第五十九話 皇帝の決断
「ええと、ブラインワー……「ブラインでよい」ブライン閣下、なんでまたそんなに投げやりなんですか?」
「一通り説明したつもりだったが……?」
「ええまぁ、なんとなくは分かったんですが、皇帝の権限って強いものじゃないんですか?」
「ふっ……今では装置の鍵と貴族の操り人形だ。
心を許せるのは爺、そこのガジンとここにいる僅かな配下のみだ。
外から来た者よ、帝国の虚像をもう理解しているのだろ?
虚像の上に立つ象徴を見てさぞがっかりしたのではないか?」
「皇帝陛下! ご自身をそのようにおっしゃっては……」
「いいのだ爺、今もこんな塔に幽閉され、貴族共はさっさと逃げ出したのだろう?」
『ゲイツ、こちらはシステムを抑えたので今朧がポポ達を連れてくる。
そっちはどうじゃ?』
『なんだか面倒な事になってます……』
「えーっと、とりあえず場所を移そうか?」
「無礼な!」
ガジンが武器を構えるが、皇帝がそれを抑える。
「よい、今更何も出来ん。爺、頼むから無茶をするな、爺がいなくなっては私が寂しい……」
「皇帝陛下……」
「なんだかこっちが悪者みたいなのだ」
すでに敵兵は無力化させてあるし、もう抵抗する気もないみたいだ。
肩を震わせ、たぶん皇帝陛下の不遇を嘆いているんだろう……
「帝国をぶっ壊しに来たらもう壊れていたのだ……」
「先輩、あんまりストレートに言うと傷つけますよ」
「事実は小説よりも奇なりってやつだな……、皇帝陛下、地下の……
プラントまでご一緒願えますか?」
「うむ、忌々しいあの場所……これで最後にしたいものだ」
兵士たちはすでに魂が抜けたように抵抗する気も失せたようだ。
ガジンと言う名の老兵が皇帝を先導して俺たちの後を続いて塔を下っていく……
王座の間では敵兵が気絶させられ装備を取り上げられ一箇所に縛り上げられていた。
すでに商会の兵が城の内部を掌握していた。
「そちらが?」
「ええ、皇帝陛下です」
マーチ、ポポを始めペイジンらも失礼がないように礼の姿勢を取る。
俺らもその列に加わる。
「皮肉なものよガジン、帝国皇帝たる余に……
きちんと敬意を払ってくれるのは帝国民で無い人々だ……」
「……無念であります」
その瞬間に、ガジンの心は折れたように感じた……
それからはガジンも何かに付けて食いついてくることなく、協力的になってくれた。
「それでは陛下、こちらでこのプラントの権利を譲渡していただきます。
こちらの画面に手をかざしてください」
「ほぉ……代々受け継がれてきたが、これがどういうものなのか正確に理解するものはなかった……それを理解しているお主達に、我らは負けるべくして負けたんだな」
「無念であります」
「ブライン陛下、これをどのようなものというご理解ですか?」
「人心を帝国のために導く神の箱……そう聴いている。
代々皇帝の血を引く者が年に一度動かすことになっている」
「遺伝子情報をキーにしてるんですね、なるほどなるほど……」
俺が皇帝から話を聞き出してそれを元にポポ達がプロテクトを解く作業をしている。
権利者がいるためにその作業はさほど時間はかからなかった。
「よっし! これで商会のプラントの下位に組み込めました。
これから移設作業に移ります」
「ブライン陛下、あなた方の長年のお勤めはこれで不要になりました。
人心操作はできなくなりますが、歪んだ国家をどうするかは、陛下の心がけ次第だと思います。
どうなさいますか?」
「我らは断罪されるのだろう?」
「……最初はそう考えていましたが、めんど、陛下のお心次第では、もちろん体制は大きく変えていただくことになりますが、こんどはきちんと統治していただいたほうがいいのではと考えています。
貴族連中は、すでに我らの手のものが抑えておりますし、この装置に関しては我らの商会が適正に使用します。人の力による統治は困難が極めるかもしれません。
だからこそ、陛下のお心次第なのです」
「……民のための治世を、余が執り行えるだろうか?」
「陛下の心がけ次第だと。助力は商会を上げて惜しみません」
「ガジン」
「はっ!」
「すまないが、これからも苦労をかけるぞ」
「ははっ!! 皇帝陛下のためにこの老骨、粉骨砕身でお仕えいたします!!」
「ゲイツ殿、この際今までの全てをなげうって、この国、いや、この大陸のためにこの未熟な身を使ってみようと思う。どうか助力を頼む」
「わかりました。お手伝いいたします」
内心ガッツポーズだ。
糞めんどくさいことを皇帝陛下に押し付けて、協力という形で巨大な利益を得る足がかりを手に入れた。マーチはやれやれとため息をついているが、マーチとジーンがいればきっとなんとかしてくれる!
こうして俺は国家運用という面倒なことを他人に押し付けることに成功した。
このときはそう思っていた……




