑みを浮かべ、身体を震わせながら、瞳から一筋の光を溢れ落としていた。カイルは自分の両肩を掻き抱き、感極まったと言わんばかりに宙に向かって笑ってみせる。彼らが言うには、同い年の悪友で、奴隷として捕まってなかった事から、生きていれば良いと願いながらも、死んだのだろうと思っていたというのだ。

 感慨深げに二人が過ぎ去りし日々に想いを馳せていると、平塚と共に陽森人族(ライトエルフ)近侍(きんじ)が床几と、盆を持って入ってくる。

 恭しく静々と入ってきた近侍達は、一人一人の前に床几を起き、その上に茶碗と黒い塊の乗った皿が乗った盆を乗せた。楓が茶碗を手にし、ぐいっと呷る様に口にする。うむ!うまい!とニッカリと笑みを浮かべて見せた。その天真爛漫な笑みは誰しもが見惚れてしまうぐらいの可愛さであった。それを見た四人も茶碗を手にする。そして、飲もうとするのだが、その呑み方は四者四様であった。アイルは、片手で茶碗を持ち、背を伸ばしてぐいっと呷るように呑む。フィーリィは、右手で持った後、左手を添えてくいっと口にする。カイルは表情には出さないが、おっかなびっくりと少しずつ呑んでいく。ラークは、見たことがないのか茶の色に一瞬眉を寄せるも、背を伸ばした後にぐっと呷って呑んでみせた。


「カイル殿とラーク殿は、初めてのようじゃな。皿に乗っておるのが羊羹という甘味じゃ。そちらを合間に口にすると、抹茶の苦味と相まって美味じゃぞ?」


 楓の勧めに従って、添えられた竹の小刀を使って少しだけ切り分けて口にする。二人共、驚きの表情を浮かべた。口の中に広まった甘みの強さに驚いたのだ。そして、もう一度、抹茶を口にすると再度驚き眉を上げた。先程とはまた違った味わいを感じたのだろう。ちょっと口にしては呑む。パク、グイ。パク、グイ。二人は取り憑かれたように口にし、最後の一口を呑み切った時には、眉を下げてほぅっと息を吐いていた。

 その姿を見た楓はニコリと微笑んで見せると、背筋を伸ばして皆の顔を見回した。凛としたその姿に、ホッとした空気は振り払われ、皆が居住まいを正す。


「さて、首座神様達との関係じゃな。……この世界には幾千幾万の神々がおられる。そなたらが知る神々も、一柱であるわけではない。そなたらも知っておろう戦女神や交易神は、幾柱もの御方々(おんかたがた)が務めておられる。住む土地で名のついた神が語られる場合は、単独の神が(まつ)られているという感じじゃな。カカ神様を例とするならば……”交易神”に所属する神々の部下というところじゃろうかな。その中で、唯一、単独で祀られておられるのが首座神様じゃ。この方は、神々のまとめ役をしておる。神々の座所の中央が首座神様なのが、その理由じゃな。」


 そこで区切って、楓は刑部とエアリルへ顔を向けて理解しているのかを確認する。それに対しては刑部は頷くこと、エアリルは微笑む事で応えた。四人に対して顔を向ける。アイルとフィーリィは一度しっかりと頷いて見せるが、カイルとラースは狐につままれたかの様に呆けた顔をしていた。


「カカカッ!この話はこの場だけでの秘密じゃぞ?……まぁその事を話しても取り合っては貰えんじゃろうがな。……さて、加護の話じゃな。加護は、神々が様々な切っ掛けで授ける力の事を指す。条件としては、人が強い欲望や想い等を抱いた時が多いと言われるな。……戦女神様方や、交易神様方、カカ神様が加護を授けるのはあり得る話ではあるのじゃ。各神様方である程度の権限を持っておって、選別して加護を授ける。……しかし、首座神様が加護を授けるのは本当に稀なのじゃ。」


 そう言うと、アイルの右の手の甲を見て微笑みを浮かべる。それはどんな意味を持ってるのか。読むことはできなかったが、慈母の愛と言うべきか暖かな視線をアイルへ向けるのだった。


「……アイル、そなたは二つの加護を受けた。戦女神様の加護を受けることは考えられる。……首座神様の加護を受けることは本当に稀じゃが、考えられる。……じゃが、二つの加護を受けるのは聞いたことがない。多分じゃが、初めてではなかろうか。……アイル。そなたの強き想い、そして何かがあるのじゃろう。諦めずに、成し遂げるのじゃぞ!」


