Session02-09 フォルミタージ工房での会合
「……で、じゃ。どういった事になっておるんじゃ? 是非説明して欲しいんじゃが!?」
バーバラの説明を求める声が、フォルミタージ工房ハルベルト支店の支店長室に響き渡った。
”小鬼の賽子亭”を出た後、アイル、ルナ、マーリエの三人がフォルミタージ工房まで来ると、副支店長を始めとした店員一同が迎え入れてくれた。店の中に入るとピッピが待っており、合流する。合流した四人を副支店長は、支店長室へと案内し、支店長であるゴルドを紹介した。バーバラとフィーリィが日が落ちる前まで居たこともあり、他に人が増えるまでは、バーバラの昔話などを中心に雑談をして待っていたのだった。
そこに、全速力で駆けてきたバーバラとフィーリィが、片方は息を切らせながら、もう片方は涼し気な表情のまま、支店長室まで駆けつけたのであった。そして、先程の発言に至る。
「……まず、彼女を紹介させてくれ。……マーリエ・オズワルド・フォン・レンネンカンプだ。新しい俺の嫁だ。」
「マーリエ・オズワルド・フォン・レンネンカンプと申します。バーバラ様、フィーリィ様。今後とも宜しくお願いいたします。」
アイルの紹介を受けて、マーリエがバーバラとフィーリィに対して、丁寧にお辞儀をする。それを見たバーバラは毒気を抜かれてしまい、勢いが削がれた。挨拶をされたのだから、自分も返さねばならないと、改めて自分の名を名乗り、お辞儀をする。フィーリィもそれに習い、自身の名を改めて名乗った上で、お辞儀をした。
そのやり取りを見たアイルは、改めて、今回の一連の流れを説明していく。孤児院へ寄付に行った所、院長をしていたマーリエに出会ったこと。アイルが一因で今も婚約などをしていなかったこと。アイルから娶る誓約をしたこと。その誓約に対して、首座神と戦女神から加護を授かったこと。マーリエを狙う狂言誘拐に巻き込まれたこと。そして、その首謀者を捕まえたこと。それを聞き終わったバーバラは、溜息を吐くことしかできなかった。
「……いやぁ何というか、バーバラ……君の主殿は規格外だねぇ。」
「……言うな、ゴルド兄。我も流石に頭を抱えておる! 一日じゃぞ!一日!正式に一党を、徒党を結成したと思ったら、翌日にはハーレムの人員が増えるとは流石に予想せんわ!」
「しかし、私の言った通りになりましたね。」
ふふふと微笑みを浮かべながら、フィーリィはそう言った。バーバラは「うん?」と思い出そうとしているが、ゴルドは「ああ、確かにね。」と頷いて見せた。そのやり取りを見ていたルナは、フィーリィに質問を投げかける。
「言った通りとは、どういう事なんですか?」
「”彼女に縁があり、彼女が原因となる場合、ハーレムへ引き入れようとする”とアイルを評したんですよ。」
「……アイル君の評価をするのに、どうしても別の人の意見が聞きたくてね。フィーリィさんに評価して貰ったんだ。……副党主をするなら、そう言ったことを覚えておくことは大事だぞ。バーバラ?」
「……ううう、弁解の余地もない。」
そんなこんなと話していると、副支店長が辺境伯が到着し、支店長室の前まで案内していることを報告してきた。それを聞き、この場にいた全員が席を立つ。それを見た副支店長が仰々しく扉を開け、男性を二人、招き入れた。片方はブルズアイであり、お供役として一歩下がって続いていた。もう一人が辺境伯であろう。白い筋が混ざった栗色の髪、碧色の瞳、整えた口髭。背筋はしっかりとしており、貴族的な豪奢な服を着るのではなく、武人としての立場を重視しているのか、狩衣を着込んでいた。
「……オズワルド・クリスチアン・フォン・レンネンカンプだ。愛娘の窮地を助けてくれたこと、感謝している。」
オズワルドは名乗ると、軽く頭を下げた。地位的な問題で、内々と言えども深く頭を下げることができないのだ。名乗りと礼に対して、皆も返礼をする。改めて、オズワルドが頭を上げるように伝えることで皆が頭を上げた。
「……アイル……か!」
