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第七十七話 開戦前

「魔法はすごいですね」

「科学はすごいですね」


 ヘプトンとラーファンがはもった。

 この一年、共同で技術開発をしてきた二人の感想だ。

 神の加護の元での魔法は、有る意味限界がない。

 神の意向に沿いさえすれば、死人も蘇る。

 こっちの世界では絶対にありえないことだ。

 そして科学は神の力に頼らずに、神のお力と似た現象を引き起こす。

 そして、個人の資質が必要がない。

 100人に1人持つという魔力の素質、そのうちの100分の1がエリートとして扱われ、さらに1000年に一度の天才ラーファン、神と通じ会える聖女の生まれ変わりクラレスト、この二人が合わさって、初めて奇跡を起こせる。

 確かにその奇跡は科学では再現できないことも有るが、様々な要因を整えないと再現できない。

 俺の長寿の祈りもそうだ。科学では再現できない……が、人工臓器などの発達で、近いことはできる。誰にでもだ。

 そのあたりは、まぁ、お互いにすごいので、それを組み合わせていってる俺たちは、とってもすごい事になってきている。


「神の奇跡は……やはり奇跡としか説明の仕様がありませんね、再現は不可能でした」


「いやいや、極大魔法を連射したりなんて我々には出来ません。科学はすごい……」


「いえいえ、魔法はすごいです」


「いやいや、科学はすごい」


 毎回こんな感じだ。

 

「社長、パワードスーツのテストお願いします」


「わかった」


「ロカ様新しい武器と防具のテストをお願いします」


「ジルバ様新型戦闘機のテストをお願いします」


「パリザン様新型車両の運用テストをお願いします」


 もうすぐ一年、今は日々実践に向けたテストを繰り返している。

 

「もうすぐ、神託で示された日だな」


「準備は、十分とは言えないかもしれませんが、できることは全て行いました」


「あとはゆっくり休んでくれ」


「神託は3日以上はずれないから、あと3日は休めますね」


「今日から3日は全社員、社食無料だ好きに食え」


「酒もいいのか?」


「玄庵は程々にな」


「最近はパリザン殿と本当に良いものをゆっくりと楽しむことに趣を見出したのでな」


「まぁ、お財布的な意味で程々にな」


「社長につけとく」


「てめぇ……」


「今日は、家族水入らずで飯食うか」


「みんな喜ぶのだ!!」


「声かけてみますね」


「あいつらも忙しいから無理しなくていいって伝えておいてくれ」


「全員飛んでくるそうです」


「そうか……」


 その日は久しぶりに家族とゆっくりと過ごすことが出来た。

 うちの会社は実力主義だ、たとえ俺の家族であっても実力が無ければ高い地位には行かない。

 だが、皆頑張ってそれなりの地位にまでなってくれている。

 子どもたちには俺の立場のせいで過分な負担をかけて申し訳ない気もするが、子どもたちからすれば、やる気になるから良いんだ! と嬉しいことを言われている。

 

 結局話しの殆どは次の戦いのことや準備、仕事の話になってしまう。

 それでも、家族らしい会話も有る。


「そうか、奥さんは順調か……」


「すでに第3シェルターに避難してるよ」


「シェルター建設も間に合ってよかったよ」


「ヘプトンが頑張ってくれたからな」


「しかし、世界を救う戦いなんて、ピンとこないな」


「そうだな、最期までピンとはこないさ。終わった後に、ああ、世界を救ったのか……って思う程度だ」


「プレッシャーとかはなかったの?」


「うーん、あったんだろうけど、強い相手と戦うワクワクが勝ってたなあの頃は……

 だが、今は明確に目標が有る。

 たぶん、今のほうが歳は食ったが、強いぞ俺は」


「……なんとなくわかる。何度も親父に挑んでぶん殴られていた頃より、家族を守る戦いのほうが、強い……うん、強いな」


「それがわかるようになったら、大人の階段を登り始めてるんだよ」


「社長は今でもよく階段踏み外すのだ!」


「本当ですよ、死にそうなくらい訓練する人は居ても、本当に死ぬのは止めてください。

 社員が路頭に迷います」


「いや、アルテリオが予想以上に強くてむきになったのは、アイツも悪いだろ!

 まさかほんとに殺されるとは思わなかったぞ!」


「しかし、死者蘇生なんて……あるんだね」


「実戦では期待するなよ? あんな奇跡は安全なところでしか起こせないし、魂的な物が消滅したら生き返れない」


「莫大な魔力を消費するし、激戦になるであろう今回の戦いでは、命を大事にだな」


「そうだ。医療班もできる限り揃えた、死ななければ、勝ちだ」


「誰も死んではいけないのだ」


「死んだやつは、絶対に蘇らせて、死ぬよりもきつい訓練に放り込むからな」


 全員がぶるりと身体を震わせる。


「絶対に死なないよ、親父」


「もちろん俺も、孫を抱くまで死なない。ロカもジルバも、絶対に死ぬな」


「わかってるのだ……」「絶対に……」


 自分の息子達や娘たちと、飯を食って、ゆったりと酒を飲みながら話す。

 愛する妻と、子供がいる幸せを、守りたい。


 身体の奥深くから、力が湧いてくるのがわかる。

 俺にとって、今度の戦いは救世の戦いではない。

 自分の家族を守る。

 ただそれだけの、小さな戦いに過ぎない。


 マーチたち古参の社員、それにアルテリオたちとも、戦い前の緩やかな時間を過ごし、俺の中の炎は最大限に高まった。

 俺の家族と、大切な仲間を守る。

 その決意が、俺の原動力となる。


 そして、決戦の日が訪れる。


「上空に次元震を感知、巨大質量が……ワープアウトしてきます!!」


「来たか……全社員に社長命令だ!!

 絶対に死ぬな!! 死んだやつは、社長特製の超特訓だ!!」


17時投稿に変わります。

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