Session03-05 手合わせ
西洋剣で、剣術の構えが使えないってことは無いと思ってるのです……。
「あれじゃな……”我が主殿”と一緒におると、飽きんな。」
母屋を出たところに、練兵場ともなる広場があり、そこの外周に当事者の二人以外は取り巻くように座っていた。”青鮫党”の党員達も、イーネに対して応援の声を投げながら、この催し物を楽しもうと酒などを引っ張り出してくる。勿論、当事者の仲間であるバーバラ達にも酒は振る舞われた。また、焼いた肉なども提供をされる。一つのお祭り状態であった。
「……そうですね。……上昇志向の強い男であれば、ハーレムの人員として女性を献上されれば、一も二もなく受け入れると思いますが……意志を確認して、できる限りのことをしようとするのは、アイルの欠点であり……美点ですね。」
バーバラが提供されたエール酒を呑みながら皆に聞こえるように口にする。それに、フィーリィもエール酒を口にしながら答えた。その眼差しはアイルに向かっており、優しげな光を湛えていた。
「おっと、そろそろ始まるようだぜ? 爺さんの言う通りなら、オールラウンダーで、魔法も使えて、しかも会計もできるって凄いな!」
「そうだね。ボク達は前衛と後衛しかいないから、中衛を務める事ができる人は得難いよ。……強いて言うなら、アイルも棍とかをメインにして中衛兼指揮にして、前衛二〜三、中衛二、後衛一〜二で行きたい所だね……。さぁ、お手並み拝見ってところだね!」
ピッピとルナが喋っていると、広場の中央に立った二人が得物を構える。持つのは試合用の木剣だ。中に鉛が仕込まれており、重量は実際の長剣と同じものになっている。イーネは木剣を”正眼の構え”と言われる型で構える。これは、腹の前で柄を両の手で握り、剣先が相手の喉元に向く様にする構えだ。そのまま前進して突くこともできれば、相手が突っ込んで来ても喉へ突きを入れることができる。また、中央に構えた剣で、相手の攻撃を”受け流す”事もし易い。万能な構えの一つである。
対するアイルは、木剣をイーネが構える型よりも下に剣先を下げる。その構えを見たイーネの目つきが厳しくなった。アイルの動きを探ろうとしているのか、少しずつ円を描く様に立ち位置を変えて行く。アイルも、イーネの動きに応える様に円を描くように立ち位置を変える。その動きとイーネの剣幕から、囃し立てていた”青鮫党”の党員も、”鬼の花嫁”の仲間も、途中から声を出すことも、酒を呑むことも忘れて見守っていた。静寂が場を包み、二人が立ち位置を変える時になる足音だけが響き渡る。その静寂を破ったのはイーネだった。
「はあああぁぁ!!」
気合を入れると共に、一歩前に踏み出す。その踏み出しに合わせて上から打ち込んでくる。鍛錬をしっかりと積んでいるのだろう。踏み込みと合わせた打ち込みは鋭かった。アイルはその打ち込みを、跳ね上げて打ち払う。そして、そのまま上から打ち込む。イーネは跳ね上げられた剣を手元へ戻し、打ち払った。それに合わせて二人は互いに離れ、構え直した。
イーネがふっと笑った様な気がした。そして、気合の声を上げて激しく打ち込む。右、左、右下、左下、連続でアイルへ打ち込んでいく。それをアイルは受け流しながら、反撃として打ち込み返していく。カンカンカンと木剣が打ち合う音が響き渡る。先程よりも、鋭さが増したように見える。そして、何よりも……イーネに変化が起きていた。
「……お、おい。イーネの首筋、首筋!!」
ピッピが素っ頓狂な声を上げた。それに釣られて、三人もイーネの首筋へ視線を向ける。
「……おお!?」
「……あら。」
「……さすが”ボクの勇者様”!」
イーネの首筋に主座神の印が浮かんでいたのだ。それの力であろうか。イーネの打ち込む速度が初めに見た速度よりもどんどん増していく。そして、それを難無く受け流していくアイル。一合、二合、三合……打ち合わせていく毎に、相手の事がわかってくる。
「……アイル!”あなた様”の本気はその様なものじゃないでしょう!私に見せて下さい!!」
イーネが間合いを取り直した際に、そう叫ぶ。その叫びを聞いたアイルは、上段に構えを変えた。しかも、見たことのない構えだ。右手を天にしっかりと伸ばし、柄の下部を左手でしっかりと支える。そして、少しだけ腰を落とす。その姿を見たイーネは、警戒を強め、”正眼の構え”を維持して油断なくアイルの全身の動きを窺う。アイルはピクリとも動かず、イーネもそれに合わせて動きを止める。また、静寂が場を支配した。
「キエエエエエエエエエエエエイ!!!」
アイルが甲高い声で、怪鳥音という様な叫びを上げて振り下ろす。その気合と勢いは今までの打ち合いの比ではなく、正に例えるのであれば、迅雷の如き速さであった。イーネは、何とか打ち込む瞬間を捉えることはできた。しかし、そこまでであった。素早く振り下ろされた木剣が、イーネの額に直撃する軌跡を描く。だが、打ち当たる寸前に、アイルが打ち込みの軌跡を変え、地面に打ち付けた。アイルの実力を肌から感じ取ったイーネは、その場で腰を抜かした様にへたり込む。そして……。
