Session01-1 物語の始まり
新作になります。
書き方などは試行錯誤中です。
12/11 加筆修正。後書きに修正前の内容を移動。
『父上!!……ハルとナツとの結婚の候補から外すとはどうしてですか?!』
その日は大雨だった。
夏の嵐とは良く言う話で……雷や風が暴れる程ではなかったが、それを偲ばせる程の雨であった。
大きな屋敷の執務室。調度品は傍から見るだけで、高名な職人が手がけた事がわかる品ばかり。
その窓の近くには、一際立派な執務机と椅子があり、そこに男が一人座っていた。
金糸の海の如き髪の中に、銀糸の川が一条、二条と流れ、彼がそれなりの歳であることを感じさせる。
手元には羊皮紙とペンがあり、執務中であると思われた。
その最中、執務室の扉をぶち破るかの勢いで、少女が入ってくる。
金糸の海の如き髪を肩で切りそろえ、額には一本の角。
胸はささやかではあるが自己主張をしており、身体の肉の付き方からしても、女性としての丸みが見て取れた。
誰から見ても、美少女と言えるような美貌であった。
絨毯の敷き詰められた床を歩き、執務机に近づくと両の手を叩きつけて、椅子に座る父と呼んだ男に彼女は訴えかける。
その言葉に、男は冷徹な瞳を向けて応えた。
『……その肢体で、男と言えるはずがないだろう。』
『ですが!』
『……お前の肢体は外から見たら女だ。因果を含めて分家や家臣にお前を降嫁する分にはどうとでもなる。
だが、男として……貴族としての責務を果たすことには問題がある。特に、ハルとナツの話は彼女らの部族の為に貴族として活動できねばならない。それは女の仕事ではない。男の仕事だ。
残念だが……男としてのお前はもういないのだ。』
男の言葉に、少女は叩きつけた手を握り締める。
その拳にペンでも握っていれば、バキッと音を立たせてへし折ってしまいそうなぐらいの強さだった。そして、絞り出すように問いを口にする。
『……ハルとナツの事は、どうなりますか?』
『本来なら、お前の側室として二人を娶らせれば、お前の母の血の事もあり一番良かったのだがな。
お前の兄のどちらかに娶らせようと考えている。』
『……俺では、どうしても、ダメ……ですか?』
その質問に、男は溜息を吐いた後、少女の目を見て言い聞かせるように続けた。
『……貴族の家長として動ける立場でなければ無理だ。
今のお前では、それができない。だから、無理だ。』
『俺が一家を興せば良いという事ですか?』
『……そうだな。お前が叙爵されて一家を興せば……その肢体で貴族として存在することが認められたというわけだ。お前自身の力で興した家であれば、価値がある。
それであれば、私は仲介しても良いと思っている。
お前が何かしらの功績を上げ、王もしくは、別の貴族家より……そうだな、男爵以上に叙爵されたなら紹介しよう。
……それが出来ないなら、無理だ。諦めなさい。』
男の言葉に、少女は再度手を机に叩きつけた。
音が部屋中に響き、机に載っていた花瓶などが揺れる。
そのまま、少女は一度大きく息を吐くと身体を起こし、数歩下がった。
そして、膝を折り絨毯の上に座ると、身体を倒し、土下座と言われる姿勢を取った。
『父上……!!伏して……伏してお願い申し上げる!!』
『……言って見よ。』
少女が腹の底から声を絞り出すように、父親である男にお願いと口にした。それを聞いた男は驚いた様に片方の眉を上げながら、続きを言うように促す。
『どうすれば、男爵に成れるか教えていただけまいか!』
『……大きな手柄を上げねば、まず無理だな。
従軍し、敵将を討ち取ったり、敵方の城を攻め落としたり……。
冒険者として”迷宮”の攻略や、ドラゴンを退治するとかだな。』
父親の言葉に、少女は顔を上げた。
その瞳には決意を示すかの様に燃えるような輝きが見て取れる。
自身の望みを果たすため、手に入れたいと手を伸ばす者の瞳だった。
『……父上、俺は、今まで男として育てられてきました。
それが、今の肢体になったから女として勉強をしろと言われても納得ができません!!
