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第五十三話 炎

 瞬間的に移動してみたが、きっちりとついてきている。

 自分自身の力と見つめ合ってその使い方を見出すってのはすげーことだ。

 

「お前の剣は我流か?」


「いんや、師はいるぞ」


「そうか、いい師匠だったんだな」


「ああ、殺したいと思ったことは数限りねぇけどな」


「ハハハッ! 奇遇だな、俺もだ。

 どこも弟子は苦労するもんだな!」


 軽口を叩きながらもえげつない音をさせて大剣同士がぶつかり合う。

 払い、振り下ろし、突き、かち上げる。

 相手を少しでも崩し、自分の剣を相手に突き立てる。

 お互いがそのために精神を削りあい剣の応酬をする。

 捌き方一つミスは許されない、お互いに王手を指し続ける、まるで将棋だな。


(それにしても……少しは手心加えろよな! 

 今コッチは必死でお前らの人質探してるんだからよ!

 これ以上は……事故が起きても、恨むなよ!!)


 喉元に迫る剣を払い落とし、回転するように胴を払いに行く。

 剣の切っ先が真紅の鎧を薄皮一枚剥がしていく。


「まだ……早くなるのか!」


「お前が、早いから、こっちも食いついていくしかねーだろ」


「正直驚いたぜ……チッ……こんな時に……

 うるせーな! だったらてめえらでこのバケモンどもどうにか出来んのか!?

 ああ!? だったら黙ってみてろ! こっちだって必死なんだよ!!」


「なにやら大変そうだな? なんなら帰ってもいいぜ?」


「そうできりゃー良いんだがな……」


「そうか、()()()()は相手をするしか無いか」


「!? 怖い怖い……ウィシスの相手も互角……世界は広いなぁ」


「ああ、そう思うぜ」


 爆炎の一撃がお返しとばかりに俺の胴体を寸断しようと迫る。

 この爆炎、変に受けると身を喰らいに襲いかかってくるからたちが悪い……

 斬撃で巻き上げた風で炎の通り道を作ってやり、翻って反撃を入れる。

 一撃一撃で繊細な操作を必要とする。

 

「なんなんだよその武器は!」


「いや、こっちのセリフだ! 何普通に俺の攻撃を捌いてんだよ!」


「必死だっつーの!」


「そ、そうか……へへっ」


「へへっ……じゃねーよ!」


 可愛いセリフと全く結びつかないえげつない攻撃、確実に命を切り落とす攻撃をよくここまで連続して振るってくるもんだ……

 爆炎をまとっているので雑な攻撃かと思ったら、丁寧で正確、綺麗な攻撃をしてくる。

 その速度と膂力が人並み外れているから恐ろしい攻撃力を秘めている。 

 だからといって攻撃への対処が疎かになるようなこともない、こちらの攻撃に対しても最適解で返され続けている。

 天賦の才はあるのは間違いないが、積み重ねてきた鍛錬の厚みを感じる。

 その根本にある師の教えがよほど素晴らしいんだろう……

 悔しいが、俺の中にも、そういったしっかりとした根をが生えている。

 俺は、ロカやジルバの中に、きちんと根付かせることが出来るのだろうか……


「おいっ!!」


「!!?」


 アホか俺は、なに戦い中に余計なことを考えた……

 もし、今声をかけられていなかったら、胴体は2つに分かれていた。

 

「やるな……」


「くっ……降伏はしねぇのか?」


「なに勝った気になってる?」


 俺は受けた剣を弾き返す。

 脇腹をざっくりと裂かれたが、筋肉に力を込めて無理やり塞いで、出血は止める。

 糞みたいに痛いが、未熟な自分への戒めとなる。


「まだまだ、こんなもんじゃねーだろ?」


「けっ……しぶてぇ野郎だ!」


 ああ、こいつ、根は優しい奴だ。

 手を抜きたい気持ちと、人質の安全を天秤にかけながらも、容赦ない攻撃を繰り返してくる。

 一撃一撃が芯に響いて痛みで気を失いそうになるが、その全てを帝国への怒りへと変えて溜め込んでいく。ま、俺が悪いんだがね……自分を戒める。

 全身に気を巡らせて、文字通り気を張って相手をする。


「おいおい、斬られてからのほうが動けるとかどうなってんだよ!」


「泣いちゃいたいぐらい痛いの我慢してるんだよ!」


「全く……とんでもねぇ奴らだな、俺もウイジスも敵なしと呼ばれた十本刀の看板背負ってるんだが……なっ!」


 あいての剣筋は全く衰えない、ギリギリで身体を反らして避けると傷口が開いて泣きたくなるが、すぐに力を入れて気を張る。

 

「十本刀、二人がかりなら俺もすぐ死んでたな。

 いい仲間が出来て幸運だったと神に感謝するぜ」


「あのじーさんも何者だよ……ウイジスとこんだけ打ち合えるとか……」


「余裕がなくて見られないが、俺なら打ち合い続けるのは無理だな。

 あんたと打ち合ってるほうが気持ちいいぜ」


「そりゃどうも、しかしなぁ……

 もう()()()()()()()()」 


「そうか……」


 どうやら、あっちの引き伸ばしも限界が近いのか……

 

「仕方がねぇ、ひでぇ反動があるから使いたくなかったんだが……」


 死ぬなよ……

 声にならない声が聞こえてくる。

 大剣がより巨大な炎を上げ、ファルマの全身を真っ赤に照らし出す。

 

「極炎の技……燼火蒼炎!」


 炎が収束し、真っ赤な炎が白く、そして青く変わっていく……


「おいおいおい……そんなこと可能なのか!?」


「運が悪けりゃ俺も死ぬ……それでも、お前を殺さねばならない!

 恨みはねぇが、死んでくれ!!」


 剣を持つファルマの皮膚や髪がブスブスと焦げていく……

 身にまとう布も火に巻かれていく。

 身を焦がす熱波が打ち付けてくる。

 アレは絶対にやばい……受けるわけに行かない……

 どうする……!?


『師匠!!』


 ファルマの一太刀が輝き出す。

 俺は、剣を捨てた。



 




 




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