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第五十五話 方針決定

「ふぅ……」


 少しだけ風味の付いた白湯を呑むと、腹が急速に動き始める。

 ゆっくりと染みこませるように白湯だけで我慢する。


「あの二人の縁者たちは今は元気なんだな?」


「発見時は酷いものでしたが、今ではすっかり元気になって、二人の回復を心待ちにしています」


「酷かったのか?」


「ええ、二人が最期、命を賭した技を出させるために……爪を剥がす悲鳴を聞かせたり……」


 それからは、聞くだけで腸が煮え繰り返すような拷問の数々、それを聞かされながら二人が戦っていたことを思うと……


「すでに二人の奴隷装具も破壊しました。

 死亡していたのでその隙に外せました」


「蘇生が必要な状況だったのか……危なかったな」


「ウイジス殿は外傷だったので、まだ良かったですが、ファルマ殿はとにかく熱によるダメージが酷く、本人の生命力のおかげですね……奥様と子どもたちの声が届いてくれて本当に良かったです」


「最期の技……俺も極伝まで使わざるを得なかったからな……」


「師匠、最後の瞬間は何が起きたのですか?

 穴が空くほど映像を見ましたが、青い炎が上がったと思ったら二人の姿が消えたとしか……」


「そうだなぁ……身体が調子戻ったら、話してやるよ」


「極限の戦いをこの目に見たのだ……」


「パリザンとの戦闘見せてもらっていいか?」


「すみませんが、その前に現状の帝国との方針を話し合ってもよろしいですか?」


「ああ、その通りだマーチ、後にしよう」


 ずれかけた議論を元に戻した。


「内部から砦を落として、現在は帝国内部に陣取っているんだったな」


「はい、帝国の歴史的な敗走、そして、帝国の封じ込めに成功したことを広めています。

 王国も今だ内戦中ですが、一定の協力、不可侵の秘密条約は結べています」


「帝国の反応は?」


「それが、驚くほど静かですね。

 これだけ馬鹿にされても勝てそうにないかもというだけで……

 正直、なぜ今までどこの組織もまとまった抵抗してこなかったのか不思議でなりません」


「帝国には逆らってはいけない、となぜか考えていたのだ……」


「大陸各地でも、この状況になっても未だに帝国には手を出さないと、協力を得られぬ街も多いです」


「妙だな……」


「ゲイツの言う通り、少なくとも十本刀が、あの二人と並ぶ実力者なら、相手にもならないはずなんじゃがな」


「本来は人質を取ることさえ出来ないはず……何か種がありそうだな」


「戦術や戦略的なお話を受けたときも思ったのですが、正直、以前から組織的な抵抗も出来たはずだよな……と考えます。

 そう今なら考えるんです……なぜ今まで考えなかったのか……」


「もしかして帝国の王の力は思考操作……」


「少し分析してみます」


「だったら俺の持つ知識は話しておくから参考にしてくれ」


 ポポが席を外す。後は解析を待つべきだろう。

 確かにそんな物が想像できるのは俺が過去の世界で一部国家や巨大企業による情報操作や思考誘導で大問題になったことを知っているからだ。

 情報媒体から視覚情報、聴覚情報、特殊電波を組み合わせた思考操作……

 もしそれを利用しているなら、帝国は虚像の大国かも知れない……


「でも事実として大量の奴隷によって成り立っている点は許せません」


「そうなのだ! 卑怯者なのだ!!」


 人質、しいては奴隷の扱いの一部を見て、ロカ達、俺達の商会の人間の帝国嫌いには磨きがかかっていた。

 俺自身も、人間至上主義などというくだらない考えのもとに多種族をもののように扱うような国家は許せない。

 もちろん、積極的に滅ぼしに行くようなことはしないが、売られた喧嘩はきっちり買ってやる。


「潰すか」


「わかりました」


「軽いなー」


「もう、ゲイツ様にはお休みいただいていても、負けると思えません」


「そうなのだ、何度か奪還部隊も攻めてきたけど、敵じゃないのだ!」


「……まぁ、次に打ってくる手は想像に易いな、パルザン達が手を回してるんだろ?」


「ポポ様と協力してすでに奴隷装備を解除する装置の開発は終盤じゃ」


「ゲイツ様、もし本格的に帝国を落とすなら、宣戦布告をはっきりと行いましょう」


「そうだな、降りかかる火の粉を払うだけでは終わらせない……

 しゃーない、覚悟を決めるか」


「ところで、ゲイツ。

 もし帝国を落としたとして、その後どうするのだ?

 帝国の新たな皇帝として起つのか?」


「……できれば安全な帝国領を開放したい……」


「国家解体ですか……」


「でも、統治とかそういうものは……性には合わねぇ、合わねぇからと言って投げ出して良いもんじゃないこともわかっている。

 勝手にかき乱して、ハイ終わり、それも嫌だ」


「帝国の人種差別主義をぶっ壊して、今いる人々に悔い改めさせ、魔物の少ないこの地を多くの人々に開放する……うん、良いじゃないです。英雄譚っぽいですね」


「いや、別に英雄とかそういうものは……」


「この場合は必要なんですよ、多くの人々に支持され、行動を正当化させるストーリーが……」


「十本刀と互角の戦いをし、多くの人々が不当に扱われることに心を憂いたゲイツ師匠が、世界を救うために帝国と戦うのだ!」


「ここに結びつくことで、今まで慈善事業だった仕事も大きな意味を持ちます」


「ほっほっほ、こりゃゲイツも、いや、ゲイツ殿も腹を決めねばなりませんな」


「……まったく、なんで俺がそんな立場に……ええい、やるよ、やってやるよ!

 ただ、山には登るからな! それは絶対だ!」


「国家運営に携われるとは、楽しみです」


「安定した拠点を持てればもっと開発が進む、それに帝国の王の力を取り込めば……ふふふ……」


「帝国の民がどうでるか……場合によっては……修羅の道もあり得る、覚悟はしておく」


 これから歩む未知は、血塗られた修羅の道か、喝采を浴びる英雄の道か……

 まだわからない……







ストックが枯渇しました。

のんびりとお待ち下さい。

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