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第四話 森の奥

「アクワンっていうか、豪腕だなこいつは!」


 目の前を巨大な腕が通過して、その道筋に存在していた木々をまるで何もなかったかのようにへし折っていく。

 すでに周囲の多くの木々がなぎ倒されて森林破壊が起きている。

 アクワンは脚だけではなく、腕も利用して時に木々を掴み、時に大地を掴み、押し出し、森の中を縦横無尽に飛び回って仕掛けてくる。

 なるほど、森の中でこいつに出会ったら、かなり相手をするのが大変だ。

 たぶん、平地で相手をするのなら、突発的な突進に気をつけていけば対応可能だ。

 特に砂漠ではこいつ自身の巨体と重量が邪魔をするだろう。

 だが、ここではこいつの能力が遺憾なく発揮されている。

 それでも、見切れないほどじゃない、俺に数々の攻撃を避けられて、だんだんと攻撃が雑になってきている。

 

「力任せの戦い方じゃあ、俺には勝てないぜ!」


 随分と目も馴れてきた。

 ゴウッと唸りを上げて振られる腕に軽く剣を添わせてやる。

 体表の毛は硬く刃を弾きやすそうだ、それに皮も硬い、腕の太さは伊達ではなく、筋肉が詰まっている。

 すれ違い、アクワンは自らの腕が斬られたことに気がついた。

 ブシュっと血が吹き出ると出血はそこまで、たぶん、初めて自分の血で自慢の腕が染まったんじゃないかな? 不思議そうに自分の腕を見つめている。


「赤腕になったじゃないか……なぁ? アクワンさんよ!」


 斬れることは、確認したら、こちらからも出張ってやらないと、お客さんに飽きられてしまう。

 飛び込み斬りつけるとアクワンは両手で大地を叩きつけて、後方へと飛ぶ。


「ウゥゥゥゥ……ガアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!」


 空気が震えるほどの雄叫び、アクワンの顔が怒りで歪み、真っ赤になっている。


「おおっ……怖っ! だが、それはいただけねぇなぁ……」


 考えなしにただ飛び込んで奮ってきた腕を、さっきよりも強めに斬る。

 バッと血が舞い散る。


「つまんねぇなぁ、その程度で冷静さを無くしたら、戦いになんねーぞ……って……」


 振り返る俺の背後に、木の上の猿どもが投石をしてきた……


「ちっ……興ざめだ……」


 そして、アクワンは逃げを打とうとしている。

 ご丁寧にロカにも投石は仕掛けられている……

 

「『瞬身』」


 この世界に来てから、体の異常がないか確かめながら戦ってきたが、どうやら問題なさそうなので身体技術(アーツ)を使う。

 周囲の速度が遅くなったような感覚になり、その中を俺は走る。

 投げられた石を叩き落とし、猿どもの首を刎ねる。

 逃げ出そうとしているアクワンの正面に回り込んで……


「つまんねぇな、お前……『気斬』」

 

 刀身に気を纏わせ、頭蓋のてっぺんから、身体を真っ二つに一刀の元に切り伏せる。


「あ、ガ……が……」


 次の瞬間、木々の上の猿ども、そしてアクワンが血しぶきを上げて大地に伏せる……


「途中までは良かったんだがな……」


 アーツを使った反動もない、魂が削られるような感触もない。

 どうやらこの世界でも今まで通り使用できるみたいだ。


「ま、初伝程度じゃわかんねぇか……」


 ロカはどうやらアクワンの雄叫びに当てられて気絶してしまっているようなので、再び荷物に積んで俺は果実などを集めながら森の奥へと進む。

 修行の成果で、見たことがない草木でも薬草になりそうだとか、香辛料になりそうだとか、毒があるとかはわかる。勘みたいなもんだが、自信はある。

 事実いくつかの木の実は独特の風味があってスパイスとして使えた。

 

「……あれ、私……」


 昼の準備をしているとロカが匂いにつられて目を覚ました。

 

「起きたか、ほれ、なかなか旨いぞ」


 途中で小石で射落とした鳥を、香草と焼いて果汁ソースで味付けしてみたが、意外に上物になった。

 大きな葉を皿代わりに、木の枝を刺して火を通した。

 食うときも枝を持てば喰いやすい。

 一口食べると、そりゃあもう嬉しそうな顔であっという間に平らげた。

 旨そうに食ってくれるから、作った方も気分がいい。


「なんなんだあれは、あんなモノ食べた事がないぞ!」


 食事の後もロカは上機嫌だ。

 あんなに怯えていたのは何だったんだ……


「しかしゲイツは何者なのだ? 剣でアクワンを倒すものなど……ああ、城の10本剣ならできるかも知れないが……」


「また新しい名前だな10本剣、そいつらは強いのか?」


「ああ、ガルラ族の中で特に強い10名だ。

 我らが王であるガルラを守っている」


「ガルラ族の王様の名前もガルラなんだな」


 今まで出てきたのはロカ達ガルラ族、俺みたいな人間がジャッキ、魔法を使うピープの民とフォクシの民、だな。


「なぁ、ピープの民とフォクシの民ってのはどんな種族なんだ? あと、ジャッキたちについても教えてくれ」


「……ピープの民は力はないが、器用で賢い、強力な魔法を使う。西の湿地帯に多くいる。

 不思議な石のついた杖を好んで使う。

 フォク師の民は島の中央の山岳地帯に暮らしている、魔法も使えるし、弓や短剣を好む。

 ジャッキは……北の平原地帯が中心だが、色んな場所に居る。

 賢く、器用だ、ただ、ずる賢くも有る。

 特に南西の帝国……ジャッキ以外を悪魔として奴隷にする!

 南東の王国連合の王もジャッキだが、悪くないやつだ。多くの種族が集まる大きな国、帝国と戦っている。ジャッキは古代の遺跡の古き叡智を扱える。だから……強い……」


 悔しそうだな。どうやら種族としての強さと言うよりは、道具をうまく使って強いんだろう……


「ありがたい、俺も勉強になった」


「いや、ゲイツはジャッキではないジャッキだ!

 あんなに剣で戦える強いジャッキを私は知らない!

 もしかしたらガルラの上級戦士に匹敵するかも知れない!」


「それは楽しみだ」


「ああ、私もゲイツという勇者に出会えて本当に幸運だ」


 そんな会話をしながら森を歩いていると、水の音が聞こえてくる。


「水があるのか……?」


「なに!? 水は貴重だぞ! 水が有れば長になれる!」


 水音を頼りに進んでいくと、そこには驚くべきものが存在した……


「な、なぜ……? 宇宙船がここに……?」


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