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第五十六話 洗脳

 帝国は……本当にダメダメだった。

 小規模の戦力を嫌がらせのように向けて、大敗しては撤退。

 装備と数でしか戦ってこなかった帝国が、完全に外部への入り口を把握された結果、戦力の逐次投入という最も愚かな戦法を取ってきた。

 しかも、もしこの方法を有効にするなら、間断なく持続して戦闘を連続させ、こちらが少数であることを利用して疲弊させればいいのに、バカ正直に午前中に攻めて午後には撤退。数日したらまた攻めてくるなんて戦術を取るので、今ではすっかり新兵の訓練に利用させてもらっている。


 現状、この状態で我々の商会が行っているのは、帝国領土外での慈善事業兼物資補充だ。

 魔物退治を積極的に行い、人々の生活圏の安全を確保、人食いやキカイ、人さらいなども積極的に排除し、この大陸の人々へ恩を売る。

 もちろん兵たちの訓練や様々な素材の確保という理由もある。

 その素材や食料を提供すれば人々は感謝を口にする。

 商会に参加したいという人も増える。

 十本刀の二人も回復し、ガルラ族との橋渡しも引き受けてくれた。

 砂漠の環境で最も困る食料の安定供給を破格で請け負ったのだから、過去の確執の解決は時間の問題だ。

 もちろん他の商会は面白くないが、そこはマーチ、高値で商品を買い、安く素材を卸すことで子飼いのような状態にしてしまう。

 帝国を封じ込めている間に大陸での影響力を増していく。

 王国の内紛にも介在して、王一派に恩を売るのも忘れない。

 

 帝国内部も一枚岩ではない、中央集権が過ぎたために、地方都市は疲弊している。

 帝国制に疑問をもつ地方貴族をつぎつぎと籠絡して、帝国自体の力も削いでいく。

 農作物や家畜が豊かという最大の優位性を、最高の魔物素材によって胃袋を支配していく。

 奴隷解放を受け入れてもらうのには時間はかかっている。

 産まれたときから当たり前のように存在しているものは、疑問さえ持たない。

 そういった人々を根気強く説明していく。

 もちろんどこに対しても寛大ではない。

 腐りきった陣営を引き入れれば、こちらの組織が腐ってしまう。


「奴隷解放だと!? 何をたわけたことを!

 奴らは奴隷だ、人間ではない! 

 貴様らも家畜を食う時に家畜の身を案じたりはしないだろう?」


「よくある理論だが、彼らは明らかに家畜ではない、奴隷になるためにも産まれてきていない、貴様らが不当な方法で拉致して、不当な手段で奴隷化している」


「この世界は弱肉強食だ! どのような手段であれ捕らえられる方が悪い!」


「なるほど、そうだな、法があるわけではない……」


「フハハハハハ!! 正義の味方でも気取ったようだが、我らこそが正義なのだ!!」


「正義? そんな物を掲げたつもりはねぇ、俺は、俺が気に食わねーことをぶっ潰してるだけだ!

 お前らの言う力も使う……なあに、弱肉強食なんだろ?

 お前らが正しいなら、力で示してみろよ!」


「なっ、ちがっ……奴らは産まれながらの奴隷!

 我らに使われるためにひゅ……」


 小賢しい貴族様に剣を放り投げる。

 俺も席を立って剣を抜く。


「口じゃなくて、力で示せよ弱肉強食だろ?」


「や、野蛮人がぁ!!」


 ……時には剣を振るう。人も斬る。



 そう、正義なんかを振りかざすつもりはない。

 俺は、俺のやりたいことをするために行動しているだけだ、それが結果として一部の人間からすれば善行に見えるだけだ。

 帝国から見れば、悪逆非道な行いになる。

 立場が違えば簡単に変化する正義なんて、口にしだした瞬間から汚されるもんだ……

 

「ま、ずーーーっと、口にし続ける馬鹿もいたが、あのマネは出来ねーな。

 俺は、自分勝手に生きることしか出来ない」


 半年もすれば、俺達の戦力は単純戦力で帝国を凌駕した。

 不可侵な存在と考えられていた帝国、その中身は張子の虎だった。


「なるほどね、一定の電波を流し続けて、様々な媒体からサブリミナル効果を発揮していたと」


「我らのシステムによる自動的な防御が続くことで、意識の底に植えられた棘のような思考が回復し、事実に目を向けられるようになっていたみたいですね」


「毒電波って本当にあるんだな……」


「なんなのだそれは?」


「いや、一部の心の病気の奴らが言う戯言だと思っていた」


「電波自体が直接作用するのではなく、様々な機械に干渉して視覚や聴覚から気が付かないうちに情報を取り込まされて思考操作されているようです……」


「凄いシステムだな……そういった機能に特化したプラント構成と、安全な土地が組み合わさって帝国という国の土台ができたのかもしれないな」


「しかし、なんでフッコ族至上主義なんて取ったんですかね?」


「まだ確定はしていませんが、フッコ族はこのやり方に他の種族に比べて入りにくい可能性があります」


「もしポポの言うとおりなら、かなり陰湿だな」


「ポポ。対策は出来ているのかい?」


「基本的に時間のかかる方法なので、直ぐに洗脳されるたぐいではありません。

 ただ、実際に帝国と戦う場合、即効性のある洗脳電波のようなものが存在している可能性があるので、そういった電波、電磁波を防ぐ素材を現在の装備につけていく形で開発しています」


「さすがはポポだな。俺たちも完成次第身につけるようにしよう」


 帝国の弱さの謎も少しづつわかってきた。

 俺たちは、出来ることをしっかりとやって、気持ちのいい奴らが不当な扱いを受けないように、進んでいく……

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