Session02-10 エピローグ チョトーの解放に向けて
「……なんというか、詰め込み過ぎた一日じゃったのぉ。」
そう、バーバラが呟くと共に、茶の入ったカップを口につける。
アイル達が本拠地としている屋敷の食堂に、上座にアイル、左右にバーバラ、フィーリィ、ピッピ、ルナが続いて座る。そして、マーリエが座り、マーリエが雇用するようになった、ダール、ルー、ターニャ、ケイが座り、一緒に朝食を食べているところであった。
昨日、ゴルドが手配してくれた、メイドに料理人がその腕前を見せるように料理を作り、給仕している。ダールはこういった作法に縁がなかったこともあり、汁物を飲む時に音を立てれば、三人娘にダメ出しを。ナイフで肉を切る時に音を鳴らせばダメ出しを……と、実践の場になっていた。それをマーリエは微笑ましく見守っている。
「……その、ごめんな? あたしの素性について黙ってて……。」
ピッピがしゅんとした顔でそう呟いた。本当に辛かったのであろう。いつもの雰囲気は鳴りを潜め、ただただ、罪悪感に駆られているようであった。そんなピッピにアイルが笑顔で言葉を紡ぐ。
「そんな事はないぞ、ピッピ。あなたが”暗部”に所属していて言えなかったのは、あなたの立場上仕方ない。……あなたが”暗部”に所属していたからこそ、俺達は出会え、そして、マーリエ、ダール、ルー、ターニャ、ケイとも出会えた。それは”今の”あなただったからだ。」
「アイルの言う通りだとボクも思うよ、ピッピ。君がブルズアイさんを連れてきてくれたから、協力できた。それはピッピじゃなかったら出来ないことだよ!」
「ええ、その通りですね。”暗部”の長と繋がりがあるなど、どれほどの縁かと思いますよ。」
「うむうむ!……そう言った点では、ブルズアイ殿にも感謝じゃな。なにせ、こんな腕利きの斥候をメンバーとしてくれたのじゃからな!」
皆が皆、ピッピの素性について肯定する。裏切っていたわけではない。それでも隠し通し続ける必要がある。それを辛く思わないのが”真に”有能な暗部の構成員であろう。だが、一党の仲間と考えるのであれば……ピッピのその気持ちは代え難いものであった。それ故に、悩み、苦しんだことを受け入れるのだ。
「……ありがとうな!みんな!」
ピッピは涙を拭うように目をこすり、そして、いつも浮かべるような快活な笑顔を見せた。それを見た皆は頷いてみせた。
「よし!では、今後の話をしようぞ。まずは会議室へ皆で移動じゃ!」
バーバラは皆にそう言うと、席を立ち、食堂を出ていった。皆も、合間に朝食を食べ終わっており、席を立って続いていく。出ていく姿をメイド達が誇れるほど美しい礼をして見送った。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
徒党『悪鬼羅刹』の本部となっている屋敷は、二階建ての建物で、一階に食堂、調理場、風呂場、応接間、客間、使用人室、倉庫などがあり、二階にいくつかの一党が分散して生活ができるように部屋が用意されている。執務室や、娯楽室。書物庫や、研究室なども存在していた。その中に、徒党の皆が集まって打ち合わせができるように会議室がある。ここは五十人は入れるくらいの広さがあり、真ん中には大きい円卓が用意されていた。そこにバーバラが台に乗っかって、地図を広げた。
「まずは、これを見て欲しい。チョトー地方の地図じゃ。」
そこには、チョトー砦、チョトー村の周辺が描かれていた。その地図には、いくつのも線が色を変えて書き加えられており、更には何かを示す数字も記載されていた。皆がそれを見ている中、ダールがボソリと呟いた。
「こりゃ……行軍の記録ですかい? この数字はその時の兵の数ですかね……?」
「おお!一発で読み解くとは素晴らしい。マーリエ殿、ダールは掘り出し物やも知れませんな!……コホン!……この地図に描かれた線は、辺境伯軍の解放戦の際の行軍経路じゃ。数字はその時の動員兵力じゃ。計五度の解放戦を仕掛けておる。赤、青、緑、紫、黒と順番になっておるから確認して欲しい。」