「……楓殿、あなたは何者なのですか……?」


 カイルが声を震わせながらそう言った。何故、そこまで知っているのか?そう、その言葉は物語っていた。その言葉に楓は片眉を上げた。そして、何かに気づいたかの様に手を叩く。そして、両の手で自分の髪をバサリと音がするように前に出した。バサリ。髪がたなびく様な音ではなく、鳥が羽ばたくような音が響き渡る。


「……天…使様?」


 ラースが大きく目と口を開いて、何とかそう口にした。カイルもゴクリと唾を飲み込む。アイルは目を見開き、フィーリィは目を見開いた上で、片手で口元を隠した。


「私は烏天狗(からすてんぐ)の一族じゃ。……まぁ”天の使い”という意味では同じじゃな。」


「……楓、そなた、天狗だったのか。」


 刑部が今知ったかのように口にするが、口の端が少し上がっている。エアリルもクスクスと笑みを溢す。


「カカカッ!今更じゃな。……さて、アイル、フィーリィ。ここにおる刑部はな、とある天下人に百万の軍勢を差配させたいと言わしめた男ぞ。そんな男に相談できるまたとない機会じゃ。解放に当たっての相談をしてみてはどうかの?」


「……今となっては”汗顔の至り”と言える評価ではありますがな。……良かったら聞かせては貰えまいか? 平塚、地図の用意を!」


 刑部に呼ばれた平塚が近侍の陽森人族に指示を出し、今座っている位置の間に戸板と床几を使って大きい机を作る。その上に平塚が周辺の地図を広げた。西は”薄森(うすもり)の国”から始まり、南には”翠葉(すいよう)の国”が、東は”紅葉(こうよう)の国”が載っている。それなりに精度も高く見えるため、軍事機密の一つであろうことがわかる。


「まずは、今まで失敗した解放戦の動きを教えてくれるかね?」


「では、私が説明いたします。」


 フィーリィが第一次から始まる解放戦の動きを、バーバラが駒を使って表現したのをなぞってやってみせる。その動きに刑部はしきりに頷いて見せた。一連の動きを確認した後、用意してある駒を一個持ち、小気味良い音を響かせて置いた。


「私なら、ここに築城するな。万全を期すならば、砦の周囲に付城を築きたいが……。野戦築城をされなかった理由はわかるかね?」


「……記録上ではありますが、大規模な築城となりますとチョトー砦に籠もってる”緑肌(グリーンスキン)”達が出撃してきて(こら)え切れずに撤退していたとの事でした。」


 フィーリィの答えを聞いて、刑部は、手挟んでいた扇子を取り出し、開いては閉じる…パチン、パチンと音を鳴らしだした。その目は爛々と輝いており、策を考えることを楽しんでいるようにも見えた。そして、今まで以上に大きい音が鳴った。


「太閤殿下の故事に習うのが良いな。ここに水量も幅も大きい”木曽川(ソーキ大河)”がある。上流から築城資材を流し、築城予定地で回収。そのまま築城するという形だな。」


「ああ、墨俣か。……確かに資材が用意できるなら、その方が確実じゃな。」


「特に一般兵では”緑肌”共の相手が辛いのであれば、遠距離で戦うか、防御力を高めた上で戦うしかない。敵を誘引する手もあるが、練度が高い者達で無ければ逃散してしまう。ならば、即席でも砦を作り、その防御力に依って戦うのが合理的であろうな。それに……。」


 刑部の勿体ぶるような言い方に、皆が身体を乗り出す。その姿を見て、刑部はニヤリと口を歪ませた。


「”緑肌”共は舟を使わぬだろう?こちらの城に敵を引き付ければ引き付ける程、”迷宮”の周りが手薄になる。もしも川を渡ろうとしても、”青鮫党”と私達が止めれるだろう。……長島が難攻不落なのは、あの輪中地帯を一向門徒が神出鬼没に暴れまわった事が大きい。ただ暴れまわる奴らだけでは、本来の強さは引き出せないということだ。」


「確かにそうじゃったな。……ああ、舟を使わない以上、海を封鎖しなくても良いわけじゃな。たしか、当時じゃと水軍も集めて封鎖しとったなぁ。」


 楓が目を細め、どこか遠くを見るようにして言った。刑部がゴホンと咳払いをして続ける。


「重要なのは三つ。一つ、上流で資材を用意すること。二つ、短時間での築城をするため人員をそれなりに動員できること。三つ、籠もる兵力とは別に、外部で動き回る遊撃部隊を用意すること……という所だな。」