元から女だったなら、別の貴族家に嫁ぐなり、彼女らと結ばれないことは納得出来ます。
だが、俺は体つきが変わった以外、変わっていません!なのに、娶るという事が出来ないのは納得できないのです!!』
『……続けよ……。』
『今までは男として、武芸や礼儀作法を学んで参りました。それを続けさせてください。
……それに、父上の仰った様に女としての勉強も致します。どちらも疎かにしないことを誓います。
その上で、お願いがございます!冒険者になるためにも、秘術魔法や武術の師となってくれる人を呼んで学ばせて欲しいのです!
十五になり、冒険者になるまで、学ぶ時間をいただけませんでしょうか!』
この申し出が、彼女の物語の始まりである。
◇◇◇
日が中天を過ぎ、半ば果てに沈もうとしている最中、五つの人影が街道を歩んでいた。
全員が若く、一仕事を終えた後なのか、疲れを感じさせる所はあるが、何よりも溌剌とした活力が見て取れた。
各々が得物たる武器を持ち、身を守る防具を身につけている。
また、大きい背負い袋や鞄をそれぞれが身につけており、中には様々な荷物が入っている様だが、行商と言うにはいささか物騒な上に物足りない荷物の量だった。
身につけている鎧や得物には、土埃や土汚れ、そして黒くなった滲みなども見て取れた。得物や防具の前面側に黒い滲みが目立つ事から、インク汚れなどではなく、返り血が乾きこびりついたのではないかと、少しは物騒事に慣れた者なら容易に想像がつく。
物騒事が得意と言われると思いつくものに破落戸や盗賊があがるが、まず皆が一様に首を振るだろう。そして、こう言うだろう。
「こんなこれ見よがしに歩く盗賊なんざ考えられない!」
盗賊と言うとどんな奴らかにも寄るが、何かしら脛に傷を持つことがほとんどだ。住んでいた所で罪を犯して逃げる。税を払えず逃げる。好き勝手に生きようと盗賊に身をやつす。そう言ったやからに見られる負の要素がなかった。
では、衛兵と言った様な兵士かと言われたら、これもまた皆が一様に首を振ってこう言うだろう。
「こんな統一されてない装備を貴族様が許すもんか!」
衛兵や兵士は、王侯貴族やそれに準ずる者に雇われ、用意された武具一式を装備しており、見ればどこの所属かがある程度わかるようになっている。騎士団などになると、個々を特定しやすいように着飾った上で、揃いのサーコートなどを用意し統一性をもたせたりしている。
そう言ったものとは違って、各々が最適であろう装備を用意し、装備しているようだった。
それなら傭兵かと言われたら、これもまた皆が一様に首を振ってこう言うだろう。
「こんな女だけの傭兵団なんざ聞いた事がない!」
傭兵であれば装備に統一性がないのは納得ができる。何故なら、統一することで何かが有利になるのであれば、そうするであろうが、一番重要なのは元手になる自身の命である。
そうなると、生き残るために自身の実力を100%引き出せる様に各々の装備を用意するのだ。
ただ、女性のみの傭兵団というものはまず存在しない。基本は男のみである。下世話な話ではあるが、性の問題により安全ではないということも大きい。
では、傭兵でもないとなると、最後に辿り着く答えは一つ。
「冒険者の『一党』だ!」と。
冒険者。
この世界の中でも、特殊と言える職業である。
様々な出身、様々な階層の人が、様々な理由で、様々な依頼をこなす。
時には、『迷宮』と呼ばれる所に潜り、宝を見つけ一攫千金を成す者もいる。
自身の出自や立場を問われず、ほぼ万人に機会がある職業。
それが冒険者である。
そんな冒険者に、種族ごとに一人前と言われる年齢からなることができる。