第一次解放戦……兵力五百、冒険者一党五組
第二次解放戦……兵力千、冒険者一党五組
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第五次解放戦……兵力四千、冒険者一党五組
その数字を確認した上で、描かれている線を眺めると、どれもが予測されている”迷宮”まで辿り着けず、チョトー砦に籠もる兵力と交戦することになり、撤退を余儀なくされているのが見て取れた。冒険者は”迷宮”の攻略を主目的とした攻略部隊であろうが、それを”迷宮”へ送り届けられていないのが解放失敗の遠因となっているのであろう。
「……チョトー砦は輪中の中にある難攻不落の砦じゃ。我も話を聞く限りでは、隣国との合戦時に”迷宮”から”緑肌”共が横腹を突くということでもしなければ、落とすのは難しいじゃろう。周囲は拓けており、目が良い者が見れば、近づく姿を容易に捉えよう。」
バーバラが、当時、チョトー砦が陥落した動きを、用意してあった駒を使って表現する。そして、その後の解放戦の動きも表現してみせる。
「……ゴブリンだけならまだしも、オークやトロールまで出てくれば、徴募した兵士ではまともに相手できないでしょう。そう考えると、チョトー砦の位置が、”迷宮”へ冒険者を護送する道を扼する位置にあるのが悩ましいですね。」
「……それならば、護送はしないでチョトー砦に籠もっている兵力を誘い出すのはどうだろうか。護送してて捕捉されるのであれば、逆にこちらが引きつけて逃さない様にするのはどうだろう?」
「アイル、その作戦にはいくつか問題があるよ。一番大きいのは正面からぶつかった際の辺境伯軍の損害が多くなることだよ。もしも撃退されて撤退となったら、突入を図るボク達が孤立、袋叩きになっちゃうね。」
「んー……あたしはこういったことは詳しくないけどさ。例えば、チョトー砦みたいなのを作って辺境伯様に籠もって貰うってのはどうよ?」
ピッピがこんなんどうよ?っと案を捻り出した。確かに、籠城することができる拠点が近くにあって、そこに大軍がいれば、それだけで敵の目を逸らせるし、攻めてきたとしても拠点の防御力を活かして戦うことができる。損耗もすくなくなるだろう。だが……。
「ピッピさんの案は良いと思います。……しかし問題があります。チョトー砦周辺は見晴らしが良いため、築城の資材を持っていけば、すぐに分かってしまうであろうというところです。築城と防衛に兵力を分けることになると、今までの様に堪え切れずに撤退することになると思います。」
マーリエがピッピの案を肯定しながらも、問題点を口にする。兵を多く徴募すれば、防衛と築城を並行してやれるだろう。しかし、もしもの事があった場合、徴募した、本来は農民や市民にどれだけの被害が出るかが予測できない。そのため、二の足を踏んでいるのだ。
「……よし、色々と意見がでたの。……まだ、これで決まりではない。あくまでも今回は、現在の状況把握じゃ。まずは、我らはチョトー地方の”緑肌”共の間引きをしようと思うておる。間引きをしつつ、周辺や、チョトー砦などの様子を見て、攻略の手段を考えていくのじゃ。まずは我らのランクを”石”の上である”鉄”へ上げることを段階としよう。」
「チョトー周辺まで行くのに片道二日。十日、間引きを行うとして、合計二週間じゃな。無理はしないように注意しながら敵を狩り、野宿などの野外活動の経験を積む感じじゃ。」
そう言うと、バーバラは皆を見回した。皆が頷くことで応える。それを見てニカリと彼女は微笑んで見せた。
一党”鬼の花嫁”は、目標への道程の第一歩を踏み出したのであった。
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加藤備前守




