第七十八話 顕現
空が一瞬で暗くなる。
巨大な船影が太陽を覆い隠した。
全長2キロメートル。人間たちが宇宙を開拓するための母艦。
その周囲には4つの影、母艦を守る護衛艦だ。
情報通りだが、その見た目は情報とはかけ離れている。
「悪魔に受肉させていますね……汚らわしい……」
母艦も護衛艦もおどろどろしい外観に変貌していて、脈打って、生きている。
「うわ……あれ、全部悪魔か？」
敵艦の周囲に黒いオーラみたいなものが漂っている。
よく見れば、それが無数の悪魔が群れをなしていることがわかる。
「とんでもない数だな……ま、的が多くて気が楽になったな。
さて、祭りの開始だ！ 総員、攻撃開始！！」
有れた荒野に所狭しと配置された部隊が一斉に発砲する。
メイン武器は簡単に言えばレーザー兵器、実際には熱エネルギーと魔法エネルギーを持つので、霊体にも悪魔にも有効な作りになっている。
ミサイルも空を埋めんばかりに放たれているが、敵の周囲で内部に収納された魔法弾を巻き散らかすクラスタータイプになっている。
「何か吐き出したぞ！！」
母艦が地上にボトボトと真っ黒な玉を落とす。
地上に堕ちるとその玉はのそりと動き、4つ足の魔物へと変化する。
「キメラにベヒモス、なんかぐちゃぐちゃだな」
「重装部隊で足止め、軽装部隊、急襲部隊で潰していけ」
重装部隊はパワードスーツ部隊。巨大魔物も単体で相手ができるほどのロマンの詰まった装備だ。
「私も出ます！ ビルドアップ！！」
ヘプトンが、多数に別れていた分体を一つにまとめ、巨大ロボへと変化する。
単体でベヒモスとがっぷり四つに組み合い、持ち上げ、叩きつける。
やばい、涎が出そうだ。
「地上部隊も大丈夫そうだ……護衛艦からの攻撃が邪魔だな、落とすぞアルテリオ！！」
「おう！！」
「ロカもやるのだ！」「もちろん私も」「親父、合わせるぞ！」「いつでもいけます！」
「久しぶりだ、遠慮はいらねぇ、全力でぶっ放せ！！
皆伝 重ね 爆雷砲雷来蕾々！！」
六芒星が描かれ、巨大な光線が護衛艦を貫く、さらに、上空で光球へと変化し、無数の光線へと別れて敵に降り注ぐ。
「欠片も残すな！ 再生するぞ！」
さらに苛烈な攻撃が護衛艦に集中し、破片一つ残らず焼き消される。
「師範以上は機乗して船体本体を潰していくぞ！！」
人が機乗可能な巨大ロボは数が限られる。
機乗者の動きに合わせて動くため、やはり実戦の実力順に与えられている。
「ゲイツ機、出るぞ！！」
機体に乗り込み起動すると、周囲の状況がモニターに表示される。
身体を動かせば、同じように機体が動く、専用武器の両手剣を握り、空を仰ぎ見る。
でかい空を飛んでいるやつにロックオンする。
「飛行ユニット起動、ゲイツ、いっきまーーーーす！！」
巨大ロボが空に浮かび上がる。
「喰らえ－－－！！ 半月斬！！」
超大型飛行モンスターを両手剣で真っ二つにする。
快感である。
流石に肉体では一刀で両断するのは難しいが、こいつとなら可能だ。
「雑魚は邪魔だ－！ 乱れ雪月花！」
無尽の斬撃が花となって散り咲いて小型の魔物を消し飛ばしていく。
その先には護衛艦がこちらに砲台を向けている。
敵艦の砲台が一斉に火を吹く、無数の銃弾が迫ってくる。
「ふはははは、そんな物、効かんわ！」
シールドを展開して、突撃する。
魔力を発するワイヤーが超高速で回転して展開するシールドは、物理攻撃の殆どを無効化する。
なお、対応していない攻撃を加えると、武器が消滅する。
俺たちが使う武器のように超高速で魔力を回して切れ味を高めているような武器でないと打ち合うことさえ出来ない。
そんなシールドを構えて突っ込めば、正面に立つ魔物たちは蒸発するように消えていく。
「ゲイツ、そいつを落とすぞ！」
「おお、パリザン合わせるぞ！」
「無塵爆散操糸！」
パリザン専用機が操るワイヤーが艦艇に絡みつく。
「斬！」
次の瞬間、巨大な船が細切れに刻まれる。
「塵となって消えな、獄炎斬！」
炎をまとった俺の一撃が、細かく別れた船を燃やし尽くす。
「ロカ達もアルテリオ達も墜としたみたいじゃぞ」
「あとは母艦だけだ！」
「全員、下がってください！！」
ラーファンの通信と同時に機体が強制的に引っ張られ、強制的に地面に戻された。
「何が起きた！？」
次の瞬間、母艦が凄まじい光を発した。
どうやらこちらの部隊は全てラーファンの力で集結していた。
光は周囲の悪魔や魔物を飲み込んで、段々と小さくなっていく。
宇宙船のような形態が、人……いや、巨大な魔人の姿に代わっていく。
大きさはまるで違うが、見知った姿になる。
「……魔導王ゴーデグリス」
「また貴様らか……忌々しい……」
「貴様も往生際が悪すぎる！ 再び我らが滅ぼしてやる！」
「勇者アルテリオ……フフ……フハハハ……ハーーーッハッハハッハ！！
貴様らのおかげで私は未知の力を手に入れた！
悪魔の軍勢も従えることが出来、そして、この体を手に入れた。
魔導王なぞ、今の我には小さすぎる。
我は魔神へと成った。神の前に跪くが良い！！」
「ぐっ……これは……」
魔神ゴーデグリスが放つ魔力で、機体が軋む。
即座に魔導防壁を展開してこちらの部隊を守る。
それでも凄まじいプレッシャーが俺たちの機体を容赦なく押しつぶしてくる。
「ふははは！！ 矮小なる人間よ！ 滅びるが良い！！」
振り上げた手のひらに巨大な火球が産まれる。
「疑似太陽とも言える熱量です。
アレは流石に防げません」
「くっ……まだか……」
巨大な火球から広がる熱が周囲の植物を燃え上がらせる。
「星ごと燃え尽きるが良い！
我はこの宇宙を次元を支配し、お主らのいた次元もろとも、我が異のままに作り変えて弄んでやるわ！！」
「ちいせぇなぁ……神なら神らしく慈悲深くしてろよ」
「あの時貴様に邪魔されていなければ、時空の彼方に勇者を屠れた物を……
貴様は特に念入りに永遠の苦しみを与えてやろう、神からの慈悲だ」
「へっ……ありがたくて涙が出る……」
「勇者の仲間以外はいらぬ、塵となって消えるが良い」
魔神の火球が激しく燃え上がる。
「準備が完了しました」
戦いを決めるヘプトンからの合図。
「実行しろ！！」
明日も17時に投稿します