その一党は、全員が一人前と呼ばれる年齢になったばかりの者で、そして、珍しいことに女性のみの一党であるようであった。
「あの雨の日から……五年も経ったんだな。」
腰まで届く、金を溶かし梳いた様な美しい髪を三つ編みにし、南の輝く海のような青い瞳を持った、鬼人族の女性がただ一言口にした。肌は白く艷やかでハリを持っており、素晴らしい素材と言えるだろう。人とすれ違えば十人中六人は振り返る程である。ただ、その女性の額には『一本の角』があった。鬼人族と他の種族……多分普人族との混血なのであろう。混血と断定する理由は、彼女の角が一本であることが証明している。
鬼人族は『二本の角』を持って生まれる。鬼人族同士で子を成す場合、必ず二本の角を持って生まれる。例外はない。
鬼人族は他の種族と子を成すこともでき、その際は必ず一本の角を持って生まれるのだ。
そんな彼女が、今置かれている状況……そして、自身の過去を振り返り、ふと言葉を口にしていた。そして彼女の周囲に居る女性達に意識を向けた。
鉱人族の戦士と小人族の斥候が前を歩き、彼女の左右を暗森人族の精霊術師と銀狼族の戦女神の神官戦士が歩いている。
なぜこうなったのか。
勿論、切っ掛けはわかっている。
彼女自身が不用意に他人の事に手を出したからだ。
「どうしたの、アイル?」
アイルの右手側に居た銀狼族の神官戦士は、己の種族の特徴として語られる白銀の如き髪と同じ色の毛に覆われた狼の耳を周囲へピコピコと向けながら、アイルへ向かって問いを口にした。
その瞳は恵みを蓄えた沃土のような鳶色……視線は慈愛に満ちており、アイルと呼んだ女性の悩みなど見透かされているようであった。彼女の見上げてくる視線をしっかりと受け止めながら、アイルは答えた。
「……俺なんかで良いのかと、改めて思ったんだ。俺の目的の為とは言えどもな……ルナ殿……いや、ルナ。」
その言葉にルナと呼ばれた神官はクスクスと笑みを溢す。その笑みはアイルを嘲るものではなく、微笑ましい物を見たと言う様な雰囲気が含まれていた。
その答えについては、その反対側からもたらされた。
「アイル。私たちは、あなたの本来の目的と、あなたの秘密……その二つを知った上で、それを是としたのです。私たちは、あなたならと選んだのですよ?
それに、あなた自身の実力も知りました。文句なしです。」
高級品であるココアをミルクで溶かした様な色合いの肌を持つ、暗森人族の精霊術師はそう言い切った。細められた目からは紅玉の如き朱い瞳が理知的な光をたたえていた。そして、ふふふと優しい笑みを湛えながら、アイルへ向かって顔を向けた。
彼女の顔に相対するように、アイルも顔を向ける。アイルの方が背が高いこともあり、見下ろすような形になった。
そして、アイルは彼女の名前を口にした。
「フィーリィ……。」
「私達は冒険者。そして、私たちは一党……そして、あなたの嫁です。ただ、それだけでいいのです。」
アイルがフィーリィに答えようとするが、フィーリィの指が伸ばされ、アイルの口を塞ぐように抑えた。
「それにルナも望んでいますよ。勿論、バーバラとピッピもです。ねぇ?バーバラ、ピッピ!」
そう口にし、前を歩く二人にフィーリィは声を投げかけた。
「うむ、我もそう思うておるぞ!アイル、そなたの振る舞いは誠に美事であった。どこぞの絵物語に語られる騎士の様であった。そして、今回の依頼もだ!共に戦う者を選べと言うのであればそなたが良いと思わせるものであったぞ!
それに、そなたが皆を平等に扱おうとしておる気持ち……それは得難いものじゃ。我はそなたを……まだ短い期間とは言え、知ったからにはそなた以外を伴侶に等とは考えられぬな!
