第四十一話 ジーンとの出会い
商会の人員で魔物の解体作業に移る。
危険がなく助けられる人間は助けられる範囲で助けるが、人食いや抵抗する相手に対しては容赦しない。最終的には穴に遺体を放り込み、火を放った後に埋めることになった。
長命種の巨大な魔石は俺達の武具の糧になってもらう。
大切に利用する。
大量の魔物と巨大な長命種、得られる素材の量も大量だ。
帝国兵が戻ってくるか警戒していたが、街が警戒状態だったためか、そのまま帝国方面へと帰還して行った。
海岸線沿いや山脈地帯の麓はすでに帝国兵を散見する場所まで来た。これまで以上に警戒するべきだと気を引き締める。
「今はとにかく、街との関係づくりだな」
「旦那! 人では足りてるかい!?」
いつの間にか俺の前に一人の子供が立っている。
街からはまだ応援などは呼んでいないが……
「どうした坊主、どっから来たんだ?」
そこまで話して気がついた。確かに俺はデカブツを倒したが、装備を外して作業している今、俺が長だとなぜわかったんだ?
「マーチ、この子は誰だ?」
「……いえ、気が付きませんでしたが……」
マーチも驚いている。
俺自身も、振り返れば確かに人の気配が寄ってきたのはわかったが、俺に用があると思っていなかったので警戒していなかった。
第三者が普通にここに紛れて、俺にここまで接近できるというのは、凄いことだ。
「坊主、名前は?」
「ふふん、おいらはジーン、ホーシツの街でなんでも屋みたいなことをやってるんだ!」
改めて見ると、歳は10歳前後、ボサボサの頭に布を巻き付けたような見窄らしい姿。
それとは裏腹に目に宿る光はギラギラしているフッコ族の子供。
「人手がいるならどうしてくれるんだジーンは?」
「おいらの仲間を呼ぶ、魔物の解体は得意だぜ」
俺は、ちょっと興味を持った。このジーンという少年に、マーチに目配せすると頷いてくれた。
マーチ自身も興味を持ったようだ。
「金……は、働き次第だな、お願いできるか?」
「普通は前金だけど、旦那たちには俺達の力を見せたほうがいいって勘が言ってる」
ジーンが手を挙げると、周囲の草むらから子どもたちがワラワラと湧いて出てきた。
20人以上はいる。これには驚いた。
俺は数を読み違えていた。
何人かはすでに隠形を自然に行っている事になる。
「なにもんだこの小僧どもは?」
「ん? オイラの仲間さ。みんな親がいなくて食うのに困ってたからオイラが仕事を与えてやったんだ!」
確かに、解体に慣れている専門家程ではないが、戦闘員が行うよりも早くそして鋭い解体技術を持っている。
「……気に入った。そろそろ昼飯時だ、全員の飯はこっちで持ってやる。
報酬とは別だ」
「ヒャッホー! 旦那は見る目があると思ってたぜ」
俺がマーチに目配せすると、すでにマーチの腹は決まっているようだった。
食事を貪るように食べている子どもたち、マーチは完全にジーンに付きっきりで落としにかかっている。
結局マーチはジーン達すべてを受け入れて、優秀な参謀と将来有望な部下を手に入れた。
ホーシツの街では手に入れた魔物たちの素材をお得な価格で扱ったり、いい値段でいろいろなものを補給して好意的な関係を築いていく。
さすがは大きな街、人も多いし、守りも固そうだ。
生活の質も悪くないが、ジーン達のような層も存在しており、街の一部に溜まっている。
俺たちは今その溜まり場の中心、仕切ってる奴らのいる酒場に来ている。
ロカとジルバを連れてきたので、嫌な目線や声をかけられて、二人の機嫌がよろしくない。
「よぉ旦那。派手な登場して街に来て、こんな肥溜め見てぇなとこまで来る必要はないんじゃねぇのかい? そっちの綺麗どこときれいなとこで飯食ってればいいじゃねーか……
それとも、馬鹿にしに来たのかい?」
ピリッとした空気に変わる。
なるほど一応はここいらをまとめているだけはある。
片目のガルラ族の男の印象はそんな感じ、それ以上ではない。
ジーンからの情報で、まぁ、小物であることはわかっている。
「子供の世話になって恥とも思わねぇ奴らにどう思われようが勝手だが、あいつらはうちの預かりになったと伝えに来ただけだ」
「なっ!? てめぇらジーン達をどうするつもりだ!!」
「お前らがここで腐って酒に溺れる金を、あんな優秀な奴らに稼がせているだけではもったいないからな、これからは少しは汗水たらして金を稼ぐんだな。
別に報告の必要もなかったんだが、一応は話しておく。
それと……
不当な扱いを受けて搾取されている奴ら!
うちの商会は完全な実力主義!
労働にはきちっと対価を払う!
仕事も自由に選ばせてやる!
腐ってるだけじゃなくて夢を追いてぇやつは歓迎するぜ!!」
俺たちの道具で俺の声は街のスラム街に響き渡る。
「な、か、勝手なことを!! てめぇらただで帰れるとは思うなよ!!」
「ああ、ステゴロの修行も兼ねているのだ!」
「きちんと土産はもらって帰るさ」
「殺すなよ、俺は見てるからな」
近くの椅子を取ってドスッと腰掛ける。
それが合図だったかのように、酒場を囲んでいた輩が姿を表し、俺に攻撃をかける。
それらの攻撃は全てロカとジルバに防がれる。
そして、二人の姿がかき消えるのと同時に、輩共の悲鳴が酒場に木霊するのだった……
「口ほどにもない、修行にもならないのだ……」
「ば、化け物……」
「あなた達が弱いだけです……ゲイツ師匠終わりました」
「よし、帰るか。店主、騒がせたな」
金貨をカウンターに置くと店主がペコペコと頭を下げてきた。
「マーチ、あんまりああいうやり方好きじゃないんだが……」
「まぁ、今後のためですよ。そろそろ諦めて、ゲイツ商会を宣伝していきますよ」
「……反対したい。特に名前」
「諦めてください。勇者ゲイツ商会の方がいいですか?」
「絶対に嫌だ」
「では、本日より、ゲイツ商会の旗揚げです」
こうして、俺の意思とは関係なく、自分の名前のついた組織のトップになるなんて罰ゲームみたいなことになってしまうのであった。