「……刑部卿。二つ目まではわかるのですが、三つ目の理由を教えていただけませんでしょうか?」


 刑部の答えにアイルが疑問の声を上げた。敵を引き付けて抑えるのに、何故、外で動き回る兵力がいるのだろうか。その質問に刑部はよくぞ言ってくれた!と言わんばかりに、アイルの頭を撫でた。


「アイル殿の疑問は正しい。……最前線で戦うのはそこそこの訓練しか受けてない兵士たちだ。その兵士達が敵の攻撃を受け続けているだけだと疲れ、いつか士気が崩れてしまうのだ。最前線で受けるのは野戦築城の砦だが、味方の部隊が敵の横合いを突いて崩したりするところを見れば、士気が上がり、もうひと踏ん張りしようとするものぞ。……これは覚えておくと良い。籠城は援軍の当てがあってこそ成り立つ戦術ということをな。」


「そうなると……傭兵などが必要になりそうですね。それも複数の。」


「……一つだけ当てがある。俺の幼馴染達がいる鬼人族の部族群だ。彼らは、勇猛で戦技に長け、騎乗戦闘もお手の物だ。」


 フィーリィの言葉に答えるように、アイルが発言した。アイルの幼馴染が暮らす氏族群は、狩猟と牧畜を中心に生活を営んでおり、更には費用は必要だが、傭兵の様に戦さに馳せ参じたりもしていた。なので、相手にメリットを提示できれば十分に戦力となり得ると言えよう。


「……俺も傭兵団に一つ当てがある。ハルベルトに戻ったら傭兵ギルドを介して連絡するつもりだ。……偏屈な奴らだが、有能だ。」


 ふと、思い出したとでも言うように、ラースがそう口にした。顎を撫でながら、そいつらの事を思い出したのか苦笑いを浮かべている。しかし、ラースが自分から言い出すということは、それだけの実力があると言うことは理解できた。であれば……。


「資材の手配、兵員の手配、傭兵と氏族群との交渉。その後、時期を見て出兵と言ったところか。……楓、何か連絡し合う方法はないか?」


「ふむ……連絡方法……ああ、アイルが加護持ちなら、“天使”を付けるのはありえる……か。……(ひいらぎ)()く参れ!」


 刑部の質問に、楓は顎に手を当てて考える仕草を見せる。その後、納得した様に何度か頷いた後、柊という名前を呼ぶと共に手を数回叩いた。すると、何処からともなく風が吹きすさんで渦を巻く。そして、その渦が消えたところには、楓と同じ様な修験者の格好をし、背には黒き翼を持った少女が膝をついていた。


「楓様。柊、お呼びにより参上いたしました。」


「アイル。この者は柊と言って、私と同族じゃ。天狗同士であれば、神通力にて連絡を取ることができる。……柊、ここにおられるアイル殿は……首座神様と戦女神様の”二つの加護”持ちじゃ。お主は、この御方に仕え、支えよ。必要と判断した場合、暫定的に神通力を使うことを許す。事後、報告をなすこと。良いな?」


 楓の言葉に、柊がハッとなった様に顔を上げる。そして、アイルの顔をキラキラと煌くような目で見つめた。それを受けたアイルは床几に腰掛けたまま、身体を前に倒し礼をする。


「俺がアイルだ。柊、これから宜しく頼む。」


「は、はい!こ、この柊、僕の力の及ぶ限り、力になってみせましゅ!」


 自分が仕える主が、礼をしたことに恐縮したのか、最後の最後に噛んでしまった。そんな柊の姿に皆が笑みを零していると、刑部がアイルに向き直って咳払いをする。


「では、アイル殿。誓約に従い、我らはそなたの力になる。」


「俺はチョトーを解放した後、翠森の国を盗る。」


 刑部が立ち上がるのに合わせて、アイルも立ち上がる。そして、互いに近づくと、刑部が右手を前に出した。それを見たアイルも右手を出し、握手をする。互いを信じ、頼る事。その言葉を表すかのように互いに手をきつく握る。


 この時、盟約と密約……その二つが成ったのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大谷刑部に墨俣築城。 盛り上がって参りましたね。 今後、神々の存在と加護がどういう物語に影響を及ぼすのか楽しみです。 [一言] これから寒くなる時でもありますので、くれぐれもお体に気を付け…
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