であるな、ピッピ?」
バーバラと呼ばれた鉱人族の戦士は、にっかりと言う表現が合いそうな笑みを浮かべ、振り返りながら答えた。そして、その笑みを浮かべたまま、隣を歩む小人族の斥候に語りかける。
「にひひひ。いやぁあれは見物だったねぇ!ルナに持っていた剣を放り渡して『少しの間、預かっていて欲しい。』と言ったと思ったら、絡んでいた相手に喧嘩を売って!そいつら一党を綺麗にのしちまうんだからなぁ!それに今回の依頼。知恵もあれば戦う術もある。そして、その……こ、こんなあたしでも受け入れてくれるって言ってくれた……あ、あんた以外を探すのは避けたい!」
ピッピと呼ばれた小人族の斥候は、この面子で一党を組む事になった切掛のやり取りを思い出して笑い声を上げた。それは好ましい笑い声で、良くやった!という言葉が聞こえてくる様な笑い声だった。
そして続けて、彼女にとってとても大切な事を思い出したのか、頬を赤らめて、もじもじと照れて見せた。
「私……いえ、ボクは。」
ピッピの言葉を引き取る様に、ルナが言葉を紡いだ。
「あの時、アイルが手を出してくれた事が、戦女神様の思し召しと思ったんだ。」
そう口にすると共に、もう一度、アイルの瞳を見上げる。その澄んだ瞳には一片の嘘も見受けられない。
「戦女神の神官は、勇者の傍にて助力をする事が使命なんだ。そして、ボクはあなたがそうだと思った。ボクはあなたと一緒にいたいんだ。それにボクも……娶って貰えるならアイルが良いな。」
その言葉を聞いたアイルは、他の3人の顔を見る。フィーリィは目を瞑りながら「うんうん」と頷き、バーバラは「うむ!」と大きく頷いている。ピッピに至っては「いやぁ、モテる男…いや、女は辛いねぇ」と冷やかす様な事を口にしている。三者三様だが、誰もがアイルの事を好ましく思っている事に変わりはなかった。
彼女達は、気持ちを改めて伝えた。
後は、アイルがどう答えるか次第。
しかしながら、ここまでの好意を向けられていて、それを断る程の理由もない。
「…すまない。そしてありがとう。」
アイルはまず謝りの言葉を口にし、それから感謝の言葉を紡いだ。そして、フィーリィ、バーバラ、ピッピ…そして、ルナの名を呼び、顔を向けて口にする。
「改めて、よろしくお願いします。」
その言葉と共に、一礼をした。その礼を見た4人は、
「ええ、こちらこそ。」
「うむ、よろしく頼む!」
「あいよ!」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」
フィーリィ、バーバラ、ピッピにルナ。それぞれ違うが同じ答えを返した。
「では、まずは初依頼の完了を祝って皆で飲むぞ!」
バーバラがそう口にすると、フィーリィも口を綻ばす様に笑った。
「そうですね。私達一党の初仕事、思い出になるように楽しみましょう。」
「ならお勧めの酒場があるから、そこにしようぜ!旨くて、量が多い店なんだ!」
二人の発言にピッピも乗っかる。あんな料理とかこんな料理、そして酒の名前とつらつらと口にしていく。
「アイルも行こう。何より急がないと門が閉まっちゃうよ!」
ルナが白銀の毛に覆われた尻尾をぶんぶんと振りながら先を歩く。腹も空いて、ピッピの言葉に食欲を刺激されているのであろう。一党の仲間達の姿を見て、アイルは微笑を浮かべた。そして、四人に聞こえる様に声を上げた。
「ああ。帰ろうか!」
吹っ切れたようにルナ、そしてみんなに伝えるように声を上げて追いかけ始めた。
さて、この五人の初の冒険譚。
どう言ったものだったのか、それはここから語るとしよう。
ぜひともではございますが、
続き読みたいなー、もうちょっとうまくなれよ、おまえこんなの掲載して正気か!?(etc
上記の様に多々ご意見があると思います。
感想として文章にしていただければ、励みになりますが、そこまでは申しません。
率直な評価として、下部にあります☆評価をいただければ、幸いです。
何卒、よろしくお願いいたします!
注:下記に変更前の内容を記載しております。飛ばしていただいて結構です。
宜しかったら変わった点を読み比べて見てください。
日が中天を過ぎ、半ば果てに沈もうとしている最中、五つの人影が街道を歩んでいた。
全員が若く、そして疲れていることが表情から見て取れる。
各々が得物たる武器を持ち、身を守る防具を身につけている。
また、大きい背負い袋や鞄をそれぞれが身につけており、中には様々な荷物が入っているが、行商と言うにはいささか物騒な上に物足りない荷物の量だった。