アイルの名を感慨深げに口にする。懐かしい人を見るような、悲しく思っているような、色々な感情が混ざった言葉であった。そのまま、続く言葉がなかなか出ないのか、沈黙が続く。それを破ったのは、この部屋の主であるゴルドだった。
「……色々と話もあるでしょう。とっておきのお茶を出させますので、まずはどうぞ、席へお座りください。辺境伯様はこちらの席をお使い下さい。」
ゴルドは、自分が座っていた席を立ち、オズワルドを上座に当たる席へ案内する。その案内に従い、何も言わずに席へ座るオズワルド。護衛役も兼ねているブルズアイは、その辺境伯の斜め後ろに立ったまま控える。それを見たゴルドは、副支店長にとっておきの茶葉を使うように指示し、席に座り直した。
「……六年振りだな。アイル。」
オズワルドは、アイルを見ながらそう言った。最後に会ったのは、マーリエの九歳の誕生日が最後だった。誕生日のプレゼントを渡した後、「マーリエを嫁とするならば、強くなくては認めんぞ!」と怒った振りをしながら、稽古をしてくれたのを思い出す。……ああ、そんな思い出も忘れていたのかと、アイルは衝撃を受けていた。
「……ご無沙汰……しておりました!」
その言葉を言うと共に、涙をボロボロと零し始めるアイル。それを見たオズワルドは、この部屋中に響く声で叱咤する。
「党主なら、涙を見せるな!どんな時でも平静を保たねば皆が動揺するぞ!……しかし、今日だけは泣く事を許す。……良くぞ、良くぞ、元気でいてくれた!」
オズワルドには今の今まで、アイルの事が噂でも伝わって来なかったのだ。アイルの父であるコンラートからは、苦虫を噛み潰し切ったような表情で、すまん、すまんと言われた。だが、理由はわからなかった。……それが今、分かった。
「あの時は、まだ私の胸の辺りの背丈だったのが、今は私と同じくらいか……。大きくなったなぁ。」
そう、自分の子どもの成長を喜ぶように、感慨深げな声を上げる。そのオズワルドの姿に、ブルズアイがわざとらしく咳払いをしてみせた。それで、今の自分の行動を思い出し、改めて咳払いをする。
「……すまぬな。……では、改めて経緯を聞かせて貰いたい。」
「承知しました。まずは……。」
オズワルドに促され、アイルが順番に答えていく。
一週間程前に、ここにいる仲間と一党を組んだこと。初の依頼を完遂したこと。徒党を組んだこと。寄付のため孤児院へ赴き、マーリエと再会したこと。狂言誘拐に出くわしたこと。首謀者を捕まえたこと。そして、自分が”両性具有”であること。二つの加護を得たこと。ハーレムを作り、マーリエを迎え入れる誓約をしたこと……。順番に一つずつ、しっかりと伝えた。
「……マーリエをハーレムに欲しいと言うのか?」
腕を組み、目を閉じてアイルの言葉を聞いていたオズワルド。そのオズワルドが目を閉じたまま、質問をする。
「はい。マーリエを娶るために、俺は冒険者として名声を得て見せます。マーリエ一人を愛することは約束できません。ですが、俺はこの場にいるハーレムのメンバーと一緒に、平等に愛して見せます。後悔はさせません!」
「……マーリエは、それで良いんだな?」
「……お父様。私はそれでも、アイルの傍に居たいです!」
「……ふぅむ。」
オズワルドは考え事をしているのか、そう一言口にした。娘の気持ちは重々承知している。だが、今のアイルのままでは降嫁するとしても、釣り合わない。そのため、考えているのだ。
「レンネンカンプ辺境伯殿。ご提案があるのじゃが、発言しても良いかの?」
「……バーバラ殿だったな。マーリエがアイルのハーレムに入るのであれば、広義にはそなたらも血縁と言えよう。この場ではオズワルドで良いぞ。」
「ありがたい。では、改めてオズワルド殿。あくまでも我らの計画ではあるが聞いて貰いたい。……実は。」
バーバラは、自分たちの計画をオズワルドへ順番に説明していった。自分たちのランクを上げること。徒党に人材を集めること。そして、チョトー地方の解放をおこなうこと。その説明を受けたオズワルドは、最後の話のタイミングで片眉をピクリと動かした。
