第四十二話 女王陛下の元へ
それからしばらくホーシツの街を中心に活動を行う。
とにかく毎日目まぐるしい。
紹介参加希望者を選定したり、復讐してきたバカどもを懲らしめたら愚連隊を引き連れてきたので愚連隊の本部に殴り込みをかけて、何故か流れでもう片方の愚連隊も潰したりした。もちろん3人でだ。
優秀な人材も少し居たので、商会に取り込んだ。
ジーンの有能さはマーチも驚くほどだった。
スポンジが水を吸うどころではなく、スポンジに水を吸わせたら自動洗浄機になったくらいの働きをしている。
愚連隊も馬鹿な輩だけでは組織は運用できない、組織の頭脳となる人物たちは非常に優秀な人物も居た。商会の設備を見て積極的に参加を申し込む人間も少なくなかった。
基本的には来る者拒まず、去る者追わずの精神で人集めがようやく出来るようになってきた。
寒冷地から一緒に来た人達は、悪辣な環境から救った面があるので、一生懸命やってくれるが、これからは選択肢の一つとして商会に入るので、変な人間も冷やかし半分で来る可能性もある。
あまり腐った人間を入れると、組織はそこからだめになる。
「すべて、マーチの受け売りだ」
「ゲイツ様、真面目に面接してください」
「いや、マーチが話してオーケーなら大丈夫だろ」
「いや、ゲイツ様の勘が最期の決め手なんです」
「そんなもんかねぇ……」
「そんなもんです」
「本音は?」
「本音です」
「……わかった。後3人だな」
不思議なもので、マーチがOKを出して、俺がなんとなく嫌だと感じた人間がいた。
不採用としたが、後々、俺達の驚異にいち早く気がついてライバル商会が送ってきたスパイだとわかった。有能なのは当たり前だ。そういう時に俺の勘が役に立つとわかってしまい、この仕事はずーっとやることになった。実際に目の前にいて肌で感じないとわからないからな……
そんな感じで、ゲイツ商会は成長し、名前を売っていく。
ホーシツの街を出る頃にはすでに店舗を順調に運用できるようになっていた。
次に向かうは湿地帯ピープ族の首都、女王陛下のいらっしゃるクイーンパレス。
湿地帯と言ってもある程度の道は整備されている。
特に大きめな街と首都は木々は伐採し、道は固められている。
比較的安全に行き来できるので、さらに道を中心に人々が暮らしていく。
「こういう道路はピープ族の女王様がひかせてるのか?」
「いえ、女王クイーンピープは……お言葉が話せませんから」
「そうなのか、じゃあ国としてしっかりしてるんだな」
「いえ、女王陛下をお世話しているのはなんというか、ボランティア?
別に権力はありませんよ。
始祖の母である陛下には穏やかに暮らして欲しい、ただそれだけで、道は商人たちが勝手に作ったりして、少しづつ拡張しているんです」
「ホー……なんというか、珍しいんだよな?」
「ええ、なんだか我々は女王陛下がいらっしゃるだけで、どんなに辛くても心の安心が得られるので……仕送りというか、援助しているピープ族も多いんですよ。私も少ないながら援助させていただいております」
「ふむ、愛されているんだな……
そういう集団の成り立ちで国が立っているってのも……面白いと言うか、悪くないな」
「そうですね、そのせいかピープ族はあまりこの地にこだわりを持ちません。
女王陛下がいらっしゃる場所として大事にはしていますけどね」
「なるほどな……本では学べない話だった。ありがとう」
「いえいえ」
こんなふうにずーっと穏やかであればよかったがそうは行かない。
「ゲイツ様、一応聞きますが、助けに行きますか?」
「一応答えるけど行くぞ」
もう向かってるくせにマーチは聞いてくる……
街道から少し外れた小規模な村が……襲われている……帝国兵に。
「人間同士で争ってる暇なんてあるんかね」
「奴隷は使い捨て、足りなくなったから補充している。その程度の感覚なんでしょう奴らは」
「ゲイツ師匠帝国兵は100名前後、村の住人は50人といったところです」
「なんとか防壁で防いでいるが、もう限界だな……ぎりぎりでも良いから発射だ、意識をこっちに向ければいい!」
「ステルスオフ、攻撃開始!」
走りながら一斉射撃が村に襲いかかる帝国兵に降り注ぐ、無理な遠距離攻撃で威力は出ないが、それでも一部に損害を与え、こちらに意識を向けることは完全に成功する。
「師匠! 討って出るの……か……?」
「ああ、ゲイツ師匠もう出てるじゃないか! ずるい!」
『悪いな、最近暴れてねぇからな! お先!』
俺はこっそりとトレーラーを抜け出して疾走っていた。
最近裏方仕事に回って身体を思いっきり動かしてねぇ……
「一応刃をひいた剣使ってやるけど、死んだら運がなかったと思えよ」
迫ってくる帝国兵を打ち倒していく。
相手は殺しに来る。こちらも手加減はしない。
弓矢や銃弾でこちらを狙うが、他の帝国兵が邪魔で思うように狙えていない。
混乱する兵たちの中に入り込めば、四方から狙われるが……
「進み続ければ3方だ!」
壁を破壊するために密になって集合していたことが仇となってうまく対応が取れていない。
「師匠に全部やらせるなー!」
後ろが騒がしくなってきた。
ようやくロカとジルバが追いついてきた。
「あいつか!」
位置取りからもどうやら隊長格であろう兵士を見つけた。
「何者だ!!」
「通りすがりの……戦闘狂だよ」
軽く牽制のつもりで打ち下ろした剣は、相手の受けた剣を押しのけて相手の頭頂を打ち付ける。
「がっ……」
「え……?」
「隊長がやられた、引け引けー!」
「え……?」
それから帝国兵達は本当に引いていってしまった。
あまりに弱い隊長、そして、妙に素早く退却していく兵たち……
あまりにも弱い隊長さんのそばで、俺はあっけにとられて立ちすくむしかなかった……