身につけている鎧や得物には、土埃や土汚れ、そして黒くなった滲みなども見て取れた。得物や防具の前面側に黒い滲みが目立つ事から、インク汚れなどではなく、返り血が乾きこびりついたのではないかと、少しは物騒事に慣れた者なら容易に想像がつく。
物騒事が得意と言われると思いつくものにゴロツキや盗賊があるが、まず皆が一様に首を振るだろう。そして、こう言うだろう。
「こんなこれ見よがしに歩く盗賊なんざ考えられない!」
盗賊と言うとどんな奴らかにも寄るが、何かしら脛に傷を持つことがほとんどだ。住んでいた所で罪を犯して逃げる。税を払えず逃げる。好き勝手に生きようと盗賊に身をやつす者。そう言ったやからに見られる負の要素がなかった。
では、衛兵と言った様な兵士かと言われたら、これもまた皆が一様に首を振ってこう言うだろう。
「こんな統一されてない装備を貴族様が許すもんか!」
衛兵や兵士は、王侯貴族やそれに準ずる者に雇われ、用意された武具一式を装備しており、見ればどこの所属かがある程度わかるようになっている。騎士団などになると、揃いのサーコートなどを用意し、個々を特定しやすいように着飾った上で統一性をもたせたりしている。
そう言ったものとは違って、各々が最適であろう装備を用意し、装備しているようだった。
それなら傭兵かと言われたら、これもまた皆が一様に首を振ってこう言うだろう。
「こんな女だけの傭兵団なんざ聞いた事がない!」
傭兵であれば装備に統一性がないのは納得ができる。何故なら、統一することで何かが有利になるのであれば、そうするであろうが、一番重要なのは元手になる自身の命である。
そうなると、生き残るために自身の実力を100%引き出せる様に各々の装備を用意するのだ。
ただ、女性のみの傭兵団というものはまずない。基本は男のみである。下世話な話ではあるが、性の問題により安全ではないということも大きい。
では、傭兵でもないとなると、最後に辿り着く答えは一つ。
「冒険者の『一党』だ!」と。
冒険者。
この世界の中でも、特殊と言える職業である。
様々な出身、様々な階層の人が、様々な理由で、様々な依頼をこなす。
時には、『迷宮』と呼ばれる所に潜り、宝を見つけ一攫千金を成す者もいる。
自身の背景を乗り越える事ができ、ほぼ万人に機会がある職業。
それが冒険者である。
そんな冒険者に、種族ごとに一人前と言われる年齢からなることができる。
その一党は、全員が一人前と呼ばれる年齢になったばかりの者で、そして、珍しいことに女性のみの一党であるようであった。
「俺は…このままで良いのだろうか。」
腰まで届く、金を溶かし梳いた様な美しい髪を三つ編みにした、鬼人族の女性がただ一言口にした。肌は白く艷やかでハリを持っており、素晴らしい素材と言えるだろう。人とすれ違えば十人中六人は振り返る程である。ただ、その女性の額には『一本の角』があった。鬼人族と他の種族・・・多分普人族との混血なのであろう。混血と断定する理由は、彼女の角が一本であることが証明している。
鬼人族は『二本の角』を持って生まれる。鬼人族同士で子を成す場合、必ず二本の角を持って生まれる。例外はない。
鬼人族は他の種族と子を成すこともでき、その際は必ず一本の角を持って生まれるのだ。
そんな彼女が、今置かれている状況を振り返り、ふと言葉を口にしていた。そして彼女の周囲に居る女性達に意識を向けた。
鉱人族の戦士と小人族の斥候が前を歩き、彼女の左右を暗森人族の精霊術師と銀狼族の戦女神の神官戦士が歩いている。
なぜこうなったのか。
勿論、切っ掛けはわかっている。
彼女自身が不用意に他人の事に手を出したからだ。
「どうしたの、アイル?」
アイルの右手側に居た銀狼族の神官戦士は、己の種族の特徴として語られる白銀の如き髪と同じ色の毛に覆われた狼の耳を周囲へピコピコと向けながら、アイルへ向かって問いを口にした。
その視線は慈愛に満ちており、アイルと呼んだ女性の悩みなど見透かされているようであった。彼女の見上げてくる視線をしっかりと受け止めながら、アイルは答えた。
「…この一党に居ても良いものか。改めて自問していたんだ。ルナ。」
その言葉にルナと呼ばれた神官はクスクスと笑みを溢す。その笑みはアイルを嘲るものではなく、微笑ましい物を見たと言う様な雰囲気が含まれていた。
その答えについては、その反対側からもたらされた。
