第六十一話 いざ機械王の地へ
この状況下で、帝国に反旗を翻すような時勢の読めないアホ貴族達のもとに、まともな戦力が集まるはずもない。いつまでも時代の変化を受け入れられない無能が集まっている。
数としては一定の規模になっているが、烏合の衆だ。
開戦と共にガジンは堂々と部隊を前進させる。
圧倒的多数に対して規律の取れた行軍は見事だった。
敵兵はバラバラとみっともなくこちらに攻撃を仕掛けてきては一糸乱れぬ軍隊としての塊に踏み潰されるだけだ。
一方的すぎる戦闘だ……
迫りくるガジンたちの部隊に恐れ、混乱して隊列は乱れ、逃亡兵も現れる。
商会の遊軍が、逃亡兵も囲い込み脱出は許さない。
新帝国のためにも、毅然とした対応をすることと膿は完全に排除したほうが良い。
結局、まともな戦闘らしい戦闘もなく、戦は終了した。
投稿してきた貴族も、その罪が許されることはない。
全員、極刑に処された。
「最初にして、最高の戦が出来た……」
ガジンはその後、死ぬまで皇帝のそばに仕えたと聞く。
こうして新帝国の膿は完全に排除された。
もちろん小さな歪は残るが、ブライン陛下の元でとりあえず今の皇帝でいる間は素晴らしい政治統治がなされるだろう。
現に商会のつてを使って、今まで各国にかけていた多大なる問題解決のために、帝国の広大な農地から作られる豊富な農作物が提供されることが素早く決定している。
王国とも歴史的停戦協定が結ばれることも決まっている。
帝国一つの変化で、大陸全てが大きく変わろうとしていることを感じている。
そして、それら物流を握っているのが俺たちの商会だ……
商隊を守る屈強な兵士、魔獣やキカイから得られる豊富な物資、すべての大規模都市を完全な連絡網を構築している……もう、圧倒的だ。他の商会はほぼ買収などで傘下に納めている。
「えぐいなこの数字は……」
俺は商会の叩き出す利益に驚くしかない。
人道的な支援も行っているはずなのに、どんどんお金が入ってくる状態になっている。
「大陸全土の商売を半ば独占していますからね……
生産に関しても今までは発掘に頼っていたのがほとんどでしたが、私達は原材料から作成できる量が桁外れですので……」
「独自開発の様々な道具も皆の生活を改善しています」
「武器屋防具に関しては、お達しの通り制限していますので、軍備的にも圧倒的ですね」
「人数も増えたからなぁ……」
「優秀な人間も多く集まっています。大丈夫です」
「そうか、まぁ力仕事はできる限り協力するから、こき使ってくれ」
「それではゲイツ様、早速気になる報告があるのでお願いしたいです」
「お、おう」
「実は最近各地でキカイによる被害が増えています。
特にガルラ王が治める砂漠、王国近隣で被害が大きいです。
普通に考えると、あの機械王が活動を始めた可能性があります……」
「あの落雷地帯に進むのか?」
「避雷装置は完成していますので、特殊車両をお出しします」
「……ポポも涼しい顔してえげつないことを頼むよね」
「ゲイツ様なら大丈夫でしょう。ロカさんとジルバさんも同行してもらいます」
「任せるのだ!」「承知しました」
「偵察だけでいいんだよな?」
「ええ、状況把握を目的とした威力偵察です」
「ひっそりと朧達がやったほうが……」
「キカイとの相性はゲイツ様達のほうが適任です」
「まぁ……そうだわな……」
パリザン達はどちらかと言うと対人戦闘のスペシャリストだ。
大型の魔物やキカイに対しては俺らのほうが得意だ。
特に多数のキカイ相手となると、明らかに俺たちが戦うべきだ。
わかる、わかるんだが……
「キカイ相手はつかれるんだよ……」
色んなタイプがいるんだけど、特にディフェンスこそ最大の防御だ! みたいな厚い装甲に身を包んだ重量級の相手は非常に疲れる。
相手の攻撃は一撃で危険なのに、こちらは丁寧に相手の装甲を処理しないと機能停止に追い込めない……しかもキカイ共は仲間を呼ぶわけだ……散発的な戦闘が連続して、気がつけば四方八方からキカイが集まってきているなんてこともある……
それでも、最大のやる気を削ぐのは……
「キカイは食えないんだよなぁ……」
「部品はとてもありがたいですよ。メカニックも帯同させますから」
「人員少し借りていくからな」
「もちろんです。すでに名簿も出来ております」
「……出発は?」
「早ければ今すぐにでも!」
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
すでに段取りは完璧に済ませてある。最初から決まっていたんだ……
昨日帰ってきたばかりの一応名前だけは商会のトップを使い倒すマーチ達が、真の支配者であることを商会の外の人間は知る由もなかった……
「……ゲイツ師匠と……久しぶりに一緒で嬉しいのだ……ゲイツ師匠は……嫌なのか?」
「い、いや、そんなことはないぞ!」
「師匠、機械王の地までは余裕もありますよ。ね? 先輩」
「そ、そうなのだ……だから、ね?」
「お、おう……」
最近、弟子たちがとても可愛い。
こうして俺は、機械王の待つ落雷の降り注ぐ地へと向かうのであった。




