第六十三話 連戦
迫りくるキカイを倒しながら暗黒雷地方へと進軍する。
異常な量のキカイ達を少しづつ退けながら暗き谷の入口にたどり着いた。
奇跡的に死者は出ていないが、ギリギリだ……
「ロカ、動けるものは何名ぐらいだ?」
「無理してかき集めて20人なのだ……ゲイツ師匠……限界が近いのだ」
「医療キットがそこを尽きそうです、軽症者も戦闘から離脱することになってしまいます……」
「仕方ねぇな……マーチの連絡では王国軍はキカイ達と海上で戦闘になってこっちには手が貸せない……援軍到着は明後日か……よし!!
ロカ、ジルバ、今から二日間、俺はあの場所に近づくもの全てぶち壊す、理性も残さねぇ。
そして、二日後ぶっ倒れる。
きっちり48時間だ。
それまで絶対に近づかず、ぶっ倒れる瞬間に俺を回収してくれ……頼めるか?」
「……わかったのだ……」
「師匠……」
「なあに、3日も寝込めば目覚める。
ただ、その3日援軍と上手いことやってくれよ?」
「2日有れば援軍も来るのだ、ロカとジルバがやるのだ!」
「先輩……ええ、師匠任せてください!」
良い弟子を持った……
「ゲイツ社長! また来ました!」
「わかった……全員待機、ちょっくら社長が従業員のために休暇を作ってくらぁ!」
「必ず迎えに行くのだ!」
「どうかご無事で……」
ロカとジルバが飛び込んでくる。
勝利の女神の口づけを2つも貰ったら負けるわけにはいかない……
暗い闇に包まれた谷の向こうからキカイの赤い光が群れをなして近づいてくる。
「……悪いな相棒……無理させるぜ……」
装具に力を込めて、全ての力を武器に変える。
巨大な両手剣。
防具は無い。
大量のキカイの足音が近づいてくる。
巨大な機械、小型の機械、それらが、俺の姿を認めると一斉に銃弾を放ってくる。
「……ふー……極伝……戦滅鬼開眼!!」
ブツン。
意識が暗闇に堕ちる。
そして、目の前が真っ赤に変わる。
自分の意識を手放し、ただ全てを破壊する存在へと変える。
人間の限界を解き放つ。
巨大な長剣をまるで枝でも振るうよに扱う。
降り注ぐ銃弾をありえない動きで回避する。
分厚い装甲に包まれた巨大なキカイをりんごでも砕くように剣で叩き割る。
細かい雑魚ども風と化して切り裂いていく。
強固な装甲だろうが関係ない。
戦場には金属が激しくぶつかり合う音だけが繰り返される。
ときにはキカイを掴み他のキカイに叩きつけて潰し、鬼人がごとく動くものを潰していく。
朝も夜も関係ない。
疲労もない、痛みもない、全て捨て去ることで得られる仮初の力だ。
命を対価で行う終伝の一つ手前、人間としての限界を超える力への扉を開く技の一つ……
終伝でやり遂げて逝ったジジイもババアも口を揃えて極伝は使うなと言っていた……
まぁ、ジジイは斬ってる感覚がわからなくてもったいないとかサイコパスなことを言っていたが。
確かに、今の状態を体験して、あいつらの言っていたことがわかるような気がする。
まず、自分自身が何かをやっている気がしない。
真っ赤なガラス越しに、ただ周囲を破壊している映像を見せられているようだ……
自身の感情は一切動かないのに、ただただ破壊映像を見せられているのは非常に不愉快だ。
人相手だったらと思うとゾッとしない……
周囲の音は聞こえないが、自分自身の身体が軋む音はよく耳に響く。
細かな筋肉の損傷は計り知れない、骨もヒビは無数に入っているだろう。
凶悪な闘気に曝され続ける肉体のダメージも考えたくない……術が切れた後の苦しみを想像すると、気が滅入る……
こんな事を考えている間も、身体はキカイを破壊し続けている。
敵の迫る攻撃を限界ギリギリの見切りで交わし、相手を破壊する。
引き伸ばされたような感覚の中で、なにも出来ずその有様を見せつけられ続けるのは、拷問に近い。
どのくらいの時間、どのくらいのキカイを倒したのかもわからない。
周囲の破壊したキカイは、放置したまま時間が立つと他のキカイが回収して戻っていく。
素材として再利用していくんだろう。
以前見た製造工場のような場所があり、世界中にキカイを送り込んでいる機械王……
俺の中でだんだんと機械王に対する憎しみが増大していく。
闘気による肉体の強化、そして、過剰な強化を長期間行っているダメージは確実に蓄積する。
一撃で引き裂いていた装甲の破壊に二発、三発とかかって引き裂くようになる。
軽々と振り回していたキカイを渾身の力で叩きつける。
すでに大剣は剣ではなく、棒として働いている。
片手でキカイを振り回し、もう一方で棒を振り回してキカイを破壊し続ける。
敵の攻撃も完全に捌けなくなっている。
明らかに限界を超えている。
それでも、敵を破壊し続ける。
我ながら、よく頑張った。
巨大なキカイを棒で真っ二つに砕いた時、棒が根本から崩れ、装具が最後を迎える。
すぐに近くにあったへし折ったキカイの足を掴み、次のキカイに叩きつける。
突然、真っ赤な視野が開け、世界に色が戻った。
「……ぐうおおおおおおおおおおおおあああああああああ!!!」
全身を業火に包まれたような、雷を叩きつけられたような、幾百、幾千、幾万の刃で切り刻まれたような、言い表しようのない痛みのような衝撃が脳みそを叩き斬ってくる。
指一本動かせない、それどころか、次の呼吸もままならない、目の前にはキカイが迫っている。
まるで永遠のようにキカイの攻撃が目の前に迫る。
不思議と視力だけはしっかりとその攻撃が、俺の身体を、貫こうとしていることを眺めている。
「ししょーーーーーーーーーーう!!!!!!」
「でぇりゃああああああああああ!!」
ああ……良い弟子を持った……
目の前が真っ暗になった。