「……あ。」
『眠り、招来、雲!!』
イーネが気の抜けた声を上げると共に、アイルが”誘眠雲”を戦術詠唱で唱える。範囲はこの広場の”青鮫党”党員全員。かかった”青鮫党”の党員達が、ぐーすかと眠りこける。イーネも、アイルが”誘眠雲”を行使したことは理解できた。でも、何故かは理解ができてなかった。
アイルは、へたり込んでいるイーネの膝裏に手を差し入れ、横抱きに抱き上げる。アイルが突然抱き上げた事に、顔を赤らめるイーネ。
「な、なぜこの様なことを?」
「……水を浴びた方がよろしいと思います。」
アイルの一言で、イーネは自身の状態に気づいた。アイルの気合と剣の鋭さに耐え切れず、へたり込んだ時に失禁していた事に。
イーネはそのまま顔を赤らめたまま黙ってしまった。アイルはその沈黙を是と捉え、川へ向かって歩く。魔法の範囲外となっていた、四人もそれに続いて歩く。そして、そのままアイルは川へ飛び込んだ。アイルも全身びしょ濡れになり、イーネもびしょ濡れになった。それを見た四人も続いて飛び込む。全員がびしょ濡れだ。
「……”あなた様”、一体何を?!」
「イーネ殿……いや、イーネ。俺は、あなた一人を愛する事は約束できない。だが、俺は皆と平等に愛することを誓う。あなたを娶りたい。……受け入れていただけるか?」
その言葉に、イーネの胸が熱いもので満たされていく。イーネも女性で、良い年齢であることから、街などで買い付けを行う際に、口説かれることも勿論あった。しかし、そう言った機会があったとして、彼女の心の琴線に触れることはなかった。どんなに美形であろうが、どんなに逞しかろうが、言い寄ってくる輩の言葉が、彼女の琴線を震わせることはなかったのだ。しかし……アイルの言葉への答えは決まっていた。
「……“あなた様”。私、イーネ・ソーヤ・ツーシュウは、“あなた様”のものになります。“あなた様”の剣、盾、筆となりてお役に立って見せます。……皆様もどうかお引き回しのほど、宜しくお願いいたします。」
「……うむ。イーネ、こちらこそ宜しく頼む。……さて、イーネにも加護が宿ったことじゃ。ケーマ殿、ソーヤ殿にも説明せねばな!」
バーバラが代表して受け入れる旨を伝えた。それに併せて、三人も言葉は違えど、歓迎の旨を口にした。更に指摘された加護について説明をすると、イーネが今まで以上に、キラキラと尊敬の眼差しをアイルに送るのであった。
◆◆◆
イーネとの試合が終わり、六人ともずぶ濡れになったこともあり、本日は“青鮫党”の母屋へ逗留することとなった。
今まで、ケーマが座っていた上座へアイルが勧められ、そこに座した。アイルから見て右手側に“鬼の花嫁”の仲間五人。左手側に“青鮫党”の幹部衆五人。下座に“青鮫党”の党員二十名。もう十五名いるが、見張り役を欠かすわけにはいかないため、参加できてない党員がいた。
今、この場でアイルの“徒党”と言える者達が全員揃っている中、イーナにも現れた首座神の加護について、説明をする。初め、ケーマとソーヤも含めて半信半疑ではあったが、バーバラを始めとするメンバー全員が、首につけたチョーカーを外し、イーネの首筋に現れた首座神の印と寸分違わず、同じ位置に現れていることを確認し、皆がアイルへ向かって平伏した。
「改めて、アイル様。ワシら“青鮫党”四十名。徒党“悪鬼羅刹”に所属し、忠誠を誓わせていただきます。」
「我ら、時至らば、アイル様の旗の元、戦うことを御約束いたします。イーネにつきましては、“鬼の花嫁”の一員としてお連れくだされ。」
ケーマとソーヤの言葉が終わった後、アイルは平伏した“青鮫党”の皆に頭を上げるように言った。そして、頭を上げたのを確認した後、改めて自身が皆に対して頭を下げた。
「……皆の忠誠、感謝しております。……義祖父上、義父上、そして、皆……。俺は皆の為にチョトーを解放するなど、綺麗事は言わない。……俺の欲望の為に、チョトーを解放して見せる。そして、叙爵と封土を得た後、“青鮫党”を蔑ろにしないことを、“アイル・コンラート・フォン・ベルンシュタイン”の名と、首座神、戦女神の名において、今ここで誓約する。」
そう言い切った後、アイルは身体を戻し、ケーマを始めとする“青鮫党”一人一人の瞳を見つめる。そして、皆を見回したのを確認したケーマが代表して、「ハハッ!」と口にして、平伏する。それに続くように、ソーヤ以下、“青鮫党”全員が平伏した。
その後、宴会となり、怒涛の様な一日が終わるのであった。
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加藤備前守




