第五十七話 帝都侵攻
商会としての活動を行いながら、俺とパルザンは訓練を続け、すっかり以前と同じように動けるようになった。パルザンに関して言えば、高機能義手の性で以前より力が増してさえいる……
ポポが完全にマンツーマンでどんどん改良していくもんだから……
この世界、お金さえ有れば義手や義足のほうが簡単に強くなる傾向があるんだよな……
「ほっほっほ、便利じゃのーコレは」
腕に仕込んだ剣や暗器を出し入れしながら使い心地を確かめている。
普通の人間には不可能な動きも可能になったり、突き詰めていけばかなり可能性があると思う。
だからといって手足を切り落として義手義足にするつもりはないが、この世界にはそういった馬鹿もいるそうだ……
「ほぼ違和感もなくなったな……
あの二人も取り戻せてよかったよ」
十本刀の二人も完治し、人質に取られていた人々ともに国へと帰っていった。
「貸しを作った。いずれ返す」
「別にいーよ、こっち来たらちょっとやりあってくれればそれで」
「わかった殺りあえるように鍛えておく」
にやりと笑い、拳をぶつけ合う。
「おかげで新しいおもちゃがもらえたわい」
「私は子供の頃におもちゃを貰った人に会いそうになりました……ご達者で」
「そちらもな」
握手をして別れた。
さらっとした別れだったが、きっと大きな味方が出来た。
たとえ味方にならなくても、いい友は出来た。と思う。
「と、いうわけで、そろそろ全面的な攻勢に移る時期だと思います」
手元の資料に目を通すと、大陸内での商会の道は十分に開拓され各国、各地方でも商会としての名を上げたこと。人員的な補充や教育、訓練と帝国の戦力や工作による成果などが細かくまとめられている。
「わかった。やると決めたら、徹底的に行なっていく……
今日が帝国の最期の日、そして、俺達の最初の日になる」
「ゲイツ帝国の建国じゃな」
「その名前だけは全力で阻止するし、皇帝制もなしだ」
「冗談じゃよ」
「わかってるよ」
「ゲイツ師匠、震えてるのか?」
「……さすがに、国を滅ぼすとは思ってなかったんでな……だせぇだろ?」
「……師匠はきちんと覚悟を持って行動している。
尊敬はするけど、軽蔑はしない。
師匠について来てよかった」
「みんなそう思ってますよ。
ゲイツ様、貴方は好きなように行動してください。
私達が、なんとかします」
「……ありがたいな。この世界に来て一番の宝はみんなに出会えたことだな……
よし、行くぞ!」
「「「「「はい!!」」」」」
商会の本体をゆっくりと帝都に進めていく。
帝都は国境沿いの壁に近い巨大な城壁に守られている。
一般市民が住む城壁の外に広がる背の低い建物が並ぶ市街地、第一の城壁の内側には貴族や高級店、第二の城壁内部に皇帝縁の貴族の別荘と王城がそびえている。
正攻法で挑めば、その壁を破るために大きな犠牲を払わなければならないだろう……
市街地は静まり返って……いない。
すでに毒電波対策を商会の商品に紛れて市中、大陸中に設置しており、人々の洗脳は薄くなっている。
帝国の悪逆非道な行動を避難する声も日に日にまして、俺達は喝采を持って受け入れられている。
不利益にはそれ以上の利益を持って報いればいい。
この大陸に無数にいる危険な魔物を資源として考えれば、俺達の商会は無限の資本があるようなものだ。それを惜しみなく提供する。
一部の人以外はおおよそ人間らしい生活も出来ずに、一日の生にも不安で暮らしていた人々に安心を提供すれば、当然喝采をあげたくもなる。
今まで長い間、一部の貴族以外に国は何もしてこなかった帝国では、一般階級の国民の無理やり抑え込まれていた不満に火をつければ燃え上がらるのは早かった。
もちろんその火種に丁寧に燃料を蒔いてそこら中に撒き散らかしたこちらの情報部隊の功績でもある。
協力者のおかげで街中も堂々と行軍し、我らを迎えるように第一の門が開く。
「ここからが本番だ……」
貴族たちの間にもこちら側に立っている者も多い、しかし、それはこちらが有利な間だけだ、これからは勝たなければいけない。
門を抜けると美しい街並みと、整えられた道がまっすぐと城を守る最期の壁まで続いている。
「敵影はありませんね……街中にもその気配はないようです」
「そうだな……マーチ、次の門も開くのか?」
「帝国側の動きが迅速でなければ……」
「そうか、急ごう。多少は危険もあるかもしれないが……」
どうしても都市部を侵攻すると隊列が長くなってしまい、街からのゲリラ的な攻撃に隊の横っ腹を晒すことになってしまう。
十二分に警戒をしているが、今のところは驚くほど順調にすすめている。
「門からの合図が……ありませんね」
「これ以上近づくと城壁からの射線に入るな」
「どうしますか?」
「ロカ、ジルバ……3人でこのまま門まで接近する。
いざとなったら門をぶち壊すぞ!」
「わかったのだ!」
「仰せのままに」
この間の十本刀との戦闘で、随分と魔装具が弱体化してしまった。
そのかわり、ロカもジルバも十分に成長してくれている。
たとえ見上げるほどの城門だろうが、二人の協力が有れば恐れることはない!
「やはり開かないか……門の向こうの気配が読めないのが不気味だが……
行くぞ二人共、合わせろよ」
「わかったのだ!」「はい!」
「攻城の行 至伝 破城斬!」「「合わせ破城斬!」」
3つの斬撃が合わさり、巨大な一つの破城鎚となって城門に叩きつけられる。
門が軋み、ついには4片に切り裂かれる。
ガラガラと大きな音を立てて門が崩れ落ちる。
「……人の手でこの門を斬るか……化け物どもめ」
崩れた門の向こう側に広がる大きな庭園には、最期の帝国兵が犇めいていた。




