Session03−06 戦いへの誘い
六日目……。
イーネは、薙刀と弓を基本に戦うことになった。勿論、接近戦をしないと行けなくなった場合のため、腰には長剣を下げている。アイルは“青鮫党”の予備武器としている中から、両手で使える六尺棒を素材と引き換えに入手(差し上げると言われたが、アイルから強く言い、素材と交換した。)。頑丈な樫を使っており、それに鉄板を鋲で打ち付け、強度と破壊力を増やしている一品だ。怪力自慢が扱う様な得物だが、鬼人族の血が入ったアイルには扱い易い得物であった。
そして、一番変わったのが、アイルとルナの防具であろう。イーネは川賊の党員で、しかも党首の孫ということもあり、和式と呼ばれる当世具足を持っていた。そして、“青鮫党”で有力な党員は、それを着て戦う事があるため、数着の予備が存在していた。それをケーマが提供したいと申し出たのだ。価値としては、全身のセットとなると、銀貨五枚〜十枚が最低ランクとなる。傘下になったと言えど、そうやって忠誠を示す必要はないことと、交換しようにも素材が割に合わないことを伝え、辞退をしようとした。
しかし、そこはケーマの方が上手であり、トロールはそう簡単に狩れる物ではないこと。狩れたとしても、冒険者ギルドへ卸せば、まずは辺境伯が買い取る為、流通し辛いこと。“青鮫党”としては、水上で戦う事がある以上、皮革製の鎧の方が良く、トロールの皮製であれば、強度は折り紙付きであることを説明。トロールの皮を六体分、譲っていただけるなら、時至った時にはより力になれることを力説する。金額としてはトロールの皮を卸した方が高い為、少し買い叩かれることになるが現時点で防御力を強化でき、傘下である“青鮫党”の戦力も強化できる点を鑑みて、アイルは応諾。アイルとルナは着替えて、今まで着ていた装備は“魔法の鞄”へ突っ込んだ。また、すべての部位を付けると動きが悪くなるところもあるのと、ルナは宗教的な理由のため、一部の部位を外して、それも”魔法の鞄”へしまった。
“青鮫党”の協力により、対岸へ渡った“鬼の花嫁”は一路、西へ進んだ。本来であれば南へ進み、“迷宮”までの道を調べるべきであろうが、今回はあくまでも、初の間引きである。警戒を強められたり、“青鮫党”が傘下に入ったとはいえ、彼らを巻き込んで撃退するようでは、今の時点ではマイナス印象にしかならない。その為、元、街道があったであろうところを進み、森から出てきた一群を探し、狩ることにした。
ピッピと、周辺の地理に明るいイーネの二人で一群を探す。中規模以上のものはなかったが、小規模のものが三つ。二つはトロール付きが見つかった。
今までの通りだと、アイルとフィーリィの魔法からの襲撃を行っていたが、イーネが増えたのと、武器を変えた事もあり、正面からの強襲を初めに行ってみた。バーバラはいつもの鎧姿。メイスに盾を構え、駆ける準備済みだ。ルナは和式当世具足を着用しているが、できる限り、肌を晒す為に鎧下などは着込んでおらず、瑞々しい太ももや、左右で結ぶ形で穿く下着や、尻。そして、彼女の特徴でもある尻尾が主張するようにその存在を誇示していた。ビキニアーマーよりは、露出が少なくなり、防御力は上がることになったが……露出が少なくなったことで、より扇情的になっていた。そして、”ボクの勇者様”より預かった長剣を抜き放ち、肩に刃を載せ、いつでも駆けられる準備をしていた。
アイルは、自身の身体能力、そして秘密にすべきことから、きちんとズボンなど、鎧の下に着るべき衣類を着た上で鎧を身にまとっていた。角があるため、兜を被ることはできない。そのため面頬を付ける。補強された六尺棒を小脇に抱え込み、いつでも駆け出すことができるように準備している。イーネはアイルと同じ様に鎧を身に着け、薙刀を手にして構える。ピッピはスリングスタッフを手にして、石を番える。フィーリィも弓に矢を番え、いつでも射れるように準備をする。
直線距離で25m。その距離まで近づいたのを確認し、ピッピとフィーリィが矢弾を放つ。ピッピとフィーリィの狙いはうろちょろしているゴブリンの数を少しでも減らすこと。近づく四人に当てないように、散開して周囲を警戒しているゴブリンを狙い、一発当てたら別のを狙う様に、ダメージを与えていく。乱戦となれば、背の高いトロール以外は誤射の危険性が出てくる。それまでに、できる限り矢弾でダメージを出しておきたい。互いに近づいていることもあり、二度放つのが限度だった。矢の命中したゴブリンは生死は不明だが、その場に崩折れて動かなくなる。石弾の命中したゴブリンは、一匹は当たりどころが良かったのか倒れ、もう一匹はふらつきながらも前へ進んできた。
「さぁて、さぁて!ピッピとフィーリィの洗礼を抜けてきた者達ぞ!”我が主殿”よ!我の活躍をご覧じろ!」
「”ボクの勇者様”!戦女神様!ご照覧あれ、ボクの勇姿を!」
「”あなた様”!ワタクシも参ります。イーネの働き、御覧くださいませ!」
三人が各々の気持ちを口にして、前に出た。その言葉を受け取めたアイルは、三人を援護出来るように、一歩後から追いかける。
「俺が、皆の活躍を見届ける。首座神よ!戦女神よ!この戦いを捧げます!ご照覧あれ!!」
その言葉と共に、雄叫びを上げる。アイルの雄叫びに感化されて、オーク達も雄叫びを上げる。得物を盾に叩き付けながら迫ってくる。まずバーバラが先にオークと殴り合い始めた。盾を前に出しながら進み、メイスで殴りつけていく。もう一匹のオークにはルナが前に出て相手取る。両手で握った魔法の長剣の剣先を相手に向けながら間合いを測る。主力を二人が抑えた。その二人を、残ったゴブリンが囲もうと回り込もうとする。そこは、イーネとアイルが後ろに回さないと一撃を繰り出していく。イーネは薙刀で、突きや薙ぎ払いを繰り出して屠っていく。ブオンブオンと風を斬る音を生じさせながら、ゴブリンを寄せ付けずに切り払っていく。アイルに至っては、至極簡単だ。鉄板と鋲で強化された棒の先を叩き込んでいく。刃の向きや方向などは関係ない。ただ、当てれば良い。ゴブリンの頭に当たれば頭を割り、胴に当たれば背骨を折る。当たるを幸いに次々と屠っていく。
ゴブリンが掃討されれば、アイルとイーネが二人を援護し始める。そこからは簡単だ。どちらかの攻撃を防げば、もう一人の攻撃をまともに受ける。そんなに時間がかからず、殲滅が完了した。
倒したゴブリン、オークをそのまま”魔法の鞄”へ入れる。ゴブリンは証明部位と素材である睾丸以外は必要ないが、解体後の死体の処理をその場でするのはやめることにしたのだ。血の匂いなどで、近くに一群がいた場合、呼び寄せてしまう事があったからだ。フィーリィとピッピが接近に気づいたから良かったが、もしも気づかなかったら、誰かが死んでいたやもしれない。そのため、上限が不明な分、入らなくなるまでは突っ込んでいくことにしたのだ。この容量についてはイーネも驚いた。そして、その価値を正しく認識できたため、改めて、秘密にすることを誓った。
◆◆◆
「”青鮫党”と出会えたのは本当に良かったのぉ。……なにより、生鮮食料を譲って貰えたのがでかいな!」
バーバラが焚火にかかった鍋から自分の器にスープをよそる。芋、青菜、茸、渡り鳥を具材として、塩をベースに味付けされている。特に芋、青菜、渡り鳥と言った傷みやすい品を保持し続けられるのが大きかった。ピッピも色々な素材が扱える以上、腕の振るいがいがあるのか、張り切って作った結果がこのスープであった。
「どうしても野菜はネックだからねぇ……。今後の食料の仕入れ内容も考えるよ。で、どうかな? 戦闘もしてるから塩を多めにしてあるんだけど。」
火の加減を見つつ、鍋の中身をかき回すピッピ。手慣れたもので、煮詰まりすぎないように焚火との距離を調節したりしている。
「……ピッピ、いつもありがとう。」
アイルがピッピの頭を撫でながら、感謝の言葉を伝える。スープに堅パンを浸し、ふやかしながら口にする。その姿をピッピは頬を赤らめながら、目を細めて見ていた。
「そういえば、アイル。鎧と棒での戦いはどう?特に問題はなさそうかな?」
ルナがふやかした堅パンをもしゃもしゃと口にしながら話を振る。彼女も装備を変えての初日であった。
「特に問題はないな。……改めて思ったのは、一歩下がって戦うことの重要さだな。……俺も視野を広くして戦おうとしてはいたが……雲泥の差だ。今後も、そうしていくよ。……ルナの方はどうだ?」
「ボクも好調だよ。小手と袖があるから、もうちょっと鉄芯とかを入れて受け流し易い形に改良したいかなぁ。ハルベルトに戻ったら、フォルミタージ工房に相談してもいいかな?」
「ああ。そこらへんは俺とイーネもしといた方が良いかも知れないな。……イーネ。一党での初戦闘だったわけだが、どうだ?」
「ワタクシは、皆さんが十分お強いことがわかりました。そして、加護の力についても。それが一番の収穫だと思っておりますわ。……ピッピさ……ピッピ、おいしゅうございました。」
「イーネには改めて、野伏と斥候の技術を教えた方が良いと思います。明日以降、私とピッピで少しずつ教えていきますね。」
フィーリィがイーネに向かって笑顔を見せた。戦闘に関しては問題ないという評価だろう。そして、土地勘という代え難い知識を持っている。それを活かすのであれば、斥候や野伏の技術が適当であろう。イーネはフィーリィとピッピに向かって頭を下げて見せた。イーネ自身も、より自分が力になれる方法がそれだと言うことは理解できた。そして、その専門知識を教えてくれると言うのだ。その姿を見て、ピッピは親指を立てて答えた。
「……しっ!!……皆、準備をして。火も消して!」
親指を立てたと思ったら、手で皆に待機のジェスチャを見せる。
バーバラが鍋をひっくり返し、スープを焚火にかけて消化する。スープの芳しい香りが周囲に漂った。各々が近くに置いておいた得物を手にする。ピッピが目を凝らして様子を見ている方角は西……隣国である、翠葉の国の方であった。
「角灯を掲げた……馬車が四台程……護衛が十人程だね……。うん……? もっと奥に松明らしき灯りが見えるね……数は、いっぱいだ!」
「……単純に考えるのであれば、盗賊に追われてる商人と言ったところでしょうか。……ただ、あれだけの人数を狙うとなると規模が大きい盗賊団となりますが……イーネ。ここいら辺にそう言った盗賊団などの話は聞いてますか?」
「……ここいら辺には存在しないはずです。……ただ、考えられるのが一点あります。」
イーネの言葉を聞いて、皆が顔を向ける。その視線を受け、一呼吸、息を吸って答えた。
「翠葉の国の軍でしょう。……正直に言いまして、悪い噂しか聞きません。」
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加藤備前守




