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第六十五話 進化

 この感覚は、なんだろう。

 自らの身体を思ったとおりに動かす鍛錬は積んできたつもりだ。

 だが、この義足は、思ったことと寸分違わぬ制度で実施する。


「はっきりと動きすぎて変な感覚じゃろ?

 儂は片手でも戸惑ったから、四肢がその調子だと手こずるぞ」


「ムラを出すことも出来ますが、ランダム性が強すぎて、生死がかかる場面では命取りになります。

 馴れましょうゲイツ様」


 俺の身体のモニターをしながらポポが即座に調整していく。

 ほんの僅かのズレもなくなり、以前の身体よりも、反応が良いことに気がつけてしまう……


「まだ、無駄ってあったんだな……」


「まぁ、無駄というかどうかは意見はわかれるが、速さは上がるわな」


 それだけじゃない、悲しい事実だが、どんなに鍛え上げた筋力よりも機械のパワーのほうが上だ……さらに疲労も少ない……


「この分野だけオーバーテクノロジー過ぎだろ……」


 未来の記憶にもここまで高精度、高性能を両立していた義手は記憶にない……

 戦闘用アンドロイドとかは存在していたが、あの世界では一般人だった俺が触れることは無い。

 きっとこんな感じの技術だったんだろうけど……

 特に、足がヤバい……


「いやいやいや、これは、おかしいだろ……今までの鍛錬の苦労が泣けてくる……」


「体幹がなければ、操れんじゃろ……しかし、儂も足落とすかな……」


 人間には不可能な急速な加速と停止、思っていても出来なかった動きが出来てしまうことに、人間の力の限界を見せられているようで少し悲しい。


「ポポ、まさかと思うけど、この義手と義足って魔装具か?」


「流石に気が付きましたね。その理論を組み込んでおります。

 きちんと気も通りますよね?」


「ああ、本当に手足と変わらない……ロカとジルバのか……」


「それと欠片になってしまってましたが、ゲイツ様の物も利用しております」


「そうか……」


「それと……こちらが現状の素材と技術で作れた、機械装具とも呼べる武器になっております」


 一本の美しい深い碧の刃を持つ大太刀。


「太刀か……なるほど、この腕を最大限に活かすならこっちか……」


「そうじゃ、大剣はいいが、最も活かせるのはこっちじゃろ」


「確かに……」


 握るとしっくりと手に馴染む。

 軽く振るうと、その美しい刃の剣筋が輝いて見える。


「これは、芸術作品じゃないのか?」


「ほれ」


 ペイザンが軽くホイッとキカイの塊を投げてきた。


「知らねーぞ?」


 太刀を振るう。


 キンッ


 背筋に電流が走る。

 快感だ。

 幾千幾万と敵を斬っていると、極稀に得られる、斬る感覚。

 何もかも斬れるのではないか? と勘違いさせる天使からの残酷なプレゼント。

 その感覚だ……

 俺の背後には真っ二つになったキカイが落下する。

 確信できる。今すぐあの切断面を重ねたら、元通りにくっつくほど、完璧に斬る事ができた。


「……恐ろしいな……」


 自分の中での理想の斬撃を完璧に実現してくれる身体を手に入れた喜びより、恐ろしさが勝った。

 この力を手足を変えるだけで手に入れられる事実が、怖かった。


「ゲイツ様、言っておきますが、誰でも手足を入れ替えればこうなるなんて思ってませんよね?」


「……正直思ってる」


「そんな訳ないじゃないですか、長い期間にわたるゲイツ様の行動を蓄積し続けて、そこにありとあらゆる技術を注ぎ込んだ奇跡ですよその義手たちは、断言します。もう二度と無理です。

 それ壊したら、普通レベルの義手しか作れませんからね」


 珍しくポポが少し怒りながら説明してくれる。

 そして、そのまま俺はいろんなテストをさせられながら、この義手たちがいかに素晴らしいシステムや構想で作られていて、どれほど高度な技術が注ぎ込まれていて、どれほどの苦労が詰まっているのかを延々と日が暮れるまで聞かされた。


 大型トレーラーであっという間に構築された関所はキカイと戦い続けている。

 交代制で巨大銃器で迫ってくるキカイを破壊していく。

 破壊したキカイは重機で一気に回収する。

 戦闘はシフトを4つ組んで交代制で行われるため負担は随分と楽になっている。

 この戦闘データは収集され、試験的に自動化された砲台による攻撃で守られるように鋭意努力中だそうだ。


「ちょっと、試してくる」


「お気をつけて」


 俺も少しづつキカイと戦いながら感覚を取り戻している。

 至伝、奥伝は問題なく振るえた。

 皆伝級は義手との接合部に異変を感じて辞めておいた。

 モニタリングしていたポポがすぐに調整していく。

 しばらくはそんな日々を繰り返していた。

 北部の戦線も安定していた。

 十本刀が総力上げて協力してくれていることが大きいと聞いている。


 そんな日々に変化が訪れたのは、皆伝も問題なく使えるようになってすぐだった。

 今まで見なかったタイプのキカイが現れ、砦からの遠距離攻撃の効果が目に見えて低下して、砦に少しづつ接近を許すようになった。


「どうやら向こうもこちらとの戦闘を研究して対策を打ってきているみたいです。

 長期戦は危険と判断します」


「そうか、とうとうお世話になったお礼を言えるのかね?」


「ポポ、現状の調子はいかがかな?」


「すでに調整は実働に耐えられますマーチ様」


「ゲイツ様、おねがいできますか?」


「任せとけ」


「儂らもゆくぞい」


「ああ、頼む。ロカ、ジルバも頼むぞ」


「わかったのだ!」「ハハッ!」


 二人とは、穏やかに過ごさせてもらっている。

 モニタリングされていたらこっ恥ずかしいが、ポポを信じている。


 ……回を重ねるごとに、反応がすごくなったのはポポが調整していることとは関係はないと信じている。信じているが、ナイスポポ。


 俺たちは、ついに機械王に会うために暗黒地帯に足を踏み入れる。


 

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