第七十四話 裂け目
「高速艇を使う! とりあえず師範クラスで動けるものは全員、機械兵も守備兵以外は全て集めろ!」
矢継ぎ早に指示を出す。
ロカとジルバは既に戦闘準備を済ませている。
子どもたちも戦闘準備をしようとするが……
「スマンがお前らは連れて行かない」
「なんでだよ親父!」
「止めろバジット!」
「……カイル、すまんな」
「絶対帰ってきてください。まだちゃんと一本を取ったことがありませんから」
「任せとけ」
「親父……そんなに、やばいのか?」
「時空を歪めるってのは、とんでもないことだ……だが、俺も時空を超えてきた漢だ!
負けねぇよ!」
子どもたちを抱きしめる。
こんなにでかくなったんだな……
コイツラの未来のためにも、踏ん張りどきだ。
『ゲイツよ、儂も向かっておるぞ』
「おうおう、ジーさままでご足労頂けるとはありがたくて涙が出る」
『はん、減らず口を……どうじゃ、現場の様子は?』
「歪みがどんどんでかくなっている。想像より、やばいやつが出てくるかもな」
『そうか……』
「現場で会うことを楽しみにしている」
『ああ……』
とにかく今は最高速で現場に向かうしかない。
第三大陸はまだ支店は出来ていない。
鉱床が多く有る山岳が大陸の多くを占めているが、とにかく険しい。
そして魔物が多い、天候が安定しないと、得るものも有るが、損得勘定的に積極的進出は美味しくない大陸だ。
やや北寄りで、冬になると厳冬、夏は暖かいレベルまでと、そのあたりも居住に向きにくい。
大地も痩せており、農畜産業にもむかない。
完全に鉱山目的の工業都市を建設するかどうかを話し合っているところだ。
「ゲイツ師匠! あれ!」
「なるほど、歪みがはっきりと見て取れるな……」
空が、歪んで反対側にそびえる山々がぐにゃりと曲がって見える。
黒雲が渦を巻き、激しい風と雷が周囲に落ちている。
「ヘプトンが居た場所みたいになっているな……」
「歪みが大気を吸い込んだり吐き出したり、周囲の天候をめちゃくちゃにしています。
ただ、時折強大なエネルギーが渦巻いており、何者かが干渉した結果起きているものと計算されます」
「……ヘプトンが人為的に起こそうとして起こせるか?」
「失敗したら、この星の半分ほどが消し飛んでもよろしければ、数秒間なら……」
「それほど強大な力を持った存在か……
どちらかといえば、科学世界より、ファンタジー世界の領域の化け物っぽいかな……」
魔王やら高位の魔人は時空系魔法でこういった現象を引き起こす。
科学で起こすのには天文学的エネルギーが必要な事象も、魔界の魔法エネルギーという便利パワーで異常な現象を引き起こせる……
この星は、機械文明も魔法文明も存在する変わった世界、ならば魔法文明のある意味頂点である魔人様が現れてもおかしくない。
「しかし、コレほどの規模だと、魔導王以下じゃねぇな……」
ポポやヘプトンと魔導機械技術を高めておいてよかった。
ある程度以上の魔法生物は単純な物理攻撃は通用しない……
「可能性の話だが、これから出てくるかもしれない奴らの話はしておく……」
俺は、集まった総員に、魔王や魔人、悪魔たちの話をしておく。
魔界とつながったのなら、この世界に攻め込んできた可能性もある。
奴らの好物はあらゆる生命の魂。
魔物だろうが、人間だろうが、殺して食うか、捕らえて増やし、そして殺す。
星の居住地を増やすどころではない、生存をかけて戦わなければならない……
話を終える頃には大気は更に不安定になる。
大気の乱れが更に激しくなり、大地にアンカーを打って船を安定させる。
すでにパリザンも合流できた。
「ゲイツ社長、歪みが!」
渦を巻くように空間が歪み、空にヒビが入る……
ドーーーーーーーーーン!!!
次の瞬間、歪の中心から光り輝く光線が大地を穿った。
空はひび割れ、大気がビリビリと振動する。
大きく空が口を開けている。
「……ん? 今の技……」
その空の穴から、光り輝く球体が緩やかに降りてくる。
俺は、それを見たことが有る。
先程の光線も、だ。
「まじかよ……」
ひび割れた空が戻ろうとしていく、光の球体から光球が放たれ、きれいな円形の通路を残して、周囲の環境が元に戻っていく。
荒れ狂う大気は収まり、恐ろしいほどの静寂、穏やかすぎる風が流れている。
「総員警戒態勢、着陸する」
着陸と同時に、俺は船から飛び出す。
「手を出すな!」
球体は静かに地面に到着して、静かにその光を失っていく。
その場には5人の人影が立っていた。
「もう! 本当にアルベルトは馬鹿なんだから!
あんなもんぶっ放して次元流に飲まれたらどうするつもりだったのよ!」
「結果としてうまく行ったから良いじゃないか」
「よくありませんよ、事前に言ってください!
我々を守る障壁ごと破壊したらどうするつもりだったんですか!?」
「いや、ラーフェンとクラレストならなんとかするだろ、なんとかなったし」
「まぁ、急に剣を抜いたから絶対なにかすると身構えましたから……」
「まぁまぁ嬢ちゃんたち、とりあえず目的の場所にはつけたんじゃろ?」
「たぶん……精霊はここを……ん? 本当にここを示してっ」
「お前ら!!」
俺の声にその人物たちが振り返る。
懐かしい……昔の記憶のままの5人がそこに居た。
「アルベルト! ウッディアン! ラーフェン! クラレスト! えーっと、誰だっけ?」
「玄庵じゃばかもん!! ……ってことは……」
「「「「「ゲイツ!!!」」」」」
まさか、こいつらと再会するとは……