「アイル。あの時のあなたの立ち回りは素晴らしかったですよ。そして、その後のあなたの発言も好ましかった。誰かと組まねばならないなら、あなたでありたいと私たちが思うほどにはね。そして、今回の依頼。あなたはしっかりと自身の価値を示しました。」
高級品であるココアをミルクで溶かした様な色合いの肌を持つ、暗森人族の精霊術師はそう言い切った。ふふふと笑みをこぼしながら、アイルへ向かって顔を向けた。
アイルも顔を向ける。アイルの方が背が高いこともあり、見下ろすような形になる。
そして、アイルは彼女の名前を呼ぶ。
「フィーリィ・・・。」
「私達は冒険者。そして、私たちは一党です。ただ、それだけでいいのです。」
アイルがフィーリィに答えようとするが、フィーリィの指が伸ばされ、アイルの口を塞ぐように抑えた。
「それにルナも望んでいますよ。勿論、バーバラとピッピもです。ねぇ?バーバラ、ピッピ!」
そう口にし、前を歩く二人にフィーリィは声を投げかけた。
「うむ、我もそう願うぞ!アイル、そなたの振る舞いは誠に美事であった。どこぞの絵物語に語られる騎士の様であった。そして、今回の依頼もだ!共に戦う者を選べと言うのであればそなたが良いと思わせるものであったぞ!であるな、ピッピ?」
バーバラと呼ばれた鉱人族の戦士は、にっかりと言う表現が合いそうな笑みを浮かべ、振り返りながら答えた。そして、その笑みを浮かべたまま、隣を歩む小人族の斥候に語りかける。
「にひひひ。いやぁあれは見物だったねぇ!ルナに持っていた剣を放り渡して『少しの間、預かっていて欲しい。』と言ったと思ったら、絡んでいた相手に喧嘩を売って!そいつら一党を綺麗にのしちまうんだからなぁ!それに今回の依頼。知恵もあれば戦う術もある。勿論、あたしもアイル以外を探すのは避けたいねぇ。な、アイル!」
ピッピと呼ばれた小人族の斥候は、この面子で一党を組む事になった切掛のやり取りを思い出して笑い声を上げた。それは好ましい笑い声で、良くやった!という言葉が聞こえてくる様な笑い声だった。
「私・・・いえ、ボクは。」
ピッピの言葉を引き取る様に、ルナが言葉を紡いだ。
「あの時、アイルが手を出してくれた事が、戦女神様の思し召しと思ったんだ。」
そう口にすると共に、もう一度、アイルの瞳を見上げる。その澄んだ瞳には一片の嘘も見受けられない。
「戦女神の神官は、勇者の傍にて助力をする事が使命なんだ。そして、ボクはあなたがそうだと思った。ボクはあなたと一緒にいたいんだ。」
その言葉を聞いたアイルは、他の3人の顔を見る。フィーリィは目を瞑りながら「うんうん」と頷き、バーバラは「うむ!」と大きく頷いている。ピッピに至っては「いやぁ、モテる男…いや、女は辛いねぇ」と冷やかす様な事を口にしている。三者三様だが、誰もがアイルの事を好ましく思っている事に変わりはなかった。
彼女達は、気持ちを改めて伝えた。
後は、アイルがどう答えるか次第。
しかしながら、ここまでの好意を向けられていて、それを断る程の理由もない。
「…すまない。そしてありがとう。」
アイルはまず謝りの言葉を口にし、それから感謝の言葉を紡いだ。そして、フィーリィ、バーバラ、ピッピ…そして、ルナの名を呼び、顔を向けて口にする。
「改めて、よろしくお願いします。」
その言葉と共に、一礼をした。その礼を見た4人は、
「ええ、こちらこそ。」
「うむ、よろしく頼む!」
「あいよ!」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」
フィーリィ、バーバラ、ピッピにルナ。それぞれ違うが同じ答えを返した。
「では、まずは初依頼の完了を祝って皆で飲むぞ!」
バーバラがそう口にすると、フィーリィも口を綻ばす様に笑った。
「そうですね。私達一党の初仕事、思い出になるように楽しみましょう。」
「ならお勧めの酒場があるから、そこにしようぜ!旨くて、量が多い店なんだ!」
二人の発言にピッピも乗っかる。あんな料理とかこんな料理、そして酒の名前とつらつらと口にしていく。
「アイルも行こう。何より急がないと門が閉まっちゃうよ!」
ルナが白銀の毛に覆われた尻尾をぶんぶんと振りながら先を歩く。腹も空いて、ピッピの言葉に食欲を刺激されているのであろう。一党の仲間達の姿を見て、アイルは微笑を浮かべた。そして、四人に聞こえる様に声を上げた。
「ああ。帰ろうか!」
吹っ切れたようにルナ、そしてみんなに伝えるように声を上げて追いかけ始めた。
さて、この五人の初の冒険譚。
どう言ったものだったのか、それはここから語るとしよう。