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第六話 ここをベースキャンプとする

 思ったよりもぐっすり寝てしまった。

 理由の一つはこの目の前にいるロカだ。

 いつの間にか布団に潜り込んできて抱きついて眠っている。

 嘘をついた、気がついたけど放っておいた。

 まぁ、女との同衾は男の嗜みだ。手は出してないからOK。


 すっと寝床を抜け出して、顔を洗う。

 水を好きなだけ使える生活は素晴らしい。

 

「もう猿なんて食わなくてもいいだろうけど、念の為だな……」


 猿たちは解体して皮などは水に晒してある。

 それらを干すための物干しを近くの木材を使ってサクッと作っていく。

 俺の剣技はこういうときにも役に立つのだ。


「そう言えば……ある程度家作ったら魔石を喰わせるか……」


 アクワンと砂喰いのそれなりの大きさの魔石が手に入っている。

 今の頼りないショートソードも少しはマシになるだろう。

 アクワンの骨なんかも喰わせるには良さそうだし……少しづつ育てていくのも楽しみの一つだ。


「いくらプラントがあっても広大な砂漠を全部森林には出来ないけど、オレ一人なら十二分に賄える……どうするかねぇ……」


 ある程度生きていくだけなら算段は立ってしまった……

 

「少なくとも、剣で生きている種族が居るなら……会いたいよなやっぱり……」


 ロカの種族には興味がある。

 それ以外にも俺の知らない種族には興味がある。

 そして、なにより、俺が知っていることにも興味がある。

 俺は湖に突き刺さった宇宙船を眺める。

 朝日で鈍く輝くその機体は、明らかに俺の過去の知識の世界のものだ。

 前の世界は剣と魔法、ファンタジー世界だった。

 魔物がいたし、魔石なんかもあった。

 そして、この世界は同様に魔法や剣、魔物に魔石が存在していて、同時に宇宙船なんて科学の産物が存在している。


「それでも、ロカ達は宇宙船であることを想像もしなかったってことは……

 考えられるのは移民の墜落だよな……」


 どうやら他にもこういった宇宙船が有るみたいだし、この星へ移住を考えた開拓者が入植しに降りようとして……墜落……


「プラントを作れるほどの科学力で作られた宇宙船が墜落って、かなりのことだよなぁ……」


 プラントも大概おかしな代物だ。

 周囲の物体の分子を取り込んで組み合わせて様々な物質を形成する。

 水も酸素もないような星でも、生活する空間を作り出すことが可能な夢のような装置だ。

 もちろん、こんなもの一般人には手に入らない、どこかの星国家のプロジェクトなんだろうけど…… 


「あー、なんかよく覚えてねぇ……俺もすっかり剣士になっちまったからな……」


 前の世界では始めの頃は知識チートだーってはしゃいでたけど、すぐに地獄しゅぎょうの日々に押し流されちまったからなぁ……


「とりあえず、家作って、旅するか」


 俺の生き方なんて、それしかない。


 それから、軽く森を疾走って状況を把握する。

 森の範囲はプラントを中心に半径5キロ程の円形、木々が鬱蒼と茂ったこの森には多種の生態系が生活していて、周囲の砂漠とは大違いだ。中央部に近づくほど木々は太くしっかりとしている。

 間伐されていないために、やや過密状態になってしまっている。

 最初の仕事は森林の間伐から手をつけるか……


 そんな事を考えながらベースに帰還すると、ロカが周囲を不安そうに見回していた。

 一応変なやつが近づかないことは探りながら探索していたんだが、あまりに不安そうなので少し上から眺めてしまった。

 俺を見つけるとしっぽでもあればブンブンと振っているのは間違いないほど安心した様子で近づいてきた。かわいいな、こいつ。


「ゲイツ! 朝の鍛錬か? すまない、ロカはぐっすりと寝てしまっていた……」


「いや、ちょっと森の状況を把握していた。ついでに、これもな」


 俺は布で包んだ卵や果実、木の実を見せるとロカの顔がめちゃくちゃ明るくなる。

 なんというか、ほんとに素直で可愛いやつだ。


「すぐに火を起こすぞ! ロカもそれぐらいは出来るんだ!」


 昨日使った宇宙船の部品を使った暖炉もどきと調理器具、まだくすぶっている炭に細木や枝を入れていけば直ぐに火が起きる。

 なんちゃって鍋と板が有るだけで棒を突き刺していただけの料理は、ちゃんとした料理になる。

 宇宙空間を耐える素材を切り出すのは剣が負けないか心配したが、かなりダメージが大きいらしく問題なく切り取れた。合金製で熱で変性しない素晴らしい調理器具だ。

 木材で食器も作ったし、随分と文化的な生活になったものだ。

 

「はぁ……美味しかった……」


 朝食はロカにも好評で良かった。

 

「塩っ気が欲しいな……」


「砂跳ねがいれば塩が手に入るぞ、奴らは首の袋に塩水を貯める。

 火にかけるか皮か何かの上で干せば塩を取れる。

 少し臭いのが玉に瑕だが……」


「砂漠に居るのか? 珍しいのか?」


「そんなに珍しくはないぞ、砂漠に変な細い棒みたいのが生えていたらその下に砂跳ねが居る。

 もちろん危険な生き物だから普通は近づかない……」


「よっしゃ、探しに行くぞロカ!」


「ああ、ゲイツなら問題ない! ってきゃあぁぁぁぁぁーー!!」


 俺はロカを抱えて全速力で森の端まで向かって、近くの木に登る。


「周りに見えるか?」


「げ、ゲイツ、離すなよ……お願いだゲイツ……」


 首に手を回してこの高さにビビってちゃんと見てくれない……

 仕方ない。俺は周囲を見回す。

 遠視を使わなくても、比較的そばに変な棒が風に揺れている場所を発見する。


「あれか?」


「……そ、そうだ、しかし、すごい数だぞ、大きな巣かも知れきゃあああああ」


 俺は塩が欲しいんだ。一刻も早く!

 ロカを抱いたまま木から砂漠に飛び降りて、そのまま走る。


「ちょっとここにいろ耳を塞いでろ」


 ロカを置いて、変な棒が生えている場所に向かって飛び上がる。

 気配察知で砂の下に虫が潜っているのはわかっている。

 大きく息を吸い込み、【大喝】かっこよく言っているが、大声をその集団にぶつける。

 ドゴーンと派手な音を立てて虫が砂から驚いて跳ね上がってきた。

 なんというか、コオロギっぽいが、とにかくでかいし、ぶっとい後ろ足がケバケバしていて、キモい。あんまり旨そうじゃない……

 確かに喉の下に袋が2つぶら下がっている。


「喰いたいわけじゃないし……袋だけもらうか……」


 すれ違いざまに喉下の袋を斬って奪う。

 生臭い匂いを発する水の入った両手に抱えるくらいの袋、一つでとりあえず充分だな。

 砂跳ね達はまだ大喝のせいで理性を失っているのか上手く立てないで砂の上でビクンビクンしている。

 食うためでも無いので、まぁ、一旦放置だ。

 この距離で生きててくれれば、定期的に塩が手に入る。

 俺はそのまま隠形を使ってその場を離れて、気絶していたロカを抱えてベースへと戻った。


 鍋で丁寧にアクを取りながら煮詰めると、癖のない良い塩を手に入れることができた。


 俺の新世界ライフが、また一つ豊かになった。



 


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