「……チョトー砦近郊にある”迷宮”の解放を我らが中心となって行い、砦と村に籠もる”緑肌”共は辺境伯軍で抑える。”迷宮”を攻略さえできれば、少しずつ籠もった”緑肌”共を倒して行けば解放は可能じゃと思う。いかがじゃろうか?」
「……確かに、今まで何度か解放をしようとしたが、”迷宮”を攻略できないことで失敗しているのは確かだ。……それを、君たちが成して見せると言うのかね?」
「成します。」
アイルが断言をした。その言葉の力強さに、オズワルドは両目を見開いた。オズワルドが目を見開いたのを見たアイルは、その両の瞳を見て、力強く言い放った。
「俺の目的の為には、成す必要があります。そのために、俺と一党と徒党は、準備をし、時節が至れば必ずや攻略してみせます。」
その力強い言葉に、バーバラはニカリと笑みを浮かべ、フィーリィはニコリと微笑み、ピッピはヘヘッと鼻の頭をこする。ルナはうんうんと頷き、マーリエはそれができると信じているのか用意された茶を味わいながら口にするのだった。
「オズワルド殿。”迷宮”を攻略し、チョトー地方の解放に一役買ったとなれば、叙爵もあり得る程の功績ではなかろうか。”両性具有”という欠点があるとはいえ、マーリエを降嫁させるだけの価値を示すことにはならんじゃろうか。それに……”首座神”の加護を受けた冒険者というのは相当受けが良いとも思うがの?」
「……わかった。そこまで考えて、本気で攻略すると決めているのであれば、私から言うことはない。……マーリエを救った功をもって、マーリエとの婚約を許可しよう。」
「お父様!」
「……あくまでも、婚約だ。正式にアイルの元へ嫁ぐのは、チョトー地方を解放した時だ。それまでは、節度を持った付き合いをするようにな。……くれぐれも子を生むということにならぬように。」
「お父様!?」
婚約の許可に対して、マーリエは驚きと歓喜の声をあげた。しかし、続いた言葉に恥ずかしくなったのか顔を頬を赤く染めながら、問い詰めるような声を上げる。オズワルドはその声を、真面目な表情で受け止めて答えた。
「……アイル。お前なら分かってくれると思うが……孤児院の院長をさせているが、マーリエはレンネンカンプ家の長女である立場は変わらない。結婚なり降嫁なり、他家へ移った後に子を成すのは問題はない。寧ろ、成すべきだ。だが、移る前に子を成してしまうのは、マーリエの立場的に致命傷になり得る。更に、生まれた子も私生児という扱いになる。……それは避けたいから、功を立てようとしているのだろう?」
オズワルドの言葉に、アイルは確りと頷いた。アイル自身も、マーリエに幸せになって貰いたいという気持ちがある。だから、オズワルドの言っている意味は痛い程によく分かった。
「……うむ。そこまで確認ができれば私から言うことはない。……ゴルド殿、夜分に申し訳ないが、彼女達の首についた印を隠せるチョーカーを見繕って欲しい。代金は辺境伯家で持とう。……ああ、アイルの手の甲を隠す為に手袋も頼む。」
「ご利用、ありがとうございます。では、担当者にいくつか持って来させますので、皆様に見て決めていただきましょう。」
そう言って、ゴルドは担当者に指示を出すため、支店長室を出ていった。それを見送った皆は、用意されたお茶を口にし、一息入れる。そして、オズワルドは一言、アイルに対する気持ちを吐露した。
「……アイル。お前を”義息子”と呼べるようになるのを楽しみにしている。……だが、その身体では流石に、”義息子”と一緒に風呂に入るというのはできそうにないな。」
「……俺も、”義父上”と共に風呂に入って話したりなどしたかったですが……仕方ありません。」
「……ままならぬな……。……まぁ、”義息子”と呼べるようになっただけでも望外のことか。」
しみじみと語り合う二人。六年の断裂があったが、その隙間はほぼなくなったと言えよう。この時、アイル達が将来、”銅”から”銀”へと上がるための条件の一つである”有力者の後ろ盾”……それが得られた瞬間であった。
※作者からのお願い※
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加藤備前守




