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第六十話 嬉しい誤算

 ブラインワーシング12世の名のもとに帝国に布告が出された。

 すでに有力貴族は全て商会で鹵獲している。

 帝国に危機が迫ると知ると、私兵と共に財産と奴隷を連れて逃げようとしていた。

 帝国の腐敗の現況は有力貴族共のせいだと調べがついたので、財産の没収を行い、帝国変革に伴って起こる財政出動の原資と当てられたことは幸運だった。

 皇帝の布告、いろいろとあるが、大きな点は3点だ。


1.奴隷制の廃止

2.貴族制度の廃止と議会設立

3.皇帝の権限の縮小


 3番に関しては、もともと形骸化していたが、改めてきちんと取り決めをすることにして、象徴として皇帝制度になっていく。その代わり、政務に協力できるなら協力もできるという事になった。

 結果として、ブライン陛下の稀有な政治能力を活かせる形となった。

 そう、嬉しい誤算だったのは、ブライン陛下には傑出した政治的な能力を持っていることだった。


「素晴らしいですね陛下は、こちらの教えをまるで布が水を吸うがごとく吸収し、そして卓越した観察眼、思考力で案や策を出してくる……帝国が真に皇帝陛下の治世で動いていたら、とても侵略なんて成功しませんでした。最近ではジーンが負けじと良いライバルになって……

 コレは将来楽しみですね」


 長期化すると考えていた帝国の体制の変化は、俺達の予想よりも遥かに早く進んでいく。

 結果として商会の仕事は飛躍的、いや、爆発的に増加して、俺も毎日大陸中を走り回る羽目になる。


 帝国のプラントを組み込んだことで大陸のどこにいても画像つきで連絡が取り合えるようになったせいで、肉体労働だけじゃなく頭脳労働がどこにいてもいつでもできるようになりました。やったぜ……


「楽するつもりが、実働部隊のほうが忙しいじゃねーか……」


『そうそう楽はさせませんよ、その巣を鎮圧したら北部の巨大な繁殖地に行ってもらいます』


「……全滅させたら困るんじゃないのか?」


『大丈夫です。飛び地の繁殖地なんていくら抑えても獣の谷がある限り魔物はいなくなりません。

 獣の谷を制圧すれば完全にいなくなりますけど、たぶん数億匹相手にすることになりますよ?』


 獣の谷とはこの大陸中央の巨大な山周囲に散在する谷間で、この大陸の魔物たちはそこで生まれてくる。深く入り組んでおり、地下空間もあるらしいが、とにかく魔物天国、人間が近づける場所ではない。


「……止めとく……」


『はい、ではまた終わる頃に連絡します』


「……皆元気にやってるか?」


『ええ、ご自慢のお弟子さん達も各地で戦果を上げておりますご安心を』


「わかった……よっしゃ野郎ども! ここ潰したら飯にすっぞ!

 せめてうまいもん食べて仕事するぞ!!」


「「「「「「「うぃおーーーーっす!!」」」」」」


 体育会系あるあるの訳のわからない返事が返ってくる。

 俺の周りには魔物の返り血を浴びたむさ苦しい男たちがたくさんいて、嬉しいよ……

 仕留めた魔物を数体ばらして、腹いっぱいにしてから移動を開始する。

 魔物の良いところは旨いところだなと改めて思う。

 その分強さを得ているわけだ。

 強力な魔物のほうが旨い。というのはオレたちにとって最高の目標になる。

 強大な敵をなんとかして倒して、そのうまい飯を食える!

 そのために毎日の鍛錬をしているようなもんだ。

 食はこの厳しい世界で生き抜く人間にとってのガソリンみたいなものだ。


 俺たちがこうやって動き続けている間に、帝国では猛烈な速度で社会体制が変化していく。

 貴族とは名ばかりの貧乏貴族や平民達は特権がなくなり、公平な市政が行われていくことに喜びの声を上げている。

 ごく一部の有力な貴族は抑えてあるが、中途半端な貴族から反発はでていた。

 帝国の文化などを適切に残す名誉ある仕事を与えるなど、できる限り反発をなだめていく皇帝の手腕は見事なものだったが、どうしても埋められない場所もある。


 反改革派がついに本来の帝国を取り戻すために立ち上がる。

 しかし……


「これで不平分子を一掃できますね」


「思ったよりも早く行動に出てくれましたね」


「あまりじっくりと力を貯められたらどうしようかと思いましたが……」


 皇帝やマーチ達が不穏な話をしているが、ペイザンらの部隊を用いて様々な策謀を持って起たせた手腕は空恐ろしくもある。


「未だに差別する馬鹿は殺すのだ!」


「先輩、もっと品性のある言葉を使ってください」


 こちらの戦力は商会の精鋭部隊とガジンらの兵、数としては2000にも満たない。

 敵兵は5,000に登るが、こちらに悲壮感はない。

 敵兵の装備は旧式も旧式のボロボロ、こちらは更にバージョンアップした最新鋭の装備だ。

 さらには兵一人一人の練度も圧倒的な差がある。

 ガジンらの兵も一緒にここ数ヶ月訓練をしており、ようやく土台ぐらいは出来てきた。

 ガジンが俺やペイザンに匹敵する強者だったことには驚いた。

 おかげで俺たちもかなり充実した時間を過ごすことが出来た。


「ガジン殿、指揮はお任せします」


「かたじけないゲイツ殿、陛下の初陣派手にやらせていただく!」


「ガジンよ、頼むぞ!」


「ううっ! まさかこのような形で陛下のお力になれるとは……このガジン、その栄誉に打ちひしがられております!」


「さーて、では陛下の未来のためのドブさらいを始めましょうか!」


「「「「おおおおおおお!!!」」」」



 